少子化は日本の抱える最大の問題と言える。未婚者の結婚や出産に対する考え方、既婚者の出会いと結婚、そして、出産や子育てに対する考え方は、少子化に大きな影響を与える。
国立社会保障・人口問題研究所の2021年調査の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」から、今回は既婚者の出産・子育て、仕事に対する考え方に焦点を当てる。
「完結出生子ども数」子ども0人...1987年は2.7%→2021年は7.7% 子ども1人...1987年は9.6%→2020年は19.7%
<晩婚化の原因は、出会いの遅れか?交際期間が長引いたからか? あるいは、「見合い結婚」が減った影響もあるのか?【人口問題3】(鷲尾香一)>の続きです。
夫婦の最終的な出生子ども数を「完結出生子ども数(完結出生児数)」と呼ぶ。これは、夫婦一組あたりの平均出生子ども数に相当する。
この完結出生子ども数の変化を見ると、「子ども0人」と「子ども1人」の割合が増加しており、少子化の状況が鮮明にわかる。
子ども0人の割合は、1987年には2.7%だったが、2021年には7.7%にまで増加している。子ども1人は1987年には9.6%だったが、2021年には19.7%と夫婦の2割に迫っている。
半面、子ども2人と子ども3人は緩やかに減少を続けており、子ども2人は2021年に50.8%まで低下し、5割を割り込む寸前となっている。2002年には30%を超えていた子ども3人の割合は2010年に2割を割り込み、2021年には18.6%に減少した。(グラフ1)
では、結婚当初には何人くらいの子どもを持つつもりだったのか。これについて、結婚後15?19年が経過した夫婦にたずねると、「2人」が最も多いが、初婚年齢別で見ると大きな違いがわかる。
初婚年齢が25歳未満では、子ども2人が41.2%だが、3人も24.1%となっている。だが、子ども3人は初婚年齢が上げるほど減少し、35歳以上では11.4%まで減少する。半面、子ども0人が35歳以上では5.7%にまで上昇する。(グラフ2)
ところが、完結出生子ども数を初婚年齢別で見ると、25歳未満と25~34歳では2人が最も多いものの、35歳以上では1人が最も多くなっている。
さらに、3人以上は25歳未満では42.6%だったのに対して、25歳からは急激に割合が低下し、35歳以上では8.6%にとどまる。
その一方で、0人は25歳未満、25~29歳は5%以下なのに対して、30~34歳では17.1%、35歳以上では20.0%に達している。(グラフ3)
結婚当初に希望した子どもの数と完結出生子ども数を比べると、25歳未満では希望数3人以上が結婚当初は24.1%だったのに対して、完結出生数では42.6%に増えている。
その半面、25歳を超えると結婚当初は1ケタだった1人が、完結出生数ではすべて2ケタとなり、中でも、30~34歳は6.2%から25.7%に、35歳以上では5.7%から45.7%に増加する。
さらに、0人はすべての年齢層で結婚当初よりも完結数で割合が増加するが、中でも30~34歳は3.8%から17.1%に、35歳以上は5.7%から20.0%に増加している。
つまり、初婚年齢が高くなるほど、結婚当初の希望と現実のかい離が大きくなる傾向があり、初婚年齢が高くなるほど完結出生数が減少することは明らかだ。
「子どもを持つ理由」に変化...「自然なことだから」2005年は59.6%→2021年は33.8% 「子育てや教育にお金がかかりすぎる」52.6%
子どもを持つ理由の変化には、結婚当初の希望数から完結出生数への減少の理由が透けて見える。
2002年から2021年まで4回の調査で大きく変化したのは、「結婚して子どもを持つことは自然なことだから」で2005年には59.6%だったが、2021年には33.8%に減少した。これは、独身者の調査でも同様の傾向が出ている。
そこで、完結出生数が結婚当初の希望数を下回った夫婦の理由を見ると、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が52.6%と最も多く、次いで、「高年齢で生むのはいやだから」が40.4%となっている。
これを妻の初婚年齢35未満と35歳以上で比べると、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が、35歳未満では77.8%と圧倒的に多く、35歳以上でも48.6%となっているが、「高年齢で生むのはいやだから」は35歳未満では19.7%にとどまるのに対して、35歳以上では43.7%と増加する。
