コオロギは、食糧難を回避するための「最適解」になり得るのか?【後編】/コオロギ食「エコロギー」代表・葦苅晟矢さん

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   「飼育が簡単であり、かつ、繁殖力が強い」。そんな特徴を持つコオロギが、フードロスを解決し、ひいては循環型社会の到来を近づけるのではないか――。

   コオロギに未来を見出し、コオロギを活用する事業を手掛けているのが「株式会社エコロギー」だ。代表取締役は、葦苅晟矢(あしかり・せいや)氏。

   <コオロギは、食糧難を回避するための「最適解」になり得るのか?【前編】>に続き、インタビューが進む中、葦苅氏はコオロギの養殖現場たるカンボジアには、以前からコオロギを食べる習慣があることを明かした。

  • コオロギ食の未来について語る葦苅晟矢氏
    コオロギ食の未来について語る葦苅晟矢氏
  • コオロギ食の未来について語る葦苅晟矢氏

「カンボジアでは都市部であっても身近な食文化として定着しています」

   ――コオロギの加工は全てカンボジアで行うのでしょうか?

葦苅氏 一般的な粉砕機を使って、荒い粉末にするところまではカンボジアで行っています。そのままでもペットフードの原料としては使えますが、日本の基準で人が摂取できる製品にすべく、弊社独自の技術でたんぱく質を加水分解します。
ここまで処理を行うと、健康には良いがクセや苦味が強いタンパク質が分解される一方、うま味を感じられるアミノ酸が増えるため、健康に良くて食べやすいエコロギーパウダーが完成するのです。

   ――いいことずくめ、といったところでしょうか。ところで、コオロギの生産地としてカンボジアを選ばれた理由は何でしょうか。

葦苅氏 カンボジアには、もともとコオロギを食べる食文化があったからです。加えて、首都のプノンペンには今も揚げコオロギといったコオロギ料理を提供する屋台が出店しており、都市部であっても身近な食文化として定着しています。 これが、たとえばタイですと、もちろん昆虫食の文化はあるのですが、バンコクだと意識的に探さないと店が見つからないといった状況でした。そこで、東南アジア各国を視察した結果、カンボジアはタイなど他の国よりもコオロギの流通網が整備されているのではないかという思いは都市部を見ただけでも感じました。

   ――なるほど。

葦苅氏 そして、実際にカンボジアの農村部には本当にたくさんの生産者がいたのです。その点に、ものすごく可能性を感じ、だからこそ、弊社はカンボジアに拠点を置くことを決めました。

   ――日本ではコオロギといえば秋の虫というイメージですが、カンボジアにおけるコオロギのシーズンはいつなのでしょうか。

葦苅氏 飼育条件次第ということにはなりますが、日本のように休眠はしませんので、基本的には通年性ですね。現地のコオロギのライフサイクルは約45日なので、年間で約8回転となります。

「単なる次世代の食材」では、仮に1回手に取られても「続かない」

   ――エコロギーパウダーの実際の使用例をお教えください。

葦苅氏 エコロギーパウダーは舌触りがよく、甘いものから塩辛いものまで相性がいいのが特徴です。このため、その使用例としてはまずチョコレートが挙げられます。混ぜるだけで、コクを出すことができます。また、塩辛いものとしては、パンやスナック菓子が挙げられます。

   ――汎用性が高いのですね。

葦苅氏 ただ、いくつか問題があります。それは、チョコレートに混ぜる場合がまさしくそうなのですが、混ぜる対象が嗜好品の場合は、それを食べた場合のコオロギパウダーの摂取量はいかに栄養価が高くても極わずかです。
なので、我々がまずやっていきたいことは、コオロギ食を嗜好品などで気軽に楽しんでいただいて、その次の段階として「栄養価が高い食材」として認識していただくことです。ひいては、「毎日継続的に食べる健康食材」としての普及を目指しています。

   ――継続的に摂取する食材にするためのアプローチとしてはどんなことをなさっているのでしょうか。

葦苅氏 具体的には健康補助食品「グリロプロテイン」の販売を行っています。ようは、「単なる次世代の食材」で終わらないようにしていきたい、ということです。
近年、日本国内でもSDGsへの関心は高まっているため、若い方を中心にコオロギ食を手に取る方は増えていますが、単なる次世代の食材では仮に1回手に取っていただいても「続かない」のです。

   ――たしかに、「環境にいいから」と言われて、即、「コオロギを食べよう!」とは、なりませんよね......。

葦苅氏 なので、「いかに継続的にコオロギで栄養素を採っていただくか」という話になっていくわけです。正直な話、コオロギ食に対する世間の認知度はまだまだ表面的な新しさがウケているという状況から脱していない、と感じています。そうではなくて、「鉄分や亜鉛など、普段の食事では不足しがちな栄養素を手軽に摂取できる生活習慣」としてのコオロギ食を提案していきたいのです。

