冬の時代を迎える消費者にとって、100円ショップは「希望の光」になるか?

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   街中やショッピングセンターのあちこちで見かける100円ショップを利用する人は多いだろう。

   本書「100均資本主義」(プレジデント社)は、経済学者が100円ショップの経済的側面について、真正面から論じた本だ。なにげなく買っている100均グッズの裏に、さまざまなシステムが介在していることに驚いた。

「100均資本主義」(郭洋春著)プレジデント社

   著者の郭洋春さんは、立教大学経済学部教授。立教大学前総長。専門は開発経済学。著書に「開発経済学」「国家戦略特区の正体 外資に売られる日本」などがある。

100円ショップが支える暮らし

   長く低賃金がつづいても国民が暮らしてこられたのは、100円ショップや飲食、衣料、家具などの激安ショップが存在するおかげだ、と指摘している。

   賃金が上がらなくても、100円ショップがあれば日々の暮らしに困らない。これは特異な経済のかたちであり、郭さんは「100均資本主義」と呼んでいる。

   100円ショップは、これから冬の時代を迎える消費者にとって「希望の光」になると、郭さんは見ている。理由は次の3つだ。

1 スーパー、コンビニが先に値上げするから、100円ショップの比較優位はますます強まる。
2 現在の100円ショップは安さに加え、便利グッズやおもしろグッズの魅力でも顧客を引きつけている。
3 100円ショップはもともと不況下に生まれたビジネスモデルであり、インフレには強い。

   現在の日本資本主義は、2階建てバスをイメージすると理解しやすいという。バスの2階部分は「高欲望の資本主義」であり、別の呼び方では「成長至上主義」となる。

   バスの1階部分は「低欲望の資本主義」であり、「脱成長主義」である。100円ショップと100均グッズに象徴されるから、「100均資本主義」と名付けた。

   なぜ、100円ショップは儲かるのか。実態調査をもとに、以下の5点を挙げている。

1 安くて気軽に使い捨てができるため、使用頻度が高く、消耗度の激しいものなどは、「常に新しい状態で使える=清潔・新鮮さを保てる」という価値が生まれている。
2 商品の使用機会、使用頻度が増えれば、生活の喜びも増す、という価値観が生まれてくる。
3 種類、デザインが豊富なので「選ぶ楽しさ」という期待感が存在する。
4 100均グッズを使うことで、「お弁当をかわいく作れた」など、日常生活のよろこびが増す。
5 キッチンで使うケース、ドライバー、手帳などは「薄い」「短い」という特徴が、「軽い」「持ちやすい」といったプラスに評価されている。

   また、100均グッズには、安さとは違う価値があるとも。

   たとえば、ダイソーは植物由来の成分を配合したポリ袋やプラスチックカップ、木材を使わずサトウキビの搾りかすからできる紙皿など、環境配慮型商品を2021年秋から本格的に推進しているという。

   キャンドゥやセリア、ワッツも、それぞれ独自の環境配慮型商品を展開している。100円ショップは、SDGs(持続可能な開発目標)そのものである、と論じている。

100円ショップの営業利益率はなぜ高い?

   1個100円の商品を販売しているのに、100円ショップの営業利益率はなぜ高いのか。

   大量生産・大量仕入れ・大量販売システム、情報技術を駆使した管理システム、究極の人件費削減システムがその理由だとしている。

   さらに、大手4社の特徴を以下のようにまとめている。

   業界首位のダイソー(20年度の売上高5262億円)は、26の国と地域にある2296店舗を含め5890店舗を展開するグローバル化と、100円ではない価格帯の業態にも力を入れる多角化の経営戦略が特徴だ。

   業界2位のセリア(同2006億円)は、直営全店にリアルタイムPOSシステムを導入するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に合致した経営戦略で知られる。

   3位のキャンドゥ(同730億円)の特徴は、インスタグラム、フェイスブック、LINEなどのSNSを駆使した広告戦略にある。店舗数は、ダイソーの5分の1にもかかわらず、730億円を売り上げる秘訣は、ネット販売にあるという。

   4位のワッツ(同528億円)の経営戦略は、ローコスト出退店とローコスト・オペレーションにあり、100円ショップだけでも6ブランドを独自展開している。

   商品の価格は同じ100円にもかかわらず、経営スタイルは多種多様だ。また、ダイソーが広島、セリアが新潟、キャンドゥが埼玉、ワッツが大阪というように、創業の地が東京でなく、地方である点にも注目している。

21世紀は、100均資本主義の時代

   21世紀は、100均資本主義の時代だと説いている。かつてマルクスは、機械が生産のメインとなった資本主義では、人間が機械の付属物として扱われ、労働のよろこびが喪失すると考えた。「労働疎外」だ。

   しかし、バブル崩壊と長きにわたる経済停滞が続いた日本では、資本=会社に縛られた状況を嫌い、自分の時間を大切にする人が増えた。労働過程から疎外されない人たちが生きていくことができる社会。それが100均資本主義だ。

   「互いの不信感が渦巻く社会で、一人ひとりのちょっとした工夫が自己肯定感を生み、地域や社会がよくなっていく。100円ショップをはじめとする激安ショップの商品やサービスから、社会の好循環を生み出すのが100均資本主義なのだ」と肯定的に評価している。(渡辺淳悦)

「100均資本主義」
郭洋春著
プレジデント社
1870円(税込)

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