富士山や唐招提寺も犠牲に!?世界で悲鳴の「オーバーツーリズム」問題 海外メディアが指摘する「外国人観光客はなぜ、迷惑行為を繰り返すのか?」(井津川倫子)

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   世界的にコロナ禍による規制が緩和されて、久しぶりに「旅行解禁」となった2023年の夏。これまで旅行を控えていた人々が「待っていました!」とばかりに観光地を訪れ、リアルな旅を満喫したようです。

   コロナ禍で大きな打撃を受けてきた観光地に人が戻り、地元は大喜びかと思いきや、急激な訪問客の増加による「overtourism」(オーバーツーリズム)が問題になっています。さらには、酔っぱらってエッフェル塔に登ったり、文化遺産に傷をつけたりといった「迷惑行為」も各地で急増しているとか。

   コロナ禍前とは次元の異なるトラブルの数々に、海外メディアも「なぜ、外国人観光客の迷惑行為が増えているのか」と、フォーカスしています。

米CNNもビックリ!「富士山頂はまるでディズニーランドだ!」

   日本でも話題になっているオーバーツーリズム。「観光公害」という意味で、観光客が急増することで、地元住民の生活や自然環境などに悪影響を及ぼす状況のことを指しています。

   過去にもオーバーツーリズムが話題になったことはありましたが、23年の夏は「被害」が顕著で、各国の観光地が悲鳴を上げていると海外メディアが報じています。

Mount Fuji in trouble: How Japan's highest peak fell victim to overtourism
fall victim to~:~の犠牲になる、~の被害にあう
(富士山がピンチ!日本で一番高い山がオーバーツーリズムの犠牲になっている:米CNN)

   米CNNは、日本が誇る富士山の状況に注目。富士山がオーバーツーリズムの「犠牲」になっている理由として、米国の国立公園や自然遺産とは異なり「無料」であること、訪問客を外に追い出す「gate」(門)がないことを指摘。「山頂には人があふれていて、まるでディズニーランドのようだ」という声を紹介していました。

   急増する観光客に悲鳴を上げているのは、富士山だけではありません。経済誌フォーブスはオーバーツーリズムについて、次のような刺激的なタイトルで報じています。

Tourists go home! fed up with overtourism, European hotspots impose bans, fines
(観光客は家に帰れ!オーバーツーリズムは、もうたくさんだ。ヨーロッパの観光地で広がる禁止や罰金の動き)

   23年の夏、地域によっては40度以上の気温が連日続くなど、記録的な猛暑に襲われたヨーロッパですが、観光客の足に影響はなかった様子。ギリシャやイタリア、オランダといった人気観光地に人々が殺到して、地元民の暮らしや自然環境への悪影響が問題となっています。

   どれだけ多くの観光客が殺到しているのか、住民一人当たりの観光客数で見てみると、イタリアのヴェネチアは、住民一人に対して21人の観光客が、フランスのパリでは9人が訪れている試算だというから驚きます。

   フォーブス誌は、これまで「come-to-us」(ぜひ、うちに来てくれ!)と観光客の誘致に熱心だった観光地が、「please-don't」(お願いだから来ないで)と、態度を急変させていることも伝えています。

   こうした「観光客お断り」の動きは増えていて、風光明媚な湖畔の街で知られるオーストリアのハルシュタットには、人口700人の街にピーク時は1日に10,000人を超える観光客が殺到! 業を煮やした地元民が、道路を封鎖して講義をするという「事件」が発生したほどです。

   さらには、オーバーツーリズムだけではなく、羽目を外した外国人観光客の迷惑行為も急増しています。観光地で名高いパリのエッフェル塔では、酔っぱらった米国人観光客2人が立ち入り禁止エリアに入り込んで夜を明かし、高所救助の専門チームや消防隊が派遣されたことがニュースになりました。

