余命わずかな高齢男性を担当した看護師チーム
経験豊富な、ある看護師長のお話です。
彼女は、大規模な病院に勤務していましたが、ある時、束ねるチームが末期治療の高齢男性を担当することになりました。このおじいさんは家族に余命宣告されており、もって数週間。流動食も受け付けないほどに体が弱っていて、胃ろう処置がなされ、点滴で寝たきり状態でした。
彼女と部下の看護師たちチームは、おじいさんの心身への配慮事項を確認し合いました。そして、看護師長からは「残された期間を少しでも心地よく、ご満足いくように過ごして頂けるよう工夫をしていきましょう」と、ケア方針を共有したのです。
おじいさんが看護師たちに慣れてきた頃、担当の看護師がふとおじいさんに聞いてみました。「おじいちゃん、何か欲しいものある?」するとしばらく経ってから、おじいさんは声を振り絞ってこう答えました。
「ト、トロが、た、たべたい。」
家族によると、おじいさんは元気な頃、寿司屋のカウンターでお寿司を食べるのが大好きだったといいます。
「もう一度、食べさせてあげたいけどねえ...」
妻であるおばあさんは、悲しそうな目でそうつぶやきました。
けれども、点滴で寝たきりの末期患者を寿司屋に連れて行くわけにはいきません。また、出前を取ったとしても、そもそもおじいさんは食べ物を一切食べられないのです。なにより免疫力が極端に低下している患者さんが生ものを食すなんて、もってのほか。
おじいさんの言葉を聞いた看護師は、看護師長にこの話を報告しました。
「どうしようもないのは分かっているのですが、自分の胸だけにしまっておくには居たたまれなかったものですから...」
話を聞いた看護師長は、患者さんに寄り添う看護師の思いに共感するとともに、おじいさんの残り少ない人生の中で、私たちができることはないものかと、考え込みました。