   ――鉄分や亜鉛、不足しがちですよね。

葦苅氏 そういったことを通じて、コオロギ食のイメージを、いわゆる「ゲテモノ食品」から変えていきたい、と考えています。
業界全体としての課題としていえると思いますが、現状、たとえばコオロギ食の製品にはコオロギのイラストがプリントされていたりもします。それを面白がって手に取る方は多いのですが、それでは「1回食べて終わり」になってしまいます。しかも、そうしたパッケージからは、鉄や亜鉛が多いという、栄養に関しての事実は伝わっていません。
そうではなくて、鉄分が多く含まれている以上、たとえば、貧血の予防になるといった説明が必要なのです。そういうこともあって、弊社は女性向けの商品として貧血などの健康課題を解決するための栄養補助食品の商品開発を進めています。

SDGsに資するからといって、「全ての人がコオロギを食べるようになる社会」を目指しているわけではない

   インタビュー終盤、話の内容はコオロギをめぐる「騒動」についての話も出た。それは2022年11月、ある地域の高校の給食として出されたコロッケにコオロギパウダーが使われていたことに端を発する。これに対し、一部のネットユーザーが「生徒に無理やり食べさせたのではないか」などと反応。学校に批判の声が届く事態となった。

   ――さきほど、「ゲテモノ」という話になりましたが、昨年11月にはコオロギ食をめぐる騒動がありましたね。これはもちろん、コオロギ食が普及途上である以上は出てくるのはやむを得ない反応のようにも思えますが、このような声が上がってしまったことに対して、どのように受け止めていますか。

葦苅氏 やはり、コオロギを「食べるメリット」を伝えていくということに尽きるかと思います。そもそも、3、4年前まではコオロギ食の話をしても、世の人々の頭の中では「コオロギ」と「食」が結びつくことはなかったのです。ところが、ありがたいことに2年ぐらい前からはコオロギ食をはじめとする昆虫食についての概念を、みなさんが知っていてくださるようになりました。その背景は、やはり、SDGSでした。

   ――昆虫というのは、分かりやすい部分がありますよね。

葦苅氏 ただ、そうやって昆虫食についての意識が広がっていく中で、どこか、「SDGsに資するコオロギは食べなければいけない」といった、「何らかの強制力が働いていそうな風潮」が出てしまっていた感は否めません。そのような下地があったからか、ネット上で騒ぎになってしまったのかもしれません。

   ――学校給食となると、いかにも強制力が働いていそうですからね。ただ、コロッケはあくまで希望者が食べたようですが......。

葦苅氏 あたかも、コオロギが入った食品を無理やり食べさせられそうになったといった「雰囲気」が出てしまったために、そこを切り取られて騒ぎが起きてしまったということなのだと思います。
なので、我々コオロギ食業界の人間として、世の中の皆様にお伝えしていきたいのは、「全ての人がコオロギを食べるようになる社会」を目指しているわけではない、ということです。この点をきちんとお伝えしたうえで、「必要な方に手に取っていただく」ことを目指しています。

コオロギ養殖を行う現地の農家には現金収入が生まれ、副業として重宝されているという

   ――最後になりますが、御社およびエコロギーパウダーの今後の展望をお教えください。

葦苅氏 さきほどまでは、「普段の食事では不足しがちな栄養素を手軽に摂取できる」という点を強調してきましたが、今後はより健康についてより深い課題である生活習慣病に対するソリューションたりうることをお伝えしていきたいです。
日本もそうですが、東南アジアもまた米食がメインであり、生活習慣病が起こりやすい食生活といえます。加えて、カンボジアは経済発展によって中間層が増えていますので、甘いものを食べることによる生活習慣病も増加中です。弊社では現在、コオロギ食に生活習慣病を予防する効果があるのではないかと、研究を進めています。

   ――生活習慣病対策になる可能性もあるんですね!

葦苅氏 今後、弊社では人類が未利用の生物資源を使って、持続可能な食の生産インフラを作っていくことを目指していきたいと考えています。
かつては未利用だったコオロギを今、扱っているわけですが、今後はまだ眠っている生物資源を科学を使って有効活用し、分散・循環型の食糧インフラを作っていきたいと思っています。
それに加えて、温暖化が進む中で寒い地域でしかできない酪農はいずれ地球上で出来る地域が減っていくことが予想されていますが、そうなると酪農を由来とするホエイ不足が発生することになります。

   ――そんな不安要素もあるんですね。

葦苅氏 そこで、ホエイの生産量