ふるさと納税が拡大を続けている。
総務省のまとめでは、全国の自治体が2022年度に受け入れたふるさと納税の寄付総額は、前年度の1.2倍の9654億円と、3年連続で過去最高を更新し、1兆円目前まで膨らんだ。寄付件数も同1.2倍の5184万件と、14年連続で過去最多を更新した。
だが、寄付を多く集める上位の自治体は固定化しており、富裕層ほど恩恵が大きいなど税制のゆがみも放置できないところまで来ているとの指摘は多い。
大手紙の論調も事実上の終了論、抜本見直し論など厳しさを増している。
寄付額1位都城市(宮崎)、2位紋別市(北海道)、3位根室市(北海道)...トップ5は前年と変わらず
22年度の自治体別の寄付受け入れ額は、宮崎県都城市が前年度の約146億円から3割以上伸ばし約196億円を集め、前年度2位からトップに浮上。
2位は前年度トップだった北海道紋別市の約194億円(前年度は約153億円)、3位は同根室市の約176億円(同約146億円)、4位は同白糠町の約148億円(同約125億円)、5位は大阪府泉佐野市の約138億円(同約113億円)で、トップ5の顔ぶれは前年度と同じだった。
トップ10、20をみても上位が固定化しており、トップ20自治体の寄付額が、全国の寄付総額の約2割を占める状態がここ数年続いている。一部の自治体に寄付が偏っている実態が鮮明になっている。
こうした偏在が生じる理由は返礼品だ。
トップの都城市は、肉用牛の農業算出額が全国1位で、焼酎「黒霧島」(霧島酒造)もある。2位の紋別市はカニ、3位の根室市はホタテが返礼品の中心。
4位の北海道白糠町はイクラやサーモン、6位の佐賀県上峰町は米やウナギの産地というように、上位自治体は、国内有数のブランド肉、魚介類の産地が目立つ。
返礼品選びは、カタログショッピングかネット通販まがいの仲介サイトで行う人が多い。ここを舞台にした競争の激化で、ふるさとや関心のある自治体を支援するという本来の趣旨からどんどん乖離していると指摘されて久しいが、具体的にふるさと納税の何が問題なのか。
返礼品向きの特産品の有無での自治体間の格差、都市部自治体からの税収の流出の拡大、仲介サイトへの手数料を含む費用の膨張、納税額の多い富裕層ほど大きな恩恵を受けられるという税制のゆがみ――などがある。
2008年度開始...「行き過ぎ」批判受け、重ねるルール改定 「地場産品」に限定、返礼品調達費3割以下...
ふるさと納税の問題点を理解するために、仕組みを確認しておこう。
自ら選んだ自治体への寄付のうち2000円を超える部分が、所得税と住民税から原則全額控除される制度で、2007年に第1次安倍晋三政権の菅義偉総務相(当時)の発案で創設され、2008年度から始まった。
15年度に控除枠が増え、確定申告が容易になると、返礼品による寄付金獲得競争が本格化した。だが、細かい規制がなかったため、アマゾンの商品券を返礼品にするなど、行き過ぎに批判が高まった。
総務省がルール改正に乗り出し、19年度からは、返礼品を「地場産品」に限るとともに、その調達費用や送料など自治体が寄付の募集に使える経費は寄付金額の5割以下(返礼品の調達にかかる費用だけでは3割以下)とすることなどが条件に加えられた。
では、具体的な問題点を順にみていこう。
自然条件や歴史により、どの地域でも返礼品になりうる特産品が豊富にあるとは限らない。もちろん、ふるさと納税が特産品の開発に取り組む契機になることはあり得るが、そんなに簡単なことではない。
また、「せっかくの納税を手数料にくわれたくない」と仲介サイトを使わない自治体は、特産品があっても、ふるさと納税が少額にとどまるのが実態だ。
◆10月から新ルール...熟成肉・精米は、同一都道府県内産のみ
特産品の開発に無理が出ていると思しきケースもある。
総務省は23年6月、熟成肉か精米を返礼品にする場合は、同じ都道府県内で生産されたものを使わなければならないとの新ルールを打ち出し、10月から実施する。
熟成肉の場合、「熟成」の定義が困難なため、熟成という「付加価値」を正統に付けたのか、「にわか返礼品」に仕立てるために一定期間、地元に置いた程度なのか、区別がつかないというのが理由だ。わざわざ厳格化するのは、いい加減なケースがあったということだろう。
ただ、これにはうがった見方もある。
ふるさと納税額5位の泉佐野市の代表的返礼品の一つが熟成肉で、同市は返礼品規制強化の前、駆け込み的に商品券などで多額のふるさと納税をかき集め、これについての総務省の行政処分を巡り裁判になり、最高裁で総務省が敗訴したという「因縁」がある。
このため、熟成肉の規制を巡り、総務省が泉佐野市に意地悪をしたのでは、との見方もささやかれるが、真偽は不明だ。(J-CASTニュース「ふるさと納税から返礼品が消える? マスコミ論調と総務省の苦悩」参照)
