楽天モバイルが悲願の「プラチナバンド」をついに獲得できそうだ。
携帯の電波で、つながりやすくてサービス品質改善の切り札になる周波数帯の割り当てを申請、他に申請者がいないことから、2023年10月中にも正式に承認される見通しだ。
契約者数が伸び悩み、赤字垂れ流しで楽天グループ(G)の足を引っ張ってきたモバイル事業は浮上できるのか。
周波数帯の再配分、総務省では激論も 折衷案で3MHzの空きを割り当て...応募は楽天だけ
総務省は2023年10月3日、楽天モバイルから、件の電波の割り当ての申請を受け付けたと発表した。鈴木淳司総務相はこの日の会見で、「審議会より計画の認定が適当との答申をもらえば、速やかに認定を行う」と述べた。
総務省は楽天が提出した計画書を審査し、割り当て後10年以内の黒字化や資金調達、基地局の設置などの計画が審査基準を満たしているか確認。10月23日に開かれる電波監理審議会(総務相の諮問機関)への諮問を経て、決めることになる。
プラチナバンドは、700~900MHz(メガヘルツ)の周波数帯で、波長が長い低周波なので遠くまで届きやすく、障害物があっても回り込む特性がある。
このためビルの陰や屋内、地下、さらに山間地など基地局の少ない地域でもつながりやすく、携帯電話に最適な周波数帯といわれる。
プラチナバンドは現在、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に割り当てられている。
楽天は2020年に携帯事業に本格参入し、3社が持つ周波数帯の再配分を求めてきたが、3社は消極的姿勢に終始した。
総務省の会議などを舞台に激論が交わされたというが、最終的に折衷案として700MHz帯周辺にある3MHzの空きを割り当てることになり、総務省は23年9月末までの1か月間、割り当てを希望する事業者を募った。
その結果、楽天だけが応募した。応募の観測もあった他社は見送り、楽天に譲った形になった。
伸び悩む契約者数、500万件にとどまる 黒字化にはあと300万件必要との見通し示すが...
楽天は契約者数が伸び悩み、足元では500万件ほどにとどまる。22年12月期連結決算(国際会計基準)のモバイル事業は4928億円の営業赤字を計上、23年1~6月期の赤字も1850億円(前年同期は2538億円)と、基地局整備の進展で赤字のピークは過ぎたとはいえ、なお高水準だ。
このため、親会社の楽天Gは資金確保のため、傘下の楽天銀行の上場、楽天証券の上場申請に相次いで手を付けた。
その動きは、J-CAST 会社ウォッチの「楽天銀行、東証プライム市場に新規上場へ...グループの財務改善がねらいか 立て直し急務の『赤字垂れ流し』携帯電話事業に『伸び代』は?」(2023年4月3日付)、「楽天証券HD、上場申請 楽天G、最大1000億円の資金調達か...財務改善は一息も、株価は低迷 課題は、あの事業の抜本的改善」(2023年8月1日付)で報じてきたとおりだ。
楽天Gは8月の決算記者会見で、契約数が800万~1000万件に増え、1契約当たりの平均単価を6月時点の2089円から、2500~3000円まで伸ばせれば黒字化できるとの見通しを示した。
実現には契約数を300万件積み上げる必要があり、4~6月期の伸びが続いたとしても黒字化に約3年かかるという。契約が伸びていない大きな理由が、つながりにくさとされる。
「つながりにくい」イメージ払拭には時間がかかる? ソフトバンクやKDDIは迎撃態勢を強化
プラチナバンド獲得という悲願がようやくかなう見通しになったが、それだけで契約が伸びる保証はない。
NTT、KDDIに対し後発という今の楽天と同じ立場だったソフトバンクがプラチナバンドを獲得したのは2012年だが、「それまでの『つながるエリアが少ない』というイメージを払拭するのに何年もかかった」(業界関係者)と言われる。
楽天も同様に「つながりにくい」というマイナスイメージを覆すのに時間を要するかもしれない。
実際に割り当てられる見込みの帯域は狭く、黒字化に必要な1000万件近くまで契約数が増えた場合、混雑して通信環境が悪化する可能性もあり、プラチナバンドのさらなる獲得に向けた取り組みも引き続き必要になる。
いずれにせよ、他社と同じようにつながりやすくなったとして、そこから楽天ならではのメリットをどうアピールできるかがポイントになる。
楽天モバイルは新規参入当初、低料金プランで挑んだが、NTT以下の大手も総務省に背中を押される形で低料金プランを提供する状況のなかで、差別化は簡単ではない。
楽天と言えば楽天市場を軸にカード、銀行、証券といったグループの金融サービスを含む総合サービスを提供し、全体をポイントで繋ぐ「楽天経済圏」を推進しており、携帯事業がその最後のワンピースという位置づけだ。
ただ、ソフトバンクやKDDIも、グループの金融サービスを利用するとポイント還元が増えるなど、「経済圏」を意識した料金プランを開始するなど楽天への迎撃態勢を強化している。
楽天Gを率いる三木谷浩史会長兼社長はどのような斬新なサービスを打ち出すのか、次の一手が注目される。(ジャーナリスト 白井俊郎)