これを「騎虎(きこ)の勢い」というのだろうか。虎の背に乗って走ったら、途中で降りられなくなるほどの勢いやはずみがつくというたとえの諺だ。
2023年9月14日、プロ野球の阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝を果たしたが、全国にある「阪神」と「タイガース」という名前がつく会社も、とんでもなく業績が絶好調であることが、同日、東京商工リサーチが発表した調査でわかった。
なんと、各社の利益合計が2年で16倍という、まさに「虎に翼」を思わせる大躍進ぶりだ。
岡田監督が言い続けた「アレ」を呼び込んだ、中小零細企業の大躍進
東京リサーチが発表した「『阪神』『タイガース』社名企業の業績調査」によると、調査対象は同社の企業データベース(約390万社)から、社名の一部に「阪神」または「タイガース」が付く企業のうち、業績が判明した285社を抽出した。
そして、2022年4月~2023年3月の本決算(2022年度)を最新期として、分析したところ、売上高の合計は3年間で1兆円~1超2000億円の間を推移し、横ばいながら、利益(最終利益)は急上昇していることがわかった。
2020年度の利益合計は約37億円、2021年度は約300億円、2022年度はなんと588億円と、コロナ禍の3年で約16倍もの増益を実現している。急ピッチで回復を果たしたのだ【図表1】。
こうしてみると、岡田彰布監督が就任以来言い続け、チームが目標としてきた「アレ」(※「優勝」のこと)を果たせたのは、むしろコロナ禍でも急回復した全国の「阪神」「タイガース」を冠する企業の勢い――「コレ」が、阪神タイガースの快進撃を呼び込んだともいえるのではないか。
「阪神」「タイガース」社名の企業とは、いったいどんな会社なのか。
285社を従業員数別(正社員)に見ると、最多は5人未満の94社(32.9%)、次いで10人以上50人未満の77社(同27.0%)、5人以上10人未満の48社(同16.8%)と続き、10人未満の中小零細企業が142社(同49.8%)と半数近くを占める【図表2】。
100人以上の企業は38社(13.3%)しかいないが、そのほとんどがプロ野球「阪神タイガース」を傘下に持つ「阪急阪神ホールディングス」(大阪市北区)とそのグループ企業とみられる。
同社のホームページを見ると、「不動産」「タクシー」「電鉄」「旅行」「ホテル」「情報通信」「エンタテインメント」など、さまざまな業種の会社に「阪神」の名前がついている。
18年前の優勝同様、阪神の優勝が全国の企業の倒産を減らす?
「阪急阪神ホールディングス」とそのグループ企業の業績が、全国の「阪神」「タイガース」社名企業の勢いを牽引したのは確かだ。しかし、同グループ以外の中小・零細企業を含めて分析しても、企業業績は力強い。
それは、損益別のデータをみるとわかる。2022年度は黒字が85.3%、赤字が14.6%で、黒字が9割近くに達した。2021年度は黒字81.2%、赤字18.7%で2022年度に黒字化した企業も多かった。コロナ禍の影響が強い2020年度は、黒字が83.8%、赤字が16.1%だったから、黒字企業の割合が増えていることがわかる【図表3】。
売上高の増減収別のデータをみても同じ傾向がうかがえる。2022年度は増収141社(49.4%)と5割近くが増収だった。一方、減収は91社(31.9%)、横ばいも53社(18.6%)にとどまった。コロナ禍の影響が強い前期(2021年度)は、増収133社(46.6%)、減収が109社(38.2%)、横ばいが43社(15.0%)だったから、増収の割合が増えて好調であることがわかる【図表4】。
東京商工リサーチでは、今回の阪神優勝の意外な経済効果をこうコメントしている。
「前回セ・リーグで優勝した18年前の2005年の全国倒産は1万2998件で、前年(1万3679件)より4.9%減少した。現在、企業倒産は2022年4月~2023年8月まで17か月連続で前年同月を上回っているが、阪神タイガースの優勝で減少に転じる兆しが見えてくるかもしれない」
阪神の優勝が18年前と同様に、全国の倒産を減らしてくれるかもしれない、というのだ。これこそまさに、日本経済にとって「虎の子」のチャンスではないだろうか。(福田和郎)