   ほかにも、ローマのコロッセオに落書きをしたり、日本でも17歳のカナダ人観光客が、世界遺産でもある奈良・唐招提寺の金堂の柱に、爪で文字を書いて傷つけるなど、世界中の観光地で迷惑行為が多発しているのです。

   こうした状況を、多くのメディアが「a double-edged sword」(諸刃の刃)だと指摘していますが、コロナ禍で激減した観光客の再来を心待ちにしていた観光地の人々が、今度は新しい試練に見舞われているとは...。なんとも皮肉な現象ではないでしょうか。

アフターコロナの「リベンジ旅行」の弊害?! それとも、間違ったエリート意識の反映か

   英BBC放送が「Is this the summer of bad tourists?」(今年は、迷惑旅行者の夏だったのか)と指摘するように、外国人観光客が引き起こすオーバーツーリズムや迷惑行為がここまでニュースになったことはありませんでした。

   どうして、23年の夏に旅行者のトラブルが増えてしまったのか...。海外メディアは3つの理由を挙げています。

   1つ目は、SNSの浸透です。SNSで「映える」写真を撮るために、ベストショットを求めて特定の場所に人が押し寄せたり、道路にはみ出したり民家に入り込んだりする人が増えているそうなのです。

   日本国内でも、富士山を背景にしたベストショットが撮れると話題になったコンビニに、外国人観光客が押し寄せている様子がテレビで紹介されていました。こうした「撮影場所」がSNSで広がっていることも、局地的に観光客が集中するオーバーツーリズムの要因になっています。

   また、コロナ禍で長い間旅行をがまんしていた人たちが、「リベンジ旅行」を満喫していることも一因です。「これまでがまんしてきたから、少しくらい羽目を外してもいいだろう」「リベンジ旅行だから、やりたいことをやりたい!」といった思考が、迷惑行為につながっていると指摘されています。

   私が面白いと思ったのは、「間違った特権意識」が迷惑行為の原因になっているという分析です。

   世界的なインフレや物価上昇で人々の生活が苦しくなっている中、この時期に海外旅行に行ける人はまだ少数派の恵まれた人たちだけ。「私たちは特別だから、多少のトラブルは許される」「お金で解決すればいいだろう」という間違ったエリート意識が、傍若無人な行為の根底にあるのではないか、という見立てです。

   たしかに、私の周りでも、この夏に海外旅行を楽しんだ人はひと握りで、友人の多くは「円安でチケットも宿も高いし、海外はムリ」とあきらめていました。歴史的なインフレや景気悪化の波が押し寄せている他の国々でもきっと同じような状況だとすると、「間違ったエリート意識」説につい一票を投じたくなります。

   円安もインフレも物価高も気にせずに、軽やかに海外旅行を楽しめる人々を心の底からうらやましいと思いつつ、美しい世界の街並みや遺産の数々が傷つけられることだけは何としてでも阻止したいと強く感じるこの頃です。

   それでは、「今週のニュースな英語」は、「overtourism」を使った表現をご紹介します。旬の話題ですから、ぜひ、日々の会話で使ってみて下さい。

Okinawa introduces cap on visitors to prevent overtourism
(沖縄はオーバーツーリズムを避けるために、観光客の数に上限を定めている)

Greece seeks way to tackle overtourism
(ギリシャはオーバーツーリズムを避ける方法を探している)

Kyoto will stop selling the one-day bus pass to tackle overtourism
(京都は、オーバーツーリズム対策として、バスの一日券を廃止する方向だ)

   人口700人の街オーストリアのハルシュタットには、20年以上前に訪れたことがあります。当時は、知る人ぞ知る「秘境の地」だったハルシュタット。

   夜になると街の中心広場からも人が消えて静寂が広がるなか、クレジットカードが使える観光客向けの食堂を「Can you accept Visa card?」(ビザカードは使えますか?)と必死に探したことを思い出しました。後世のためにも、リベンジ旅行の弊害は23年だけの「遺物」にしたいものです。(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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