1ドル=150円突破! 政府・日銀「為替介入」か? エコノミストが提言「第2、第3弾も焼け石に水」「植田総裁の、性根入った出口発言に期待」

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   「ついに伝家の宝刀を抜いたのか?」。2023年10月3日午前(現地時間)、ニューヨーク外国為替市場でドル円相場が、心理的節目である1ドル=150円を下回った途端、一転して急上昇。一時147円台まで戻した。

   現地では、日本政府と日本銀行が円安に歯止めをかけるため、円買いドル売りの為替介入を行なったとの観測が流れた。

   果たして、政府・日銀が為替介入に動いたのか。エコノミストの分析で読み解くと――。

  • 日本経済はどうなる(写真はイメージ)
    日本経済はどうなる(写真はイメージ)
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鈴木財務大臣「150円は判断基準ではない」と言うが...

   報道によると、10月3日のニューヨーク市場では、米国の労働需要が引き続き底堅いことを示す8月米求人件数が発表された直後、円が1ドル=150円16銭まで下落。そこから数秒間で約2%上昇し、147円43銭まで急反発するなど、荒れた値動きとなった。

   ただし、その後、日本当局が円買い介入を実施したとの観測が流れたが、その後、1ドル=149円台に戻した。ただ、翌4日の東京市場では再び円が売られており、149円前半で推移している。

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日本と米国の国旗(写真はイメージ)

   財務省の神田真人財務官は4日早朝、財務省で記者団の取材に応じ、「介入の有無についてはコメントを控える」としたうえで、「過度な変動に対しては、これまで通りの方針で臨んでいる」と市場をけん制した。

   また、鈴木俊一財務大臣は10月3日の会見で1ドル=149円台半ばまで迫ったことに関連し、「150円が介入の判断基準になるのか」と問われ、「(150円という)水準そのものが判断基準にはならない。あくまでボラティリティー(変動幅)の問題だ」と答えていた。

   仮に今回、為替介入があったとしても、政府は介入の実施を明かすことはほとんどない。市場に疑心暗鬼が広がったほうが、効果があるからだ。したがって、実際に介入があったかを確認するには、財務省が定期的に公表している「外貨準備等の状況」の統計を待ち、ドル準備高の急な減少などから介入の有無や規模を推定するほかはない。

1ドル=152円が第2防衛ライン、155円が第3防衛ラインか

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日本銀行の植田和男総裁(日本銀行YouTubeチャンネルより)

   今回の「為替介入の有無」と今後のドル円相場の動き、エコノミストはどう見ているのか。

   野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏はリポート「1ドル150円の第1防衛ラインを突破して円安が進行:為替介入が実施されたか」(10月4日付)のなかで、「日本政府が円買いドル売り介入を実施した可能性が指摘されているが、実際のところは明らかになっていない」としている。

   ただし、鈴木財務大臣が「(1ドル=150円の)水準そのものは判断基準にならない。あくまでボラティリティの問題」との見解を示したことについては、こう指摘する。

「あくまで米国政府に配慮したポーズだろう。米国政府は、先進各国に対して、為替の特定水準を意識した為替介入や為替の方向性に影響を与えることを狙った為替介入は、為替操作(マニュピュレーション)に当たるとして認めない姿勢だ。
投機によって為替が過度に変動する際に、それを抑えることを狙うスムージングオペの為替介入のみを容認しているのである」

   そのうえで、政府は「1ドル150円」を防衛ラインと考えている、とみている。そして、次のように説明する。

「その水準を超えると、円安に弾みがついてしまうことを警戒しているのである。現在政府は、物価高対策を柱とする経済対策の策定を進めているが、円安による輸入物価の上昇は、そうした政策効果を損ねてしまうことから、政府は円安進行を食い止めたいと考えている」

   今後の展開については、こう予測する。

「政府は、1ドル150円を第1防衛ライン、昨年の円安のピークであった1ドル151円台終わりを意識して1ドル152円を第2防衛ライン、1ドル155円を第3防衛ライン、と考えているのではないかと推察される。
為替介入の実施だけで、円安を食い止めることはできない。為替介入はあくまでも時間稼ぎ、時間を買う政策である。東京市場での1日の為替取引が平均で50兆円を上回ると見込まれるなか、1日あたり数兆円規模の為替介入で為替の需給に大きな影響を与えることはできない」

今後、ドル高円安の嵐次々襲来、植田総裁の「気合」が救い?

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日本銀行本店

   野村総合研究所の木内氏同様に、今回の「為替介入」は円安進行の足止めにしかならないと指摘するのは、第一生命経済研究所の首席エコノミスト熊野英生氏だ。

   熊野氏は、リポート「1ドル150円、為替介入との闘い~後詰めの日銀は動けるか?~」(10月4日付)のなかで、「1ドル150円を超える円安を通貨当局は許さないという姿勢を、強烈に意識」させたことに狙いがあったとみる。

   しかし、今後さまざまな「ドル高円安」を引き起こす要因が控えていると強調する。整理して紹介すると、こんな案配だ。

   (1)米議会の債務上限問題は、11月17日までの短いつなぎ法案で先送りされたが、マッカーシー下院議長の解任動議が可決されるなど、共和党内の対立が強まり、民主党と共和党の協議はさらに難航する。

   (2)こうした米議会の大混乱から、格付会社ムーディーズが米国債格下げを示唆。もし、格下げに動けば、主要3社がすべて米国債をダウングレードして、米長期金利を上昇させる要因になる。

   (3)FRB(米連邦準備制度理事会)が年内に利上げが決定するだろう。焦点は高金利政策をいつまで続けるかに移り、2024年の早い時期での利下げがなくなる。これも米長期金利を押し上げ、ドル高に動かす要因だ。

   熊野氏は「日本の通貨当局が為替介入を実施したとしても、ドル高・円安の地合いは、当分の間、継続するとみられる」という。

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ドル円相場はどう動く?(写真はイメージ)

   では、どうすればよいのか――。熊野氏は、植田和男・日本銀行総裁の「気合の入った出口発言」に期待する。

「次の焦点は日銀だ。
考える材料を提供してくれるのは、9月9日の読売新聞報道だ。植田総裁は、年内利上げを突如としてゼロではないと報じられた。これが円高要因にはなったが、影響力は小さかった。すぐに、為替トレンドは円安方向に修正された。
そこからわかるのは、マイナス金利解除について、植田総裁が市場に期待を織り込ませるのであれば、相当にしっかり意図を示さなければ円安方向の流れは変わらないということだ。
明確に出口を示唆することは、かなりハードルが高いと感じられる。『出口は近い』などの曖昧な発言では到底円安トレンドを止められない。性根の入った出口発言を植田総裁がするかどうかを注目しておきたい」

(福田和郎)

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