「壁を超えたら損」思い込みで調整する人も...メディアの役割が重大
一方、パートなどで働く人々も、実際はそれほど「損」はしないのに、「年収の壁」を過剰に意識している面もあるのではないか、と指摘するのは独立行政法人経済産業研究所ファカルティフェローの近藤絢子氏だ。
近藤氏はリポート「「年収の壁」問題の視点 「103万円の壁」過剰に意識」(9月22日付)のなかで、配偶者のいる女性の税引き前の給与収入の分布のグラフ【図表2】を掲載した。
【図表2】のうち、左図は、年収800万円までの範囲を10万円刻みで示したもの。左図の縦の点線で挟まれた50万?200万円のピーク周辺を拡大したのが右図だ。
これを見ると、96万円が突出していることを除けば、103万円がピークで、103万円を超えると一気に減る。明確な壁があるのは、103万円と130万円だ。
近藤氏はこう指摘する。
「興味深いのは、103万円の壁が130万円の壁よりも際立つ点だ。103万円付近で本人にかかる住民税と所得税、さらに夫の配偶者特別控除が減額された場合の負担増を合算しても年額2万円程度の負担であり、130万円を超えた場合にかかる社会保険料が年額約30万円であるのに比べるとかなり小さい。にもかかわらず、明らかに103万円の壁のほうが目立つ」
なぜ、「103万円の壁」を意識する人が多いのか。
「考えうる要因の1つに、夫の勤め先から出る家族手当がある。2021年時点で従業員50人以上の民間企業の2割強が、配偶者手当の対象となる年収上限を103万円に設定している。
ただし、労働政策研究・研修機構が2016年に実施した調査では、パートタイム労働者が就労調整を行う理由として家族手当を挙げた人は、配偶者の所得控除や自身の所得税を挙げた人の3分の1程度だ。
103万円以下に調整している人たちは『所得税課税対象となる』『配偶者控除の対象でなくなる』といった言葉の印象に左右されているのかもしれない。所得税はごく少額であり、配偶者控除から配偶者特別控除と名称が変わっても控除額は減らないことなど、正しい情報を周知するだけでも103万円を超えて働く人が増える可能性がある」
そして、近藤氏はこう提言している。
「税や社会保険の仕組みは複雑なので、実際の負担額を正確に理解せず、『103万円の壁を超えたら損』との思い込みだけで、就労調整がなされている面も無視できないのではないか。メディアが正しい情報を伝えることも就労調整問題の緩和につながると考えられる」
(福田和郎)