世界経済最大リスク、中国の減速が始まった! エコノミストが指摘「中国は、日本の失われた30年たどる」「共産党幹部より、活路は民営企業の若者たち」

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   世界銀行は2023年10月2日、中国の2024年の経済成長率を4.4%とする予測を発表した。中国経済が減速するとみて、4月時点から0.4ポイント引き下げた。

   3年にわたるゼロコロナ政策解除後の経済回復が勢いを失い、巨額の債務を抱えた不動産部門の不振と、企業や地方政府の負債の増加が成長の重石になっていると説明した。

   折しも中国では、経営危機にある不動産大手「中国恒大集団」が、自社のトップ許家印氏が犯罪行為に関与した疑いで当局に拘束されていると発表したばかり。中国経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • チャイナリスクが世界経済の重石に(写真はイメージ)
    チャイナリスクが世界経済の重石に(写真はイメージ)
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当局「水増し」統計より民間統計を見ると、怖い数字が...

   こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。

   中国では国家統計局の数字に「水増し」が行われているとみられており、欧米の金融機関などでは民間の経済統計のほうに信頼を置くケースが少なくない。世界的格付け会社「S&Pグローバル」(本社米国)と、中国の経済メディア「財新」が合同で行っている経済統計もよく使われる1つだ。

   その「S&Pグローバル/財新」の調査をもとに分析を行なったのが、第一生命経済研究所の主席エコノミスト西濵徹氏のリポート「中国企業マインドは政府統計で底打ちの一方、民間統計は頭打ち」(10月2日付)だ。

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(図表1)財新サービス業PMIの推移(第一生命経済研究所の作成)

   【図表1】は「S&Pグローバル/財新」が発表したサービス業PMI(購買担当者景況感)のグラフだ。中国国家統計局が発表したサービス業PMIより悪い数字だ。好不況の境目である「50」のラインに向かって、どんどん下がっている。西濵氏はこう指摘する。

「9月の企業マインド統計は、政府統計ベースでは製造業、非製造業ともに頭打ちしてきた流れが底打ちするなど、一見改善している様子がうかがえる」
「一方の民間統計ベース(S&Pグローバル/財新)では、製造業で底打ちの動きに一服感が出ているうえ、サービス業は頭打ちの動きを強めるなど政府統計と対照的な動きがみられる」
「足下の中国景気は頭打ちの動きを強めていると捉えられる。対症療法的な内需喚起策が先行きの中国景気にとって息の長い回復を促すかは見通しにくいなか、世界経済にとっては中国の代わりもいないなかで、極めて厳しい状況が続くことを想定せざるを得ない」
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北京の天安門前広場

   そのうえ、いくつかの悪条件が重なる。整理すると次の3点だ。

   (1)米中摩擦や、世界的なリスク回避の動きから「中国離れ」が進み、外需が中国景気の下支え役となることを期待することは難しい。

   (2)恒大集団のデフォルト懸念が一段と深まっている。

   (3)今年7月に施行された「改正中華人民共和国反間諜法」(反スパイ法)の影響で、外資系企業を取り巻く事業環境が悪化している。

   こうしたことから、西濵氏はこう結んでいる。

「2000年代以降の世界経済にとっては、中国の経済成長がけん引役となってきたが、今後は中国経済にそうした役割を期待することは難しくなっているうえ、その代わりの役割を担う国がいないことも世界経済にとっての悪材料となることに留意する必要があろう」

中国は、日本の「失われた30年」と同じ道をたどるか?

