共産党幹部の国有企業優遇、民営企業圧迫が経済の足かせに
一方、中国経済に悪影響を与えているのが、国有企業を民営企業より優遇する「国進民退」の動きだと批判するのが、PwCコンサルティング合同会社のシンクタンク「PwC Intelligence」のシニアエコノミスト薗田直孝氏だ。
薗田氏はリポート「中国経済発展の足かせとなる『国進民退』の動き(2023年9月)」のなかで、さまざまな具体的な統計グラフから、いかに国有企業が政策の恩恵を受ける一方、民営企業が圧迫されているか示している。
【図表4】は、鉱工業の国有企業と民営企業の営業利益率の推移だが、明らかに国有企業の方が民営企業より利益率が高い。
【図表5】は、平均給与の伸び率の推移だが、こちらも国有企業の方が民営企業より給与が高い。中国では伝統的に国有企業の経営者は、共産党の高級幹部が務めている。
薗田直孝氏によると、
「現在、中国には約2600万社の民営企業があり、その特徴は『5・6・7・8・9』という数字で表わされている。すなわち、民営企業が国の税収の5割以上、GDPに対する寄与度の6割以上、技術革新の成果の7割以上、都市部労働者の雇用の8割以上、企業数の9割以上を占めており、民営企業による中国経済全体への貢献度は高い」
という。
それなのに、【図表4】と【図表5】を見ると、国有企業と民営企業両者の格差が2020年頃から拡大していることが分かる。コロナ禍からの経済回復の際、地方政府が限られた財政支援を国有企業に優遇したからだった。
薗田氏はこう提言している。
「景気の本格的な回復のためには、民営企業に対する強力かつ具体的なテコ入れが必須であると筆者(=薗田氏)は考えている。厳しい経済環境下、『国進民退』の傾向を目の当たりにしている民営企業が改めて前向きなマインドを回復するのは容易ではないであろう。
民営企業や、そこに勤務する若年労働者の活力を活かし、新しい産業でのイノベーションを促し、次世代に向けた質の高い経済成長が実現できる礎を作っていく必要はあるのではないだろうか。
例えば、人工知能や新交通システム、新素材や産業用ロボットなど産業分野において、新しい技術や人材の育成を民営企業が主導して推進できるような政策を打ち出し、安定的かつ質の高い経済成長の実現を目指す道もあるように思われる」
(福田和郎)