「こんな笑顔が、また見られるなんて」家族も涙...余命わずかな患者さんに、看護師長が贈った意外なプレゼントとは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「3」後編】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。

   今回の「エピソード3」では、<「こんな笑顔が、また見られるなんて」家族も涙...余命わずかな患者さんに、看護師長が贈った意外なプレゼントとは?>というエピソードを取り上げます。

「おじいさんへのサプライズプレゼント大作戦」開始!

   <「こんな笑顔が、また見られるなんて」家族も涙...余命わずかな患者さんに、看護師長が贈った意外なプレゼントとは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「3」前編】(前川孝雄)>の続きです。

   看護師長は、余命幾ばくもない患者のおじいさんに、あるプレゼントをサプライズで贈ることを決意しました。それには、部下たち看護師チームの協力も不可欠です。

   彼女は、部下の若手看護師たちとのミーティングで、練りに練った「おじいさんへのサプライズプレゼント大作戦」を提案し、協力を依頼しました。

   何人かのメンバーは「とても、いいアイデアですね!」と前向きに賛同してくれました。病院内で決められた規定や担当医師との軋轢を心配する部下もいましたが、意見を訊くと反対ではありません。おじいさん担当の看護師は...目を輝かせて聞いていました。

   いよいよプレゼントの当日。

   定期診察でおじいさんが病室を離れると、看護師チームのメンバーが廊下からパーッと机や備品をベッドの脇に運びこみ、準備を整えました。

   隣室で控えていた協力者も呼び込みます。しばらくして、おばあさんに車いすを押されて病室に戻ってきたおじいさんに、担当の看護師が言いました。

「おじいちゃん、今日はプレゼントがあるから、いいよって言うまで目をつぶってて」

そこで、おじいさんが見たものは?!

   一瞬不思議そうな表情をしたおじいさんでしたが、孫くらいの年齢の看護師さんの言うがまま、目を閉じたまま部屋に入ります。

   「はい、もういいよ!」おじいさんが目を開けると、何と!...ねじり鉢巻きをした職人さんが、机でこしらえたカウンター越しに笑顔で立っていたのです。

「へい旦那、今日は何を握りますか?」

   おじいさんだけの特別な寿司屋さんが、そこにはあったのです。

「ト、トロお願いします。大将」

   おじいさんは、元気だったころと同じように注文をしました。

   おじいさんの前には、頬が落ちそうなトロの握りが置かれます。しかし、おじいさんは流動食すら食べられない胃ろうの状態。

   しかし、奇跡が起きました。この病室に来て以来、口からものを食べられなかったおじいさんが、なんとトロを二口も食べたのです!

「あぁ、うまい。大将...あ、ありがとう」

   おじいさんは、入院してから一度も見せたことのない笑顔になりました。

   おじいさんの車いすを押してきたあと、固唾をのんで様子を見守っていたおばあさんは、その場で泣き崩れてしまいました。

   事前に看護師長からサプライズプレゼントを持ち掛けられ、嬉しさ半分不安も抱いていたのですが、おじいさんが見せる久しぶりの笑顔に感極まったのです。

   涙を流しながら担当の看護師の手を取って「ありがとう、ありがとう」と何度も繰り返したといいます。担当の看護師も涙がとまりません。

   これを見守る看護師たちと看護師長も、目に涙をためた顔を互いに見合わせながら、胸の前で小さな拍手を贈っていました。

チームの仕事のパーパスを問い返すこと

   このエピソードをどう考え、何を学ぶか、以下3点を挙げておきます。

   第一に、上司として、自分のチームのパーパス―存在意義―を問う姿勢です。

   彼女は自分たちの目の前にいる患者さんの願いに対してできること、すべきことを考え抜き、行動を選択しました。規則やマニュアルありきではなく、チームの仕事のパーパス―彼女や看護師の部下にとっては、患者さんの人生に最後まで寄り添い、希望をかなえること―に立ち返り、課題を解決しようとした姿勢には、学ぶべきものがあるのではないでしょうか。

   チームの仕事のビジョンを明確にすべき立場の上司には、社会や顧客のニーズを深く考えるなかから、仕事のあり方やルールを問い直し、変えていく視点と力が問われるのです。

部下の働きがいを支援すること

   第二に、上司である彼女が部下の働きがいを重視し、背中を押したことです。

   彼女は、第一線で働く部下の看護師たちを通して、患者さんやその家族と向き合う立場です。そして、担当看護師から報告があった事実と看護師の思いをしっかり受け止め、今回の大作戦の計画・実行につなげました。これは、部下の患者本位の姿勢を尊重し、その思いを信頼し、大切にする表れでもありました。

   また、その結果実現した「サプライブプレゼント大作戦」で、おじいさんのために病室の衣替えをし、寿司職人を受け入れた看護師たちは、おじいさんの満面の笑顔や、おばあさんの感謝の涙を見て、自分たちの仕事の尊さを認識し、働きがいを実感したのです。

   看護師たちは、自分の仕事に意義と誇りを感じ、今後も患者さん本位の関わりによって自ら働きがいを創り出す働き方を学び、成長できたことでしょう。

   部下の働きがいと成長の支援は、上司の大切で不可欠な役割なのです。

リーダーはリスクを自覚しつつ、自らの意思と責任で判断すること

   第三に、看護師長のリーダーとしての判断についての学びです。

   彼女の取った行動は、病院の規則に照らせば正しくないかもしれません。末期患者への対応ルールやマニュアルに沿うなら、点滴状態の患者に生ものを食べさせるなど言語道断との見方もあるでしょう。

   彼女は、いざという時の準備は整えたといいますが、もし事故ともなれば一大事。一定のリスクを抱えていました。

   彼女は敢えてこの行動を上層部に相談せず、担当医師に気づかれないタイミングに敢行したといいます。自分が実行責任を負う覚悟であったのでしょうが、病院の組織責任は拭えず、評価は分かれるところでしょう。

   しかし、一定のリスクを自覚しながらも、自分の意思と責任で決定を下すのが上司の立場であり、役割です。上意下達になりがちな組織のなかで、単に伝書鳩のように上からの指示や規則を部下に伝達し、部下の行動を管理するだけでは、リーダーとしての介在価値はありません。

   仕事に絶対の「正解」はなく、このエピソードもまた然り。ただ、彼女が主体的に下した判断とリーダーシップの取り方には、学ぶべき点があるのではないでしょうか。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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