社員の活躍とキャリア自律を大きく進めた『本物の1on1』の力/NTTコミュニケーションズ【人を活かす先進企業に学ぶ 第1回(3)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~人を活かす先進企業に学ぶ」では、「上司力(R)」提唱の第一人者、FeelWorksの前川孝雄さんが、ユニークな取り組みをしている企業を訪問。経営者や人事責任者への対談インタビューを通して、これからの人材育成のあり方について考えていきます。

   第1回は、NTTコミュニケーションズ株式会社を訪問しました。

  • 写真左から、大原侑也さん、浅井公一さん、前川孝雄
    写真左から、大原侑也さん、浅井公一さん、前川孝雄
  • 写真左から、大原侑也さん、浅井公一さん、前川孝雄

年上部下やローパフォーマーのマネジメントに悩む上司を助ける「セオリー」

   <社員3000人との面談成果が「発奮・スタンスセオリー」に結実!/NTTコミュニケーションズ【人を活かす先進企業に学ぶ 第1回(2)】(前川孝雄)>の続きです。

●《お話し》大原 侑也さん(NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 部門長)/浅井 公一さん(NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 キャリアコンサルティング・ディレクター)
●《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

前川孝雄 マネジャー版の「セオリー」を見ることのできる対象の管理職は、およそ何人いるのですか? また、どのくらい活用しているのでしょうか?

浅井 公一さん 閲覧ができる管理職は約2000人です。2022年の3月にリリースして以来、これまでに約半数の管理職が「セオリー」にアクセスし参照しており、50歳以上の部下を持つ管理職に限ると8割が参照しています。

前川 やはり、上司自身にとって未知の経験を重ねて来られた年上部下の支援に「セオリー」はとても頼りになるのですね。

浅井さん また、いわゆるローパフォーマー対応のページも人気があります。上司にとって、最も多い悩みなのでしょう。私たちに持ち込まれる相談の半数は「こういう難しい部下を、どう育てたらいいのか?」です。「セオリー」のこの部分を読んでの質問や相談もあり、一番需要のあるテーマですね。

前川 なるほど、そこも上司にとってはたいへん役に立つ部分なのですね。

上司自身のキャリア観の変化に期待

前川 「セオリー」の共有や学習を通して、上司自身のキャリア観に変化がありましたか? あったとすれば、どのようなものですか?

浅井さん 実際に、この「セオリー」を見た管理職が、自分はこのままさらに上の部長職を目指すべきか、専門性を伸ばすべきかと相談に来る例が増えてきています。これは「セオリー」がトリガーになって管理職に及ぼした一つの効果であり、成果だと思います。

前川 最近、管理職になることを避けたい、昇格に意義を感じないという若手が増えています。しかし、管理職になることで、一人で成し得ない大きなやりがいのある仕事ができ、部下を育てることができる醍醐味があると思うのです。けれども、単に組織の中で課長や部長になる職位自体が目的化してしまうと、周りからは魅力が感じられなくなってしまうものです。

浅井さん そうですね。私は取締役からも相談を受けたことがあります。「俺は社長の意に沿わなかったので、専務になれなかった。どうしたらいいか」と。しかし、社長以外は、全員どこかで昇進が止まるわけです。

前川 そういう人は、会社の中の職位が固着して自分のプライドになってしまっているのですね。多種多様なキャリア自律が広がっていく先には、自分は課長や部長だから偉いんではなく、一人ひとりが「こういう仕事ができているから、働きがいがあり、楽しいんだ」と言える状況になるとよいですね。

もはや長時間労働は美徳ではなく法律違反...上司ほど早く帰る文化を

浅井さん 若者が上司を見ていて引いてしまう一つの理由は、夜中まで働いているからだと思いますよ。今の管理職は、自分が長時間労働で成果を出し、出世してきた。だから夜遅くまで働き続けないと自分の出世が止まるようで不安だし、部下にもそれを求めがちです。
 しかし、それは人事施策によって、どこかで止めないといけない。上司ほど早く帰る文化を作っていかないと、特に女性は管理職になりたがらない。もはや「残業360時間越えの社員は昇進させない」と制度化することなどが必要ですね。

前川 もう時代は変わり、30年前は24時間働けることが美徳だったけれど、今は法律違反でしかない。

大原 侑也さん 残業をして、その分成果が出るのは当たり前。定時でどれだけ成果を出すかに評価指標も変わってきています。昔は、例えば4時間勤務の人は、どうしても時間の制約があり成果も低くなり、評価が低くなる傾向がありました。今は短時間でも、その勤務時間の中で成果を出せば、しっかりと評価されるように変わってきています。今は残業が恰好悪くなりつつありますからね。

若手は適性見極めのため多くの経験を 育児との両立女性には夫婦間の相談を

前川 「セオリー」にも書かれている方針や内容で、浅井さん中心に直接面談をした結果、社員にはどのような変化や成長が見られたのでしょうか。全体的な傾向や印象的な事例について、若手、中堅、ミドル・シニアなど、「セオリー」の構成にも沿うかたちでご紹介いただけますか。

浅井さん まず若手ですが、今年からなくなった制度で、昨年まで若手は新卒4年目で必ず人事異動がありました。そこで、自分はどう希望を出せばよいかという相談が圧倒的に多かったのです。いわゆる「やりたいことが見つからない」問題です。
 そこで私たちは、本人に「今すぐ見つからなくていい」と伝えました。今すぐ決めきるのでなく、たとえば「28歳までに自分の適性を決める」と時期だけ定める。そして、それまでは多くの経験をすればいい。または、10年目くらいまでの数回の異動では、むしろ畑違いの仕事をしてみる。そして自分の得意を見つけたら、11~12年目くらいからそれをずっと磨いていけばよいと話しました。これはだいぶ腹落ちしたようで、若手世代にはこのスタイルがかなり定着しました。

