運転開始から47年が過ぎた関西電力の高浜原発2号機(福井県)が2023年9月15日に再稼働した。
2011年3月の東京電力福島第一原発事故後の同年11月に定期点検に入ってから停止が続き、その後、策定された新規制基準の下での審査を受け、12年ぶりに再び稼働にこぎつけた。
5月の法改正で60年を超えた運転が可能になり、日本の原発は「60年超時代」に向かうことになるが、本当に安全審査が確実に行えるのか、不安が払拭されないなか、老朽原発への依存が強まることになる。
予想できない理由による停止期間は「60年」から除外に 高浜1号機は運転開始から72年後まで稼働できる可能性...
福島第一原発の事故を受け、原発の運転期間は原則40年まで、原子力規制委員会の審査を通れば60年まで延長できることになった。
40年を超えて動くのは、現役最古参で23年8月に稼働した高浜1号機(運転開始から48年)、22年6月に稼働した美浜原発3号機(福井県、46年)に続き、高浜2号機が3基目になる。
この「60年」も延長が可能になった。J-CASTニュース 会社ウォッチは「岸田政権の原子力政策、原発推進へ『政策転換』...再稼働、新増設、そして運転期間の延長着々」(2022年10月14日付)、「岸田政権が着々と進める『原発回帰』...半年も満たずに、原子力政策大転換 新増設・建て替えまで踏み込んだ『新政府方針』の是非」(2022年12月10日付)、「岸田首相、脱炭素社会の実現へ『基本方針案』...原発活用&カーボンプライシング導入も だが、実行への道筋は見通せないまま」(2023年01月16日付)などで繰り返し報じてきたように、岸田政権は「原発回帰」を進めている。
2023年5月には関連法案を成立させ、安全審査や裁判所の命令など事業者が予想できない理由による停止期間を、この「60年」から除くこととし、事実上、60年超の運転を可能にした。
高浜1号機の場合、停止期間12年とすると運転開始から72年まで運転できる可能性があるということだ。
どうする安全審査...「具体方法まだ」と委員1人が反対...規制委、「60超容認」への方針転換局面で異例の多数決に
福島第一の事故後の新規制基準をクリアした原発で、運転開始から35年を超えるのは4原発8基あり、高浜1、2号機と美浜3号機のほか、日本原子力発電・東海第二原発(茨城県)がすでに60年までの運転延長が認可されている。九州電力・川内1、2号機(鹿児島県)と関電・高浜3、4号機は審査中だ。
60年超運転を可能にする新制度では、運転開始30年以降は最長10年ごとに安全性を審査する。
ただ、規制委の山中伸介委員長は「条件が変わらなければ、合格しているものは(新制度でも)合格になろうかと思う」と述べており、これまでに延長を申請した原発が認可されなかった例もなく、古い原発への依存を強めていくことになる。
世界的には60年超運転の実績はない。
国際原子力機関(IAEA)によると、既に廃炉になった原発を含め、2023年1月現在、運転が世界最長の原発はインドのタラプール原発1、2号機の53年2か月。米国は原則40年だが、40年超運転の原発6基が、80年まで運転延長を認可されている。
さらに、英国とフランスは運転期間に上限はなく、10年ごとの審査が義務付けられているなど、運転期間について世界的な基準はない。
実際の審査をどう進めるか、規制委は検討チームを設け、60年以降の経年劣化に関する具体的な評価方法の議論に着手している。
だが、2月の規制委会合では、石渡明委員が「60年以降にどのような規制をするのか具体的になっておらず、安全側への改変とはいえない」として、60年超容認への方針転換という重要案件で、委員の1人が反対して多数決で決まるという異例の事態になった。
40年未満の原発でも、経年劣化による事故が相次ぐ...重み増す規制委の責任
実際、40年に満たないなかでも、高浜3、4号機は2018年以降、原子炉につながる蒸気発生器内に長年の運転で鉄さびの薄片がたまり、配管に当たって傷つけるトラブルが相次いで再発した。
2004年には、運転年数が30年に満たない関電・美浜3号機で、点検リストから漏れていて一度も確かめられなかった配管が、経年劣化で薄くなって破れ、熱水と蒸気が噴出して5人が死亡、6人が重傷を負った事故は、なお記憶に鮮明に残る。
東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)では、7号機タービン建屋の配管が11年間点検されず、腐食で穴が開いたことが22年10月に発覚した。
40年に満たない原発でもこうなのだから、40年超、まして60年超の安全規制となれば、経年劣化がどのように進んでいくのか。実例やデータの蓄積を含め、規制委の山中委員長自身の言葉のように、まさに「未知の領域」(2022年12月の記者会見)となる。
岸田政権は、原発の新設、リプレース(建て替え)も進める方針だが、「電力各社がコストのかかる原発を新たに建設するとは思えない」(電力業界関係者)というのが大方の見方だ。老朽化する原発を使い続けるとすれば、規制委の責任は一段と重みを増す。(ジャーナリスト 岸井雄作)