概算要求、114兆円超え過去最高を更新...膨らむ「事項要求」 緊急支出の削減も進まず...「平時」への転換方針、予算編成が試金石

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   2024年度予算編成に向けた各省庁の概算要求がまとまり、総額は114兆3852億円と、前年度から4.3兆円増えて過去最高を更新した。

   金額を決めずに要求する「事項要求」が多数並び、コロナ禍で緩んだ財政を「平時」に戻す気配は感じられない。金利上昇による利払いの増加など、財政の一段の悪化への懸念も広がっている。

  • 岸田首相
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「重要政策推進枠」に4兆1500億円余...財務省想定上限4.2兆円に迫る

   要求総額が100兆円を超えるのは10年連続、110兆円超は3年連続になる。

   省庁別では、医療や年金などの社会保障を担当する厚生労働省が、23年度予算比5866億円増の33兆7275億円で最大だ。

   こども家庭庁は一般・特別会計の合計で781億円増の4兆8885億円を要求した。今後3年間で取り組む「こども・子育て支援加速化プラン」は事項要求として金額を示ししていないため、年末の予算案決定までに数兆円規模が膨らむ見通しだ。

   防衛力の強化を進めている防衛省は、23年度予算比9170億円増の7兆7050億円を要求。23~27年度の防衛費を43兆円とすることが決まっており、射程の長いミサイルを含むスタンド・オフ防衛能力7551億円をはじめ、敵のミサイルを迎撃するイージス・システム搭載艦の建造費など巨額の要求項目が並んだ。

   賃上げ、デジタル化(DX)などなど、岸田文雄政権が重視する政策に優先的に予算措置を講じる「重要政策推進枠」には、総額4兆1554億円の要求があった。

   各省庁の裁量で決められる経費を削減すると、それを超える分の予算を要求できる仕組みで、戦略的な予算配分を進める狙いがあるが、重要政策とは関係性の薄いものも多く含まれる傾向も指摘される。今回の要望額は財務省が想定する上限の4.2兆円に近い額になった。

金額示さぬ「事項要求」の主役は少子化対策...児童手当拡充など、大半が具体策決まらず

   概算要求は、シーリング(天井)といわれる基準に基づき、各省庁が政策に優先順位をつけて必要な額を見積もるもので、年末の政府予算案決定に向け、財務省が要求を査定し、予算規模の野放図な膨張を抑える仕組みだ。

   金額を示さないものを「事項要求」といい、概算要求時点で先行きが見通しにくい政策を対象に、例外的に認めているが、近年は「乱用」が目立つ。

   1年前の23年度予算編成では、22年末に「防衛力整備計画」などの改定を控えていたことから防衛費で事項要求が相次ぎ、最終的に概算要求(5兆5947億円)から1兆円以上膨らんだ。

   今回の24年度予算の概算要求では、事項要求の主役は、前記のように少子化対策に移った。政府は23年6月に「こども未来戦略方針」を閣議決定したが、必要な予算は年3兆円台半ばとされる。

   しかし、財源や具体的な取り組みは年末までに策定するとして先送りしたため、目玉となる児童手当の拡充(1兆円以上の追加費用が必要と見込まれる)を含め、大半が事項要求になった。

   今回の事項要求分にはこのほか、マイナンバーカードと保険証の一体化▽物流分野での鉄道や船の利用促進▽駐留米軍の弾薬確保▽大阪・関西万博の関連経費▽エネルギー価格・物価の高騰対策▽ウクライナへの緊急支援――などが並ぶ。

   こうした予算編成の取り組みは、財政規律の上で問題だとの指摘は多い。

   鈴木俊一財務相は事項要求について、「概算要求の段階で具体的な所要額を見込むのが困難なものもあり、一定程度の事項要求が生じることはやむを得ない」として、年末までに厳しく査定する方針だが、重要政策推進枠を含め、「政権の重点政策として要求すれば予算を確保しやすい」(経済官庁幹部)との声も聞こえる。

岸田政権、解散・総選挙を意識し大型補正予算を提出方針...「歳出のタガは緩んだまま」との指摘も

   岸田政権は6月の政府の経済財政運営の指針(「骨太の方針」)で、「歳出構造を平時に戻していくとともに、緊急時の財政支出を必要以上に長期化・恒常化させないよう取り組む」と明記した。コロナ禍への対応などを名目に兆円単位の予備費を積むなど財政の危機モードから、平時に転換させる考えを打ち出していた。

   だが、防衛力の強化や少子化対策など政権の重点政策として予算が積み上がる一方、非常時に膨らんだ経費の削減は進んでいない。早ければ年内ともいわれる解散・総選挙を意識し、ガソリン高騰対策の延長など大型補正予算を編成し、秋の臨時国会に提出する方針で、「歳出のタガは緩んだままだ」(大手紙経済部デスク)。

   大手紙の社説も軒並み厳しい論調で、政府支持が常の読売新聞の社説(9月7日)でさえ「要求総額はコロナ禍前に行われた20年度予算の概算要求の約105兆円を大きく上回っている。今回の要求を見る限り、(平時に戻すという)骨太の方針の記述を実現しようとする姿勢は感じられない」と手厳しく批判。産経新聞の主張(社説に相当=9月3日)も、重要政策推進枠について「看板施策であっても政策効果は厳しく問われなければならない」とくぎを刺している。

膨張続く「国債費」は懸念材料...長期金利上昇受け、利払い費12.8%増9.5兆円の高水準

   今回の概算要求で、事項要求の多用などと並んで大きな懸念材料が「国債費」の膨張だ。国債の元利払い(償還や利払い)にあてる支出で、23年度当初予算から2.8兆円増やし、28兆1424億円を計上した。このうち、国債の利子にあたる利払い費だけでは12.8%増の9兆5572億円にのぼる。

   近年の利払い費は補正予算を含めても年7兆~8兆円台で推移してきたが、01年度(9.4兆円)以来の高水準だ。国債費の想定金利を1.5%と、23年度から0.4%引き上げた。日銀が政策修正に動き始めたことで長期金利が上昇していることを受けたものだ。

   日本の国債残高は、6月末現在で1026兆円と国内総生産(GDP)の約2倍の規模に達し、主要国で最悪の水準にある。もちろん、目先の長期金利が上昇しても、国債は長期・固定金利が多いから、直ちに利子の支払いが急増するわけではないが、中長期的にボディーブローのように効いてくるのは間違いない。

   岸田政権は防衛費をはじめ、少子化対策、地球温暖化対策など「重要項目の安定した財源の確保を事実上先送りしている」(9月5日付の日本経済新聞社説)との批判が絶えない。

   税や社会保険料などの負担の議論を進める覚悟を示すのか、財政を「平時」に戻すという骨太の方針が空手形になるのか。24年度予算編成が試金石になる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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