企業に仕事の進め方や労務管理の見直しを迫る「働き方改革」。中小企業は、どのように対応しているのか。従業員はどうみているのか。働き方改革は中小企業経営にプラスになるのか――。
日本政策金融公庫総合研究所の特任研究員、竹内英二氏が中小企業における働き方改革の実態を、中小企業で働く人の視点で探る「働き方改革に関するアンケート」を実施。
その中で、働き方改革の目的として大事だと思うことを三つまで答えてもらったところ、「働く人の健康を守る」と答えた人が50.1%で最も多かったことがわかった。日本政策金融公庫の調査月報(2023年7月号 No.178)に掲載した。
「働き方改革」は、健康の確保と生産性向上を重視
調査によると、「働き方改革の目的として大事だと思うこと」を三つまで回答してもらったところ、中小企業では「働く人の健康を守る」と答えた人が50.1%で最も多かった。
次いで、40.6%の人が「仕事の効率や働く人の生産性を上げる」と答えた。第3位は「ライフステージに合った方法で働ける」の32.0%と続いた。
大企業では「仕事の効率や働く人の生産性を上げる」が最も多かった。ただ、回答割合は中小企業と大差はない。
働き方改革の主な目的である「労働時間を減らす」と答えた人は、28.1%とそれほど多くないこともわかった。
特任研究員の竹内英二氏は、
「中小企業の労働時間はもともと長くないからだと思われるが、多いときの所定外労働時間が月45時間を超える人に限れば、39.8%になる。ただ、多いときの所定外労働時間が月45時間を超えていても、約6割の人は労働時間の削減を重視していないことになる」
と指摘する。
また、「労働時間を減らす」を答えた人は、非正規社員で22.5%だったのに対し、正社員では30.5%となった。「年次有給休暇を多く取る」を答えた人も、非正規社員では19.6%だったのに対し、正社員では25.9%となっている。こうしたことから、非正規社員よりも正社員の負担が大きいことがうかがえる。
一方、ほかの目的と異なり、「ライフステージに合った方法で働ける」を答えた人は、回答者が置かれた状況によって異なるという。
たとえば、介護・看護が必要な家族がいる人といない人の回答割合を比べると、前者は45.9%で後者の31.3%を上回る。女性に限れば、それぞれ61.1%、36.1%となる。
また、未就学児がいる人といない人の回答割合をみても、前者は43.3%で後者は31.6%となった。これも女性に限ると、前者が64.3%、後者が36.3%だった。
多くの家庭で育児や介護の多くを女性が担っているためとみられるが、そのため「ライフステージに合った方法で働ける」と答えた人は女性が37.3%と、男性の26.8%を上回る。
「こうしたことから、中小企業のうち相当数は、単に労働時間を何時間削減する、有給休暇を何日取得するといったことよりも、健康の確保やライフステージにあった多様な働き方を重視しており、それを実現するには生産性の向上が必要だと考えている人が少なくない。
働き方改革は、まだ発展途上だが、中小企業で働く従業員の多くはその必要性をよく理解し、今後の進展を切に望んでいるといえよう」(竹内氏)
「働き方改革」は、経営にとってプラスになるのか?
中小企業の従業員は、働き方改革に対する職場の取り組み姿勢についてどうみているのだろうか――。
調査によれば、職場が働き方改革に「積極的に取り組んでいる」と答えた人は、4.4%にすぎない。「どちらかといえば積極的」と答えた人も37.0%で、合計しても41.4%と、半数に届かない。
大企業をみると、「積極的に取り組んでいる」と答えた人は13.5%しかいないが、「どちらかといえば積極的」とする人は52.5%にのぼった。合計すると、66.0%が「積極的」だった。
一方で、働き方改革は法律で定められたことであり、どの企業も進めなければならないが、経営者にとって気になるのは、働き方改革は経営にとってプラスになるのかということだろう。
調査では、最近3年間の職場の変化を聞いたところ、「企業にとってプラスといえる変化があった」と答えた人は、中小企業の場合で「売り上げや利益が増えた」と「仕事の効率や生産性が上がった」がそれぞれ8.4%、「転職・退職する人が減った」が6.4%、「求職者や新規採用者が増えた」が4.9%となった。
これを働き方改革に対する職場の取り組み姿勢が「積極的」または「どちらかといえば積極的」と答えた人と、「消極的」または「どちらかといえば消極的」と答えた人に分けてみると、いずれの回答も「積極的」が「消極的」を上回っていた。
働き方改革は、企業にとってもメリットがあることがわかる。
調査にあたった竹内氏は、
「働き方改革を進めて成果を上げている中小企業は少なくない。重要なポイントは、従業員とのコミュニケーションにあることを調査結果は示唆している。働き方改革は企業と従業員の共同作業なのである」
としている。
なお、調査は従業員10人以上の会社または個人企業で働く18歳以上の雇用者のうち、(1)役員、家族従業員ではない(2)現在の企業に3年以上勤務している――の条件をすべて満たす人を対象に、2022年6月22日~27日にインターネットで実施した。
回答者数は1000人。勤務先の従業者数を「10~19人」「20~49人」「50~99人」「100~299人」「300人以上」に分け、それぞれ男女100人ずつ。正社員が男女各350人、非正規社員が男女各150人になるよう振り分けた。