「紙と鉛筆」でとにかく書き始める
考えるだけではダメだ。行動する習慣をつけなければならない。
精神を始動させる2つの方法が参考になる。少し長くなるが引用しよう。
「いやな仕事や家庭の雑事をやるのに、機械的方法を用いること。その仕事がいやだなあなどとは考えず、まずその仕事に飛びこみ、ぐずぐずしないでやってみるのである」
「次に、アイデアを考えたり、計画を立案したり、問題を解決したりするなど、精神的作業を必要とする場合にも、機械的方法を用いるのである。精神があなたを動かすのを待つのではなく、まず机に向かい、あなたの精神を動かすのである。
そのためには、鉛筆と紙を使おう。安物の鉛筆が、お金で買うことができないほど高価な精神集中の道具となる。紙の上に何かを書くとき、あなたの全注意力はその考えに集中される。そして、あなたがそれを紙に書いているとき、あなたの心にもそれを『書いて』いるのである」
そして、「明日、来週、あとで」という言葉は、失敗と同義語であり、急いで行動を開始せよ、と促している。
評者はこのくだりを読み、大いにうなずいた。仕事ではないが、プライベートな案件で、この数カ月頭を悩ましていたことがあった。少しずつかたちにはなっていたものの、思い切ってリリースできなかったことがある。
ある日、何も考えず、机に向かい紙に思いつくまま書き始めた。それをPCで文書にまとめ、メールで各所に送った。この数カ月の苦悩やストレスはいったい何だったのだろう? と思うほど、簡単に事は成就した。
本書に書かれている「紙と鉛筆」による仕事の始動法は、さまざまな手帳術や仕事のハック術の本で微に入り細を穿ち、書かれている。ただ、その基本は「紙と鉛筆」にある。とにかく書くことが精神を動かすという、素晴らしい方法なのだ。
目標の設定についても実践的にこうアドバイスしている。
1 自分が行こうと思うところにはっきりと狙いをつけなさい。
2 これから10年間のプランを書きなさい。仕事部門、家庭部門、社会部門に分けて、やりたいことを書きだしなさい。
3 物事をなしとげるために、目標を設定しなさい。そうすることによって、人生の真の喜びを見いだしなさい。
4 真の目標に向かって「自動制御装置」を働かせなさい。目標に従って行動していれば、やがて正しい行動をしていることに気づくはずだ。
5 目標には一度に一段階ずつ進みなさい。進みかたがどんなに小さくても、目標に着実に近づいているのだ。
6 回り道を苦にしないことである。回り道は、たんに別の道であるにすぎない。
7 自分自身に投資しなさい。教育やアイデアを与えるものに投資しなさい。
失敗の理由を健康、知力、年齢、運のなさにするな、と弁解を戒めている。「失敗はほとんどこの弁解癖の病気にとりつかれて生じる」とも。知力も年齢も問題ではない、とていねいに説明している。このパートを読むだけでも、勇気づけられる人は多いだろう。(渡辺淳悦)
「大きく考えることの魔術」
ダビッド・J・シュワルツ著、桑名一央訳
実務教育出版
1650円(税込)