勝ち馬の「スタートアップ」への転職...伸びる会社を見極めるには?

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   岸田政権は2022年に「スタートアップ創出元年」を宣言した。日本の成長戦略に「スタートアップ支援」が盛り込まれ、22年度末の補正予算では、そのために1兆円の予算が割り当てられた。

   本書「スタートアップで働く」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、「経営は大丈夫か?」「報酬は上がるのか下がるのか?」などの疑問に答える、スタートアップへの転職ガイドだ。

「スタートアップで働く」(志水雄一郎著)ディスカヴァー・トゥエンティワン

   著者の志水雄一郎さんは、フォースタートアップ代表取締役社長。慶応義塾大学環境情報学部卒。インテリジェンス(現パーソル)で転職サイト「DODA(現doda)」を立ち上げ、2016年に創業。

給与報酬のほかに、株式報酬が得られる可能性

   なぜ、今、スタートアップなのか。「スタートアップの給料は安い」と思い込んでいる人がいたら、認識を改めた方がいい。

   本書によると、日本経済新聞社がまとめた2022年の「NEXTユニコーン調査」をひいて、スタートアップ回答企業の21年度の平均年収は650万円で、上場企業の平均を45万円(7%)上回っていたという。

   さらに、志水さんは「株式報酬」のメリットを強調している。スタートアップでは、上場前の段階から事業に携わり、その貢献度などにより、ストックオプションを付与されることがある。

   成長過程で上場を果たせば、権利行使価格と上場した株価との差額をキャピタルゲインとして得られる。仮に、会社が株式全体から0.1%のストックオプションを付与していたとする。日本は上場時のバリュエーション(企業価値)が2021年の初値ベースで平均250億円だったから、単純に計算しても株式報酬は2500万円の価値になる。

   働き方次第で企業がさらに大きくなれば、株価もより高まり、手にしているストックオプションの価値も向上していく。

   しかも、社会や未来の課題解決を掲げるスタートアップが多いから、「仕事を通じて人類の現在と未来に貢献でき、さらには自己実現にも近づけるかもしれない」と意義を語る。

   スタートアップ転職がキャリアにもたらす、2つのメリットを挙げている。

   1つは、市場的に旬の環境に身を置くことで、人生の推進力を上げられること。もう1つは、給与面やキャリア形成も含めた総合的な判断がしやすくなることだという。

スタートアップへ転職、家族から反対されたら?

   安定した大企業からスタートアップへ転職する場合に、家族から反対されることが多い。

   その説得方法として、3年から5年の家庭内の損益計算書と貸借対照表をつくることを勧めている。それをもとに「転職の経済合理性」を説明するのだ。

   当然、どのスタートアップに転職すべきかが重要になる。

   スタートアップには、創業、シード、アーリー、ミドル、レイターという5つのステージがあり、その後イグジットと成長していく。以下のように説明している。

「最初のシードでは、起業のアイデアを具現化するための資金調達が行われる。次に、アーリーステージでは、市場へ投入するためのプロトタイプ開発が行われ、提供するサービスの可能性や方向性を固めていく。この時期の投資ラウンドをより細かく分けて、『プレシリーズA』や『シリーズA』とも呼ぶ」
「事業が軌道に乗り始めるとミドル(プレシリーズB、シリーズB)に入り、事業の拡大や市場シェアの確保を図る。そしてレーター(シリーズC以降)では業績の安定化や事業の収益性を高めるための資金調達も行われる」
「そして、イグジットでは、株式の新規上場(IPO)や、M&Aによる事業会社への売却という形でより大きな成長や安定化を目指していく」

   上場前の企業、特にシリーズA、Bあたりのスタートアップを狙うのが、最も賢明だという。シリーズCや以降のラウンドにいるスタートアップは、株式上場の可能性こそ上がるが、配布されるストックオプションの比率が下がる可能性が高かったり、そもそも付与されなかったりするからだ。

「自分はどう生きるべきか」をインプットしよう

   では、伸びるスタートアップはどうすれば見極められるのか。

   「優れたベンチャーキャピタリストが投資する企業を選べばいい」と即断している。ベンチャーキャピタリストは、スタートアップと常に向かう最高の目利きなのだから、その目利き力に頼るのだ。

   経済情報誌「Forbes」が毎年発表している「ミダスリスト」というベンチャーキャピタリストのランキングを見て、後はそのベンチャーキャピタリストが投資する会社を見ればいいという。また、「STARTUP DB」などのデータベースも参考になるそうだ。

   「会社と自分のミッションが合わないと気づいたときが、辞めどき」だと書いている。今のままでは負けていく日本で、「安定」に「普通」を生きることは怖さにつながるという。だから、自分が「普通」だと感じる人にこそ、果敢に「旬」の市場を狙って、勝ち馬に乗りにいくことを勧めている。

   最後に、スタートアップ転職した5人の成功事例を紹介している。メガバンクからスタートアップのAI企業に営業として入社、現在は執行役員になった人、証券会社、総合商社を経て研究者支援のスタートアップの執行役員になった人などのインタビューを読むと、それぞれ貪欲にキャリア形成に努めてきたことがわかる。

   志水さんは、スタートアップへの転職の前に、まず「インプットを変える」ことの重要性を説いている。

   あるベンチャーキャピタリストとの出会いが、その後の人生を変えた体験を披露している。スタートアップカンファレンスや勉強会に行き、参加者のレベルやモチベーションを体感して、「自分はどう生きるべきか」をインプットすることを勧めている。

   経済的なことを中心に紹介したが、本書の根底には社会課題を解決したいという熱い思いが流れている。それは、スタートアップに共通した理念でもある。(渡辺淳悦)

「スタートアップで働く」
志水雄一郎著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
1870円(税込)

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