岸田政権「減税」アピールに、エコノミストが指摘 「景気刺激に必要ナシ」「減税というよりインフレ調整」

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国民の人気取りのバラマキ的な政策

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岸田文雄首相

   こうした「減税」の流れ、エコノミストはどう見ているのか。

   野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、リポート「減税が焦点となってきた経済対策:税収の上振れ分を減税で国民に返すべきなのか?」(10月5日付)のなかで、こう指摘する。

「減税議論が高まってきたことで、経済対策は、一段と選挙をにらんだ政治色が強いものとなっている。そして、国民の人気取りのバラマキ的な政策が強まっていると言えるのではないか。
日本経済全体の需給関係を示す需給ギャップ((実際のGDP-潜在GDP)/潜在GDP)は、内閣府の最新の推計値によると2023年4~6月期にプラス0.1%と、2019年7~9月期以来、3年9か月ぶりにプラスに転じた。金額で見れば年率1兆円程度である。
政府・与党は、過去の経済対策で、マイナスの需給ギャップの存在を経済対策が必要であることの根拠としてきた。マイナスの需給ギャップを穴埋めするために、その規模に匹敵する規模の経済対策が必要との議論である。
この議論に照らせば、現時点では、減税などの景気刺激策は必要ないはずである。しかし、大規模な対策を実施することで国民にアピールし、選挙結果に繋げていくことを画策する向きは、大規模経済対策を正当化する根拠を、従来の『需給ギャップ』から、今回は『税収増の還元』へとすり替えている」

   需給ギャップとは、簡単に言うと、一国の経済全体の総需要と供給力の差のことで、マイナスになるということはデフレ傾向になるということだ。だから、景気刺激策が必要になるわけだが、現在はプラスに転じ、インフレ傾向になり始めている。

   そして、税収増を国民に還元することに対しても、木内氏はこう問題視している。

「近年は、税収が見込みを上回る傾向があることは確かである。2022年度の税収は71.1兆円と当初の見通しよりも6兆円ほど上振れた。
それだからと言って、減税措置や歳出拡大が正当化されるわけではないだろう。国民が享受している政府サービスである歳出額を、国民負担が中心の歳入額が上回っている場合には、取り過ぎた税金を国民に返すという選択肢が出てくる。
しかし、現状は、歳出額が歳入額を大幅に上回り続けており、享受する政府サービスに見合った負担を現在の国民が十分に負っていない状況である。そうしたもとでの税収の上振れは、財政赤字を穴埋めし、新規国債発行を少しでも減らすことに使うのが筋だ」

   そして、こう結んでいる。

「中長期的な経済、金融市場、国民生活の安定のためには、政治的思惑を排して、財政規律に十分配慮した形で経済対策を策定することが政府には求められる。財政規律を損ねる形で、政府が国民受けを狙ってバラマキ的な政策に傾くようであれば、国民がそれをしっかりとけん制することが期待される」
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