企業のミドル層である中間管理職が、どう部下に接したらいいのか苦悩しているという。本書「部下を活かすマネジメント『新作法』」(労務行政)は、マネジメントの新しい手法を解説した本だ。先進事例も豊富に紹介している。
「部下を活かすマネジメント『新作法』」(前川孝雄著)労務行政
著者の前川孝雄さんは、FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師。リクルートで「リクナビ」などの編集長を経て、2008年に創業。「上司力」研修などで、400社以上を支援。著書に「本物の『上司力』「部下全員が活躍する上司力 5つのステップ」などがある。
本書は、「働き方の変化」「キャリアと育成」「上司力(部下指導)」「組織運営(チーム力)」「多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)」「人事・賃金制度」の6つの章からなり、マネジメントの新作法を20項目挙げている。
その中から、最近関心が高いと思われる項目をいくつかピックアップしよう。
優しいだけの上司は、本気で部下に向き合っていない
〇リモートワークでは仕事がしづらい?
本書では、パソコンメーカーのレノボ・ジャパンが、2020年に世界10カ国で実施した国際調査を紹介している。「在宅勤務で生産性が低くなった」との回答では、世界平均が13%のところ、日本は40%と10カ国中、最も高かったのだ。
日本では、リモートワークによって仕事の生産性が低下しがちだと認識されており、また上司は部下の働きぶりを把握できず、管理や育成がやりづらいと悩む傾向がある、と指摘している。ここから、前川さんは以下の新作法を挙げている。
「責任の明確化 信じて任せた仕事の当事者は部下自身」
「仕事の具体化 非言語コミュニケーションを言語化する」
部下自身に目的達成に向けた目標とスケジュールを立てさせ、上司はこれを承認する。上司は、これまで以上に自分が伝えたい内容をしっかり言語化し、丁寧に具体的に語ることが求められるという。
〇副業をすると、本業に支障が出る?
政府は働き方改革の一環として副業・兼業解禁の方針を打ち出し、2018年には促進に関するガイドラインも出された。しかし、禁止する企業が半数近いというデータ(2021年に労務行政研究所が行ったアンケート)を挙げ、企業の反応は鈍いと指摘している。
一方、積極的に副業を推進する企業には、「副業は本業にとってプラスになる」という考えが定着しつつあるという。それはなぜか。副業は社員が社外の知見やノウハウに触れ、新しいアイデアや能力を開発できる機会となり、新たなイノベーションの可能性を広げるからだ。そこで、以下の新作法を示している。
「副業は社員の成長と企業のイノベーションにつながる」
「社員のキャリア自律を支援する企業こそが選ばれる」
もはや企業が、社員全員に終身雇用を保障できる時代ではない。優秀な若手ほど、自らの成長を実現できる企業を選ぶ傾向があるので、「かわいい子には旅をさせよ」と説いている。
〇今どきの部下は厳しく指導するより、褒めて育てるべき?
働き方改革、パワハラ防止法で、厳しい指導がしづらい時代になった。上司はどう部下に接したらいいのか。褒めて伸ばす育て方は必ずしも万能ではない、と指摘する。
「部下の行動を具体的に褒める」
「本物の愛は厳しい愛」
優しいだけの上司は、本気で部下に向き合っていないというのだ。30年以上、現場から求められる上司のあり方を追求してきた、前川さんだけに、部下の指導法をさまざま具体的に提示している。