所得税・消費税減税の声、挙がる
「『減税』に目新しいものはなく、『減税』というよりは『制度のインフレ調整と表現したほうがいいかもしれない』と指摘するは、第一生命経済研究所主任エコノミストの星野卓也氏だ。
星野氏はリポート「今年の経済対策の注目点~高まる『減税』議論を整理する~」(10月5日付) のなかで、岸田政権の「経済政策」の柱と想定される項目の【図表】を掲載しながらこう説明した。
「9月末の岸田首相の会見内容をみると、(減税に)あまり目新しさはないように思われる。会見で例示したものは、賃上げ税制の減税制度の強化、特許などの所得に対する減税制度の創設、ストックオプションの減税措置の充実の検討。強化・充実という言葉からも明らかなように、賃上げ企業やストックオプショ ンへの減税措置はすでに実施されている。このほか、研究開発減税や設備投資減税なども措置済みだ。
注目しておきたいのは首相会見後に、各所から所得税や消費税の減税を求める声が挙がっていることだ。これまでの措置は設備投資や賃上げなど一定の企業行動にインセンティブを与え、法人税や固定資産税などにおける期間限定の軽減措置として行われてきた。所得税や消費税などが減税対象になれば新しい動きとなる」
ここで星野氏は、所得税や消費税の減税が可能かどうか分析する。
「消費税については『社会保障財源への紐づけ』を背景に、政府はこれまで度々減税に否定的な考えを示しており、実現のハードルは高そうである。所得税も暦年課税であるため、平時のスケジュール感であれば2025年からの減税開始となり、タイミングが遅れることになる。一方、物価高の中で所得税のブラケット・クリープ(インフレによる名目所得の増加で、限界税率が高まること)への対応が必要になっている、という意見もあり、この点については十分な合理性がある」
所得税の課税最低限やブラケット(各税率が適用される年間所得の金額)は名目の金額で固定されているため、物価と賃金が同率で上昇した場合、所得税額はそれ以上の比率で増える。この現象を、ブラケット・クリープと呼ぶ。
現在、物価上昇が実質賃金を上回っているため、所得税が増えることが問題になっており、その是正が急務になっているのだ。そこで、星野氏は、こう結んでいる。
「物価や賃金が上がれば、低所得者/高所得者の線引きも変わっていくため、税率の変化する所得の閾値(いきち/しきいち=境目となる値)を見直す必要があることは確かだ(減税というよりは、制度のインフレ調整と表現したほうがいいかもしれない)。
今回の経済対策で具体的対応が図られるかは不透明だが、次の税制改正大綱で課題として取り上げられるなど、将来の改正を示唆する形になる可能性は十分あろう」
(福田和郎)