アフターコロナの「リベンジ旅行」の弊害?! それとも、間違ったエリート意識の反映か
英BBC放送が「Is this the summer of bad tourists?」(今年は、迷惑旅行者の夏だったのか)と指摘するように、外国人観光客が引き起こすオーバーツーリズムや迷惑行為がここまでニュースになったことはありませんでした。
どうして、23年の夏に旅行者のトラブルが増えてしまったのか...。海外メディアは3つの理由を挙げています。
1つ目は、SNSの浸透です。SNSで「映える」写真を撮るために、ベストショットを求めて特定の場所に人が押し寄せたり、道路にはみ出したり民家に入り込んだりする人が増えているそうなのです。
日本国内でも、富士山を背景にしたベストショットが撮れると話題になったコンビニに、外国人観光客が押し寄せている様子がテレビで紹介されていました。こうした「撮影場所」がSNSで広がっていることも、局地的に観光客が集中するオーバーツーリズムの要因になっています。
また、コロナ禍で長い間旅行をがまんしていた人たちが、「リベンジ旅行」を満喫していることも一因です。「これまでがまんしてきたから、少しくらい羽目を外してもいいだろう」「リベンジ旅行だから、やりたいことをやりたい!」といった思考が、迷惑行為につながっていると指摘されています。
私が面白いと思ったのは、「間違った特権意識」が迷惑行為の原因になっているという分析です。
世界的なインフレや物価上昇で人々の生活が苦しくなっている中、この時期に海外旅行に行ける人はまだ少数派の恵まれた人たちだけ。「私たちは特別だから、多少のトラブルは許される」「お金で解決すればいいだろう」という間違ったエリート意識が、傍若無人な行為の根底にあるのではないか、という見立てです。
たしかに、私の周りでも、この夏に海外旅行を楽しんだ人はひと握りで、友人の多くは「円安でチケットも宿も高いし、海外はムリ」とあきらめていました。歴史的なインフレや景気悪化の波が押し寄せている他の国々でもきっと同じような状況だとすると、「間違ったエリート意識」説につい一票を投じたくなります。
円安もインフレも物価高も気にせずに、軽やかに海外旅行を楽しめる人々を心の底からうらやましいと思いつつ、美しい世界の街並みや遺産の数々が傷つけられることだけは何としてでも阻止したいと強く感じるこの頃です。
それでは、「今週のニュースな英語」は、「overtourism」を使った表現をご紹介します。旬の話題ですから、ぜひ、日々の会話で使ってみて下さい。
Okinawa introduces cap on visitors to prevent overtourism
(沖縄はオーバーツーリズムを避けるために、観光客の数に上限を定めている)
Greece seeks way to tackle overtourism
(ギリシャはオーバーツーリズムを避ける方法を探している)
Kyoto will stop selling the one-day bus pass to tackle overtourism
(京都は、オーバーツーリズム対策として、バスの一日券を廃止する方向だ)
人口700人の街オーストリアのハルシュタットには、20年以上前に訪れたことがあります。当時は、知る人ぞ知る「秘境の地」だったハルシュタット。
夜になると街の中心広場からも人が消えて静寂が広がるなか、クレジットカードが使える観光客向けの食堂を「Can you accept Visa card?」(ビザカードは使えますか?)と必死に探したことを思い出しました。後世のためにも、リベンジ旅行の弊害は23年だけの「遺物」にしたいものです。(井津川倫子)