輸入中古車販売店を成功させた人は、どうやって「ファン」をつくったのか?

   中古車販売の大手企業の不祥事が相次いで報道されている。そんなときに、在庫を置かない中古車販売店の営業マンからスタートし、輸入中古車販売事業を成功させた人の本を読み、感銘を受けた。

   本書「あなたの仕事・人生を好転させる『ファン』のつくり方」(あさ出版)には、自分のファンをつくるノウハウが書かれている。

「あなたの仕事・人生を好転させる『ファン』のつくり方」(小林大地著)あさ出版

   著者の小林大地さんは、アースライト代表取締役。中古車販売店勤務を経て、2009年、中古車販売店「フロンティア・コバヤシ」を創業、2011年アースライトを設立。2023年には輸入車の車検専門店「輸入車車検専門店Conti」を開業。

   「ファン」の本質について、冒頭こう書いている。

   「あなたのことを、自分のことのように思って行動してくれる人というのが本物のファン」であり、「一緒にやっている」という感覚、一体感がファンの本質だという。

人脈よりも絆をつくる...それも、上質な絆を

   ファンづくりの極意について、「下心あり」から始まってもいい、とあるので驚いた。しかし、ここでいう「下心」は、あくまできっかけだ。小林さんが在庫を置かない中古車販売店で働き始めたとき、目の前に商品がない中で購入してもらうには、まずは顧客との信頼関係を築かなければならなかった。

   「自分から車を購入してもらおう」という下心があったからこそ、相手を思いやることができたという。つまり、人との関わりのきっかけは、下心ありきでもいいというのだ。

   「人脈よりも絆をつくる」とも書いている。かつて中古車販売店で勤務している時、人脈を広げようとすればするほど、相手に嫌われないための会話になり、なかなか深い関係にはならなかった。

   それよりも、昔からの知人との関係を深め、絆を築いたほうが、紹介が紹介を呼ぶかたちで仕事にもつながったという。「質より量の人脈づくりに時間を割くのではなく、上質な絆づくりに時間を費やそう」とアドバイスしている。

「何をやるか」よりも「誰とやるか」

   小林さんは自動車の事業以外に、保育園とスポーツジムの運営にも携わっている。保育園の事業を始めようとおもったきっかけは、当時自動車の営業と事務を兼任していた女性スタッフが、来店したお客さんの子どもと接している姿がいきいきしていたことだ。

   「彼女なら、必ずファンがついてうまくいく」という確信があったので、保育園を開くという構想があり、その見立て通り、保育園は順調だそうだ。

   その一方、「自分のやりたいこと」として始めたのがスポーツジム。プロの選手をトレーナー兼責任者として雇い、始めたものの、小林さんと考え方や価値観が違い、うまくいかなかった。

   失敗の原因を、「誰とやるか」よりも「何をやるか」を優先で進めてしまい、やりたいことに人を当てはめようとしたからだ、と考えている。その後、新しいトレーナーのもとでジムをリニューアルし、軌道に乗ってきたので経営権を譲渡し、オーナー兼アドバイザーとして、良好な関係性で運営しているという。

   そして、「ファンづくりの極意、その2」として挙げているのが、「自分磨き」だ。

   ブレない自分をつくるために、自分軸をつくる。そのためには、自分と対話する時間をつくることが必要だという。

   また、特技や好きなことを伸ばす方法を考えることも大切だ。「好き」は仲間をつくることにもつながる。

   さらにSNSで発信することにより、「あなた」というブランドをつくるという。発信することで自分の頭の中も整理され、自己内対話と同様に自分軸ができていくのが実感できるという。

   「尖り」を出すことも重要だ。小林さんは、保証制度を始めた頃に、「プジョー専門店」として展開したことで顧客が一気に増えたそうだ。だが、その反動でクレーマーが増えた。

   小林さんは、「うちのルールを守れないお客様は、他の大切なお客様のご迷惑になるので、お取引をお断りします」という姿勢を明確に打ち出した。その企業姿勢が「あのお店は理不尽なことには折れない」「お客様を大切にしている」という尖りを出すことにつながった、と考えている。

他と差をつけるには「情緒的価値」

   ファンづくりの極意、その3として「関係性」の構築を挙げている。ここで、「自分にとって都合のいい人とだけ付き合う」と書いている。どういうことなのか。

   自分にとって都合のいい人は、相手にとってはあなたが都合のいい存在になる可能性もあるので、お互いにとって良い関係になる、と説明する。

   関係性を構築していくうえで大切なのは、相手のことだけを見て、相手のことだけを考える時間、つまり「マンツーマン」の時間がなければ、関係性は深められないという。

   小林さんは、フランス車を中心とした在庫車を並べて、全ての在庫車に2年間保証と「次回乗り換え時に、購入時の車両価格の半額を保証する」という「下取り優遇保証」をつけ業績を伸ばした。

   売上は増えたが、ミスも増え、従業員のやる気は減った。そこで、30台近くあった在庫を5台にまで減らし、顧客や業者との関係性を再構築する方針へ転換した。

   その頃、同様の保証をつけた輸入車販売店も出てきたが、関係性を構築していたおかげで競争に勝ち抜いたという。「他との圧倒的な差を築くのは、機能的価値ではなく、情緒的価値しかない」と断言する。

   転職を繰り返し、イケてない会社員だった小林さんは、在庫のない中古車販売店で働くことで、まずは人と出会って話を聞いてもらう機会づくりをし、他者のために役立つことが喜びとなったそうだ。

   関係性の構築には「信用」を得ることが基本になる。人として当たり前のことを当たり前のように行うことが、まずは大事であることを説いている。(渡辺淳悦)

「あなたの仕事・人生を好転させる『ファン』のつくり方」
小林大地著
あさ出版
1650円(税込)

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