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上海市の高層ビル群

   不動産業界に広がる信用不安に焦点を当てたのが、日本政策投資銀行経済調査室の合津智裕と岳梁氏のリポート「調整が続く中国不動産市場と経済への影」(9月29日付)である。

   【図表2】は、中国経済で深刻化している「灰色のサイ」(巨額の債務)問題の渦中にある主な大手不動産のリストだ。サイは普段はおとなしい動物だが、いったん暴走し始めると手が付けられず、爆発的な破壊力を持つ。潜在的リスクの比喩だ。

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(図表2)不動産業界に広がる信用不安(日本政策投資銀行の作成)

   このリストの2番目の「碧桂園」(はくけいえん)は中国最大の不動産会社。優良経営とみられていたのに、突然今年8月、約1兆円の最終赤字を発表して衝撃を与えた。リポートではこう指摘する。

「中国不動産市場では、恒大集団が2023年8月に米国破産法を適用申請するなど、信用不安が広がっている。背景には、政府主導の企業の過剰債務削減や投資依存の成長からの脱却などの構造改革がある。構造改革は鉱工業が先行し、不動産業の債務削減は2021年に本格化したばかりである」

   仮に、不動産市場のハードランニングを回避できたとしても、難題が待っている。バブル崩壊後の日本が「失われた30年」と言われるような、人口減を主な理由とする長期デフレが中国経済を襲うリスクがあるのだ。

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(図表3)家計の消費・貯蓄意向(日本政策投資銀行の作成)

   【図表3】は、中国国民の家計の消費と貯蓄の意向を示したグラフだ。お金を消費より貯蓄に回す割合が増えていることがわかる。リポートはこう結んでいる。

「直近の経済指標で、消費の弱さやディスインフレ傾向が示されたなか、政府は消費拡大をはじめ諸政策を打ち出したが、大規模な財政出動はなく景気刺激効果は限定的とみられる。
人口減などバブル後の日本と類似する点があるなか、内需の弱さによるデフレ化や潜在成長率の低下などの、いわゆる『日本化』への懸念は、当面続くと考えられる」

共産党幹部の国有企業優遇、民営企業圧迫が経済の足かせに

   一方、中国経済に悪影響を与えているのが、国有企業を民営企業より優遇する「国進民退」の動きだと批判するのが、PwCコンサルティング合同会社のシンクタンク「PwC Intelligence」のシニアエコノミスト薗田直孝氏だ。

   薗田氏はリポート「中国経済発展の足かせとなる『国進民退』の動き(2023年9月)」のなかで、さまざまな具体的な統計グラフから、いかに国有企業が政策の恩恵を受ける一方、民営企業が圧迫されているか示している。

   【図表4】は、鉱工業の国有企業と民営企業の営業利益率の推移だが、明らかに国有企業の方が民営企業より利益率が高い。

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(図表4)鉱工業の国有企業と民営企業の営業利益率の推移(PwC Intelligenceの作成)

   【図表5】は、平均給与の伸び率の推移だが、こちらも国有企業の方が民営企業より給与が高い。中国では伝統的に国有企業の経営者は、共産党の高級幹部が務めている。

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(図表5)国有・民営別にみた平均給与の伸び率の推移(PwC Intelligenceの作成)

   薗田直孝氏によると、

「現在、中国には約2600万社の民営企業があり、その特徴は『5・6・7・8・9』という数字で表わされている。すなわち、民営企業が国の税収の5割以上、GDPに対する寄与度の6割以上、技術革新の成果の7割以上、都市部労働者の雇用の8割以上、企業数の9割以上を占めており、民営企業による中国経済全体への貢献度は高い」

   という。

   それなのに、【図表4】と【図表5】を見ると、国有企業と民営企業両者の格差が2020年頃から拡大していることが分かる。コロナ禍からの経済回復の際、地方政府が限られた財政支援を国有企業に優遇したからだった。

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中国の国旗

   薗田氏はこう提言している。

「景気の本格的な回復のためには、民営企業に対する強力かつ具体的なテコ入れが必須であると筆者(=薗田氏)は考えている。厳しい経済環境下、『国進民退』の傾向を目の当たりにしている民営企業が改めて前向きなマインドを回復するのは容易ではないであろう。
民営企業や、そこに勤務する若年労働者の活力を活かし、新しい産業でのイノベーションを促し、次世代に向けた質の高い経済成長が実現できる礎を作っていく必要はあるのではないだろうか。
例えば、人工知能や新交通システム、新素材や産業用ロボットなど産業分野において、新しい技術や人材の育成を民営企業が主導して推進できるような政策を打ち出し、安定的かつ質の高い経済成長の実現を目指す道もあるように思われる」

(福田和郎)

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