税流出、大都市圏に大打撃...減収額1位は横浜市の272億円 地方交付税不交付の自治体には補填なし、行政サービスに支障きたす恐れも
寄付に伴う大都市圏からの税の流出は深刻だ。
寄付した人は居住地の住民税が軽減される。ふるさと納税の影響で最も税収が減るのは横浜市で、減収額は約272億円。2位は名古屋市の約159億円、3位は大阪市の約148億円、4位は川崎市の約121億円、5位が東京都世田谷区の約98億円。
流出分の75%は国からの地方交付税で補?されるが、財源には限りがある。財政が健全で交付税支給の対象外である自治体は補?されないため、打撃は大きい。
たとえば、世田谷区は止む無く返礼品競争に参入し、寄付額は2.8億円(前年度の2倍)に増えたが焼け石に水。交付税不交付のため、国からの補填もなく、同区は行政サービスに支障をきたす恐れがあるとして、制度の見直しを訴えている。
経費も問題だ。そもそも5割経費というのは、善意(だったとしても)の寄付の半分しか、実際の行政に使えないということで、返礼品の調達のかたちで地元にカネが落ちることを割り引いても、問題が多い。
22年度の経費総額は4517億円と寄付の47%にのぼり、行政サービス全体に与えるマイナスの影響は軽視できない。
「経費5割以下」の範囲についても、受領証明など寄付後の経費は含まれておらず、実質的な経費は5割以上に達すると指摘される。
富裕層が有利というのも大問題だ。
自治体への寄付のうち2000円を超える部分が、所得税と住民税から原則全額控除されるというのは、2000円を超える分の寄付額が丸々納めた税金から控除される(つまり返ってくる)ということだ。
自分の腹がほぼ痛むことなく寄付先の返礼品を得られるのがそもそも問題だが、控除割合が住民税の約2割までとはいえ、納税額が多い人ほど多額の寄付をして高価な返礼品を得られる仕組みになっている。
これでは寄付の美名で税制上の不公平を助長していると批判されても仕方がない。
各紙の論調は? 日経、評価しつつも「使命終わった」と言わんばかり...毎日・朝日は批判一段と強める
毎年夏に総務省が前年度の実績をまとめており、これを受け、この夏も大手紙各紙は一斉に社説(産経新聞は「主張」)で取り上げた。
目を引いたのは日本経済新聞(9月4日)だ。
「返礼品の需要が地場産品の振興を支えている。知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きい」と、従来からの主張通り、これまでの成果は評価する。
だが、今回の社説では、従来からの規模抑制の必要から一歩踏み込み、「制度開始から15年たち、その役割は果たしつつあるのではないか」と、「歴史的使命は終わった」と言わんばかりの書きぶりに転じた。
特に都市部からの税金の流出について、「都市部の不満が限度を超えれば制度の持続性に疑念が生じる」と強い表現で警告しているのが目立つ。
従来から問題点を強く指摘してきた毎日新聞(2023年8月4日)と朝日新聞(8月13日)は、批判を一段と強めている。
毎日新聞は「税制をゆがめる膨張ぶりだ。もはや放置できない状況」、朝日新聞も「不合理や不公正が広がるのを、これ以上放置してはならない」と、現状が許容限度を超えているとの基本認識を改めて明確にする。
そのうえで毎日新聞は、「最終的には返礼品を廃止し、見返りなしの寄付だけとする制度に変更すべきだ」とし、朝日新聞も「返礼品の廃止や利用枠の大幅縮小など、制度の根本からの変更が不可欠」と、返礼品を柱にした現行制度の事実上の終了を求めている。
読売、産経も珍しく批判的...「制度の歪みも露呈」(読売)、「不断の見直しに取り組む必要」(産経)
これに対し、政府の政策をあまり批判しない読売新聞(8月17日)と産経新聞(8月13日)は、「財政基盤の弱い自治体にとっては、寄付金を子育て支援などの課題解決に活用できるほか、返礼品の調達を通じ、地元産業の振興を図れるという利点がある」(読売新聞)など、基本的に制度を評価する姿勢は変わらない。
一方で「利用の拡大に伴い、制度の歪みも露呈している」(読売新聞)などと、問題が多いことは認め、「不断の見直しに取り組む必要がある」(産経新聞)と書く。
ただ、具体的にどうするかについては、読売新聞が、富裕層の利用に上限額を設けることや、控除の割合(住民税の約2割まで)の引き下げなど、産経新聞は経費基準などを厳しくすること、仲介サイトに対して手数料の引き下げを促すことを求める程度。
抜本的な改革への言及は弱いと言わざるを得ないが、政府支持の2紙としては、珍しく批判的な社説ではあった。
各紙の論調をみても、ふるさと納税という制度が本当に必要なのかを含め、根本的に見直す時期に来ているのは間違いないようだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)