つまり、子どもを持たない主な理由としては、35歳未満では経済的な理由によるが、35歳以上では経済的な理由と同じ割合で、高齢出産に対する精神的・身体的な理由によるものとなっている。
「今後も子どもを作る予定」妻の就業状況...正規雇用は2010年の19.5%→2021年の43.7%
子どもを持つうえでの経済的な対応は、妻の就業状況にも現れている。
2010年からの動きを見ると、「今後も子どもを作る予定」の妻の就業状況は、正規雇用が急速に増加しており、2010年の19.5%から2021年には倍以上の43.7%となっている。
「末子が0~2歳で今後は子どもを作らない」妻の正規雇用も16.3%から38.1%に、「末子が3~5歳で今後は子どもを作らない」妻は14.5%から28.2%といずれも倍近く増加しているものの、今後も子どもを作る予定の妻に比べて正規雇用の増加幅は小さい。
一方、今後は子どもを作らない妻のパート・派遣の割合が増加している。特に、従来から幼児期の子育てが終了し、再び働き始める妻が多い末子 3?5 歳では、パート・派遣の割合が4割近くに増加している。(グラフ4)
これは、妻本人の就業形態の希望もあるだろうが、子どもを産み、幼児期の子育てを終えてからの「正規雇用としての再就職が難しい」ことの表れでもある。
調査時期がずれるが、2019年までの第1子出生年別の出産による妻の就業変化を見ると、1985~89年には育児休業制度が整備されていない企業も多かったこともあり、就業継続は育休の利用と利用なしの合計で23.9%だったが、育休制度の整備とともに就業継続の割合は増加し、53.8%と半数を上回っている。
これは育休利用による就業継続は1985~89年には5.5%だったのに対して、2015~19年には42.6%と7.7倍も増加していることでも明らかだ。就業継続の約8割が育休を利用しており、育休制度の有効性が示されている。(グラフ5)
妻が正規雇用で就業継続の場合、夫の家事の頻度は「日常的」39.5%、育児の頻度は「日常的」45.7%
もちろん、妻が就業を継続する場合には、いずれかの子育て支援制度や施設を利用するケースが増加している。
2015~18年生まれの第1子が3歳になるまでに、いずれかの子育て支援制度や施設を利用したのは90.3%で、特に、妻が正規雇用の場合には98.9%にのぼる。
同時に妻の就業継続には夫の家事・育児への参加も重要だ。
2015~18年生まれの第1子が3歳になるまでの夫の家事頻度は、「ときどき」が34.0%、「ひんぱん」が14.8%、「日常的」が34.0%と「ほとんどなし」の15.9%を大きく上まわっている。
育児にはより積極的に夫が参加しており、「ときどき」が27.6%、「ひんぱん」が23.4%、「日常的」が41.0%にのぼり、「ほとんどなし」はわずか6.8%でしかない。
特に、妻が正規雇用で就業継続しているケースでは、夫の家事の頻度は日常的が39.5%、育児の頻度は日常的が45.7%と高くなっている。
◆「人口問題」シリーズを総括して
詳細については、これまでの各回をご覧いただきたいが、概観すると少子化は、未婚者の若者層が異性に対する興味を失い、生涯独身を望む傾向が強まっていること。家族や子どもを持つことに対する意味を失い、未婚化・晩婚化が進んでいること。
これらに加え、既婚者でも家族や子どもを持つことに対して、未婚者と同様の考えが増えていること。そして、25歳未満の既婚者は経済的理由で、35歳以上の既婚者は高齢出産に対する精神的・身体的理由で子どもを作らないことなどが、要因となっている。
育休制度などの子育て支援制度は、妻の就業継続に効果が出ているものの、少子化はこうした支援制度とは別次元の異性に対する感情・興味や結婚、家族、子どもといったことに対する考え方が影響しており、その対策には支援制度とは別のアプローチが必要なのだろう。
◆鷲尾香一とさぐる混沌日本の歩き方~「人口問題」シリーズ
【1】未婚者の結婚の意思は、この40年でどう変化したか? 「一生結婚するつもりない」は増加し、独身生活で「行動や生き方が自由」を重視【人口問題1】(鷲尾香一)
【2】未婚者が結婚相手に求める条件...2000年代に入って、男性は女性に「経済力」、女性は男性に「経済力」「容姿」求める割合高まる【人口問題2】(鷲尾香一)
【3】晩婚化の原因は、出会いの遅れか?交際期間が長引いたからか? あるいは、「見合い結婚」が減った影響もあるのか?【人口問題3】(鷲尾香一)
【4】結婚当初に「希望した子どもの数」と「完結出生子ども数」はなぜ差が出てしまうか? 「子どもを持つ理由」にも変化が【人口問題4】(鷲尾香一)