財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは「薬局、医療向けソリューション」を提供し、2023年10月4日に東証グロース市場に上場予定の「くすりの窓口」です。
2013年に光通信の子会社であるインターネット予約サービス「EPARK」が、調剤薬局向け事業を開始。この事業を2015年に切り出して、EPARKヘルスケアを創業しました。
翌2016年には、当時東証一部に上場直後のフリービットの子会社となり、2017年に社名をフリービットEPARKヘルスケアに変更。2020年10月にフリービットの保有株式を、現代表取締役会長の田中信明氏のファンドへ全譲渡し、同年11月に現在の社名となりました。
2020年12月には、医療機関向け電子カルテシステムやレセコン(診療報酬明細書〔レセプト〕を作成するコンピュータ)システムの開発を行うメディカルJSPを子会社化。2021年4月には、医事会計やオーダリング(検査、処方等の指示を管理する医療情報システム)、電子カルテシステムの開発を行うエーシーエスを子会社化し、業容を拡大しています。
みんなのお薬箱事業は「医薬品卸と薬局をつなぐプラットフォーム」
くすりの窓口のビジネスは、薬局の現場の課題をITを活用してユニークに解決しています。報告セグメントは「薬局、医療向けソリューションの開発および販売」の単一セグメントですが、タイプが異なる3つの事業を展開しています。
2023年3月期の売上高構成比は、(1)「みんなのお薬箱事業」が最も大きく30億0933万円で40.6%を占め、次いで(2)「メディア事業」が26億6161万円で35.9%、(3)「基幹システム事業」が17億4984万円で23.6%とバランスがとれています。
1つ目の「みんなのお薬箱事業」は、「医薬品卸と薬局をつなぐプラットフォーム」をコンセプトに3つのサービスを運営しています。
(1-1)「みんなの共同仕入れサービス」は、薬局や医療機関に代わって、当社関連会社のグローバル・エイチがあらかじめ医薬品卸売事業者との医薬品の仕入価格交渉を行うサービス。加盟薬局等は交渉後の価格での仕入れが可能で、単独で仕入れるよりもスケールメリットを享受できます。主な事業収益は、薬局等と医薬品卸事業者との間の医薬品売買における取引薬価、売買価格に応じて算定される手数料収入です。
(1-2)「eオーダーシステム」は、薬局や医療機関の医薬品の在庫管理や自動発注の機能を備えたシステム。レセコンと連携させると、人工知能(AI)が患者ごとの処方歴を把握し、必要な医薬品の種類と量をリストアップ。自動的に医薬品の発注が行われ、過剰在庫の抑制や欠品の防止、薬剤師の事務負担軽減が図られます。主な事業収益は、薬局等からの初期導入費用収入およびシステム利用料収入です。
(1-3)「みんなのお薬箱」は、医薬品売買ニーズマッチングサイト/アプリ。薬局で処方されずに不動在庫となった医薬品を売りたい薬局と、不足している医薬品を買いたい薬局のニーズをマッチングさせ、売買を仲介します。
売却方法は、購入希望者を募る「出品」と、調剤薬局向け不動医薬品在庫販売サイト「ポケヤク」を運営する子会社のピークウェルが「買取」して「出品」する2種類があります。店舗における医薬品ごとの月間使用量をAIが分析し、出品されている医薬品を自動的に購入するメニューもあります。主な事業収益は、売買が成立した医薬品の薬価に応じた手数料収入です。
メディア事業は「医療と患者をつなぐプラットフォーム」
2つ目の「メディア事業」は「医療と患者をつなぐプラットフォーム」をコンセプトとする事業で、2つのサービスを運営しています。
(2-1)「EPARKくすりの窓口」は、薬局の検索サイト/アプリです。立地や営業日などで薬局を検索できるほか、患者が医療機関から受け取った処方箋をサイト/アプリ経由で指定した薬局に送ると、処方薬受け取りの予約ができる機能を備えています。患者の待ち時間短縮につながるほか、薬局は処方薬の準備ができ、店舗内の混雑防止にもつながります。
