一般のドライバーが個人として自家用車に有料で乗客を乗せる「ライドシェア(相乗り」の解禁に向けた議論が高まりつつある。
背景にあるのは、タクシードライバーの人手不足が深刻化し、タクシーの利用が難しくなる事態が進んでいることだ。政府与党内では解禁を求める声が強まっているが、安全確保への懸念も根強い。
ライドシェアは海外では米国や中国などで広く普及しており、米ウーバーテクノロジーズなど日本でも知られた企業が活躍している。スマホなどで簡単に車を呼べるうえ、タクシーより運賃が安いケースが多く、手軽な市民の足として利用は広がっている。
タクシー不足で観光地は困惑...過疎地域では営業所閉鎖が増加、移送手段失い生活に支障も
日本では現在、タクシードライバーは第2種運転免許が必要だ。普通免許しか持たないドライバーが有料で乗客を乗せることは「白タク」と呼ばれ、道路運送法で原則禁止とされている。このため、ライドシェアの事業は基本的にできない。
ただ、タクシードライバー不足の現状は相当厳しい。2010年代初めにドライバー数は30万人を超えていたが、その後は減少傾向が続き、21年度は22万人まで落ち込んだ。
他産業と比べて賃金が高いとはいえず、若者がなりたがらないのに加え、新型コロナウイルス禍でドライバーをやめた人が戻ってこないことが要因だ。
タクシー不足が目立つのが観光の現場だ。コロナ禍が落ち着いてきても、インバウンド(外国人旅行者)をはじめとした観光客がタクシーをつかまえられずに困っている、という声は全国各地で上がっている。
国民生活でもタクシー不足の影響は深刻化しつつある。
たとえば、全国の過疎地域では、運転手不足などからタクシーの営業所がなくなったり、路線バスが廃止されたりするケースが増えている。お年寄りが通院や買い物の移動手段を失い、生活に支障が出ていることは少なくない。
こうした事情を背景に、ライドシェアの導入が必要だという声が目立ってきたのだ。
2023年8月に菅義偉前首相が「観光地では既にタクシーなどの交通手段が不足し、過疎地では日常生活にも支障が出ている」などと述べ、ライドシェアについては結論を先送りせず、早急に対応する必要があると指摘した。
菅氏に近いことで知られる河野太郎デジタル相や小泉進次郎元環境相も、ライドシェア導入に向けて議論を始める必要がある、などと積極的に発言している。
シェア奪われるタクシー業界には反対の声...「さまざまな課題がある」政府は慎重姿勢
一方、解禁に反対する声も小さくない。その代表がタクシー業界だ。
ライドシェアが解禁されれば、タクシーと真っ向から競合する。しかも、ライドシェアは営業車と違って空いた時間帯に有効利用する形になるので、タクシーより2、3割低料金になると想定されており、タクシーがシェアを奪われる可能性がある。
ただ、最大の問題は安全面の行方だろう。実際、米国などでは女性の乗客がドライバーによって連れ去られる事件なども発生しているという。
また、通常のタクシー会社が行うようなドライバーの健康管理をどう行うのか、交通事故を起こした際の対応はどうなるかなど、クリアすべき課題は多い。
松野博一官房長官は9月初旬の記者会見で、「安全の確保、利用者保護などの観点からさまざまな課題がある」と述べ、慎重に導入すべきだという考えを示した。
解禁の議論は今後、本格化する可能性が強く、関心を呼びそうだが、すんなり進むかは微妙のようだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)