前川 なるほど。それは若手自身のキャリア観づくりを助ける、よいアドバイスですね。

浅井さん 中堅層は、昇格・昇進がモチベーションになる世代なので、あまり進路相談は多くありません。ただ、女性からの育児との両立についての相談が圧倒的に多いです。評価と昇進が気になる時期でもありながら、ライフイベントが忙しく、結婚、出産、育児、マイホームづくりと重なります。
 そこでのアドバイスの一つは、よく夫婦間で話し合いをすること。場合によっては、妻のほうが出世して、夫が主夫になる選択肢もあるかもしれません。また、現在の会社や部署は出産してから昇進を目指すのがいいか、その逆がいいか。それも考慮して生む時期をどう考えるかなどの話は、とても響きますね。

前川 そこまで具体的な相談を、HR部のスタッフが行うのですか。

浅井さん HR部には、特にこうしたテーマに強いFP資格もある女性のキャリアコンサルタントがいますから、相談内容によって担当してもらいます。

51歳で初の海外赴任例も ミドル・シニアの大躍進!

浅井さん ミドル・シニア社員では、いくつか目立ったエピソードがあります。7年ほど前になりますが、51歳女性の例が印象的です。
 弊社には海外トレーニーという、手を挙げた社員からの選抜で、1年程度の海外営業に赴任する制度があります。当時は、着任者の最高齢は44歳でした。当時50歳の彼女と面談をした際に、海外トレーニーの話題になりました。ただ、ご本人は海外赴任の夢はあるが、自分の年齢ではとても恥ずかしくて手上げなどできない。国内での関連業務で十分だと言うのです。しかし、彼女は地道に語学を学び、海外事情にも詳しく、実力があってもったいない。
 そこで、私が人事に推薦し、海外派遣が実現しました。すると、彼女は驚くほど抜群の成果を上げてくれたのです。年齢が支障にならないどころか、むしろ糧に。これ以降、50代以降も年齢に関わらず、海外派遣が可能なように人事運用も変わりました。
 彼女と私がこの事例紹介でNHKに出演したところ、社内でも大反響になりました。ミドル・シニアの50代女性たちが勇気づけられ、グローバルを目指したいとの相談がものすごく増えました。まさに、皆で「発奮」した出来事になりました。

前川 いくつになっても夢を抱きチャレンジができることを示せたわけですね。感動的だなぁ。本当に素敵な成果事例ですね。

浅井さん またもう一つ、これもとても反響が大きかったのですが、ミドル男性が里親になった事例です。彼は50歳の時の面談で、課長をめざしたいと言いました。しかし、加齢とともに難しくなるから、52歳までと期限を決めて取り組もうと話しました。
 彼は3か月に1度面談に来ていましたが、結局昇進はできなかった。一方、彼は子どもがほしかったが恵まれず、悩んでいた。面談ではプライベートにも話がおよび、里子を受け入れようか考えているとのことでした。その後も続けて相談に乗っていき、とうとう彼は里子を受け入れた。そのことで、とても幸せになったのです。
 プライベートが充実したので、仕事の業績評価もワンランク上がるなど、人生がまるごと充実しました。自分が幸せになることで、会社も幸せにしようと思えたのです。いま彼は里親コミュニティのリーダー役も担っているようです。

前川 これもまた、素晴らしいお話です。ワークライフバランスという言葉も浸透してきましたが、ワークとライフは別々のものでバランスをとるものではなく、仕事と生活、仕事と人生は切って離せない表裏一体なものですよね。
 いろいろな社員の方たちの、キャリアや人生の希望がどんどん膨らんでいく素敵なエピソードがたくさんありますね。そうした事例を集めて、社内でシェアしていけば、会社中がとてもハッピーになりそうですね。

浅井さん 確かに、よいロールモデル集ができますね。こうしたエピソードは山ほどあります。

前川 浅井さんたちがそれを引き出しているのですから、とても働きがいのあるお仕事をなさっていますね。

   <これから求められる会社像、理想の上司像とは/NTTコミュニケーションズ【人を活かす先進企業に学ぶ 第1回(4)】(前川孝雄)>に続きます。


【プロフィール】
大原 侑也(おおはら・ゆうや)
NTTコミュニケーションズ株式会社
ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 部門長


2001年NTTコミュニケーションズ(株)入社。主にプロジェクトマネージャーとして公共分野のICT活用を推進。その後、飲食業界のITコンサルティング、ソリューションサービスの企画を経て、スマートエデュケーション推進室長として、学校教育・企業教育のDX化に従事。2023年7月より現職。社員のキャリア自律と対話協働する組織開発に取り組む。

浅井 公一(あさい・こういち)
NTTコミュニケーションズ株式会社
ヒューマンリソース部 人材・組織開発部門 キャリアコンサルティング・ディレクター


企業内キャリアコンサルタントとして、ミドルシニアを中心に約3,000人のキャリア開発に携わり、面談手法を指導したマネージャーも1000人を超える。圧倒的面談量をもとに築き上げた独自のキャリア開発スタイルにより75%の社員が行動変容を起こす。共著に「ビジトレ」(金子書房)、キャリア支援者のための私塾「浅井塾」(HRラボ社)を開講。

前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授


人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。

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