主な事業収益は、薬局からの処方箋のインターネット予約に係る手数料収入です。患者から初回予約があった場合、初回登録手数料が発生。その後は初回よりも金額を抑えた手数料が、登録管理料として毎月継続します。この収益の一定割合を、ロイヤリティとして株式会社EPARKに支払っています。
(2-2)電子お薬手帳アプリ「EPARKお薬手帳」は、処方された医薬品の情報を登録できるほか、飲み忘れ防止のアラーム発信機能、血圧値や体温の登録などPHR(Personal Health Record)管理機能を備えています。
薬局側は、処方した医薬品の情報を患者のお薬手帳に自動登録したり、過去の処方歴を自店のPC等で確認したりできます。「EPARKお薬手帳」からの直接的な収益はありませんが、薬局をかかりつけ登録することで「EPARKくすりの窓口」の利用促進・リピートにつながります。
3つ目の「基幹システム事業」は「医科、薬局、介護のデータ連携プラットフォーム」をコンセプトとした事業。サービスの1つである調剤薬局向けレセコン「Pharmy」の開発販売を行うモイネットシステムは、連結売上高に占める割合が10%を超え、売上高10億7947万円、当期純利益2億1809万円をあげています。主な事業収益は、初期導入費用収入と保守料収入です。
子会社の連結化で急速に規模拡大
それではここで、くすりの窓口の近年の業績の推移を見てみましょう。なお、2021年3月期以前は、単体での実績。2022年3月期以降は、グループ会社を含む連結での実績です。
くすりの窓口は単体事業で順調に売上高を伸ばしてきましたが、2022年3月以降は買収した「基幹システム事業」の子会社分が連結されて、急速に規模が大きくなっています。
なお、2024年3月期の第1四半期業績は、売上高が21億5329万円、営業利益が4億5801万円、営業利益率が21.3%、四半期純利益が3億0121万円。売上高の進捗も良好ですが、利益率が高く、今期は大幅に改善される可能性があります。
くすりの窓口の従業員数は、2019年3月期末の116人から、154人、252人と急速に伸びており、2022年3月期以降は、単体で303人、320人、2023年7月末時点で309人となっています。連結では396人、424人、434人に達しました。
2023年7月末現在、くすりの窓口従業員の平均年間給与(単体)は430万円(賞与および基準外賃金を含む)。平均年齢31.8歳、平均勤続年数2.2年です
なお、管理職に占める女性労働者の割合は3.5%、男性労働者の育児休業取得率は10.0%、労働者の男女の賃金の差異は、全労働者では64.8%、正規雇用労働者では66.7%、パート・有期労働者では27.9%でした。
「アプリが使いやすい」と高評価がある一方で...
株主構成は、NBSEヘルステック投資事業有限責任組合(田中会長のファンド)が32.98%、株式会社EPARKが32.52%、SBIイノベーションファンド1号が29.72%で、この3者が95.22%を所有しています。なお、EPARKは光通信が株式の47.9%を保有する子会社です。
ネットを検索すると、くすりの窓口の中途採用求人が掲載されています。目につくのは「業界経験不問の提案営業」「未経験大歓迎」の文字で、このあたりは光通信系の営業会社の特徴といえるかもしれません。
「複数の自社サービスを開発する部署の事業部長候補(システム開発部)」の求人では、想定年収は804万円~1200万円。804万円の場合の内訳は(固定給36万円+管理職手当24万円)×12ヶ月分に住宅手当年12万円が加わるとのことです。
気になるのがネットの評判で、Googleのクチコミには、くすりの窓口の「アプリが使いやすい」と高く評価する声がある一方、「何度断っても勧誘の電話が来ます」などの不満の声も見られます。
母体となったEPARKのクチコミにも厳しい評価が寄せられており、それだけ粘り強い営業活動を推進する会社は将来が期待できる、と評価すべきか否かの判断が問われそうです。(こたつ経営研究所)