最近よく聞く「心理的安全性」って何だろう?

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   最近、「心理的安全性」という考え方がビジネスの世界で注目されている。いったいどういうものなのか?

   本書「わたしからはじまる心理的安全性」(翔泳社)は、心理的安全性をつくるための方法を集めたティップス集である。

「わたしからはじまる心理的安全性」(塩見康史、なかむらアサミ著)翔泳社

   著者の塩見康史さんは、スコラ・コンサルトのプロセスデザイナー。大企業を中心に、企業風土改革、組織開発などの支援をしている。もう1人の著者である、なかむらアサミさんは、サイボウズのチームワーク総研シニアコンサルタント。著書に「『わがまま』がチームを強くする。」「サイボウズ流 テレワークの教科書」がある。

   スコラ・コンサルトとサイボウズ両社の知見をぐっと凝縮した本である。

低コストでイノベーションを生む

   「心理的安全性」とは何か? 心理的安全性が高いチームとは、「メンバーが、お互いに何でも率直に言い合え、安心して前向きに挑戦できるチーム」と定義している。

   心理的安全性の研究で有名になった、グーグルはもう少し学術的な言い方で、「チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに弱い部分もさらけ出すことができる」と表現しているという。

   決して「仲良しチーム」ではなく、目標を達成するために、時には言いにくいことも言える関係性であることが重要だ、と指摘している。

   本書では、心理的安全性が高いチームを「あんぜんチーム」と呼んでいる。その特徴は、無駄な仕事がなく、コストが少ないこと。さらに恐れなしにぶつかることからイノベーションが生まれることである。

   「あんぜんチーム」をつくるために、ひとりではじめること、メンバーで行うこと、リーダーの役割、みんなで行うことの章ごとに、70のティップスを紹介している。

ひとりでもはじめることができる

   まずは、ひとりではじめることから。コミュニケーションの基本が「安心・安全」をつくる、と説いている。当然といえば当然だが、あいさつをしっかりすることからはじめる。オンライン会議では特に重要だ。

   お互いを「さん」付けで呼び合うことも大切だ。上下関係を感じさせない言葉を使っていこう、と提案している。

   「仕事以外の話をする」ことも必要だそうだ。コロナ禍でオンラインに移行し、コミュニケーションが減少した。サイボウズで行ったのは、「定例会議の最初の10分を雑談時間にする」ことだった。

   また、オンラインだとなかなか雑談しにくいので、サイボウズでは、雑談する時間を他の会議と同じように、1回あたり30分から60分でスケジュールに登録して雑談しているという。「雑談は仕事の一環なので、業務時間に行ってください」と呼び掛けている。

   文字のコミュニケーションも重要だ。ポイントを以下のように挙げている。

・ポジティブな言葉やお礼からはじめる
・「!」や顔文字を活用する
・丁寧語で書く
・1段落に5行以上は書かない。それ以上書いても2~3段落(15行以内)までにおさめる

   次に、メンバーとして行動してほしいことを取り上げている。メンバーができることは、「事実を伝えること」「自分の気持ちを伝えること」の2つだという。

   最初に指摘しているのは、苦手な仕事を割り振られないために、「自分の得意と苦手を把握する」ことだ。たとえば、Excelが苦手なら、それを共有する。すると、リーダーはその仕事を他の得意なメンバーに振ることもできる。

   つまり、苦手を共有することが各自のストレスの軽減とチームの業務の効率化につながっていく。

リーダーが率先して行動を変えよう

   このほかに、「仕事の範囲外でもアンテナを立てておく」「他者や異業種からのインプットをする」「社内外の面白い人に近づいてみる」ことを勧めている。多様なメンバーが、面白さを出し合えるチームになることにより、新しいアイデアが生まれるからだ。

   「あんぜんチーム」づくりのためには、リーダーが率先して行動を変えていくことが必要だ、と管理職に注意を促している。メンバーは、リーダーの言葉ではなく行動を見ているからだ。できることからはじめて、「小さな1歩」をたくさん積み上げていくアプローチが効果的だという。

   具体的には、「腕や足を組まない」「会議のときは丸く座る」「相手の話を3分聞き続けてみる」「ひと呼吸置いてから話しはじめる」「苦手な仕事はそれが得意なメンバーに任せる」などを挙げている。

   また、仕事のゴールを共有するとともに、プロセスを確認することも重要だ。一番やってはダメなことは決定事項だけを話すことだ。主語を「会社」や「組織」ではなく「自分」にすることも提案している。

   最後に、「みんなでつくる心理的安全性」について説明している。「車座になってワークをする」「プロジェクト終了後に発表会をする」「定期的な勉強会や読書会をする」などを挙げている。

   実際に、サイボウズでは勉強会や読書会が業務時間中や業務時間外に開かれているという。また、スコラ・コンサルトでは経営会議をオープンに行い、話を聴きたい人はいつでも参加できるそうだ。「こんな職場で働いてみたい」と思うような実践に満ちている。

   最後に、心理的安全性が高い組織をつくることは簡単ではなく、一朝一夕ではできるものではない、と釘を刺している。しかしながら、コツコツと実践して生まれる行動習慣は、どんな場所でも発揮される大事なソフトスキルになるそうだ。ひとりでもできることからやってみたらどうだろう。(渡辺淳悦)

「わたしからはじまる心理的安全性」
塩見康史、なかむらアサミ著
翔泳社
1840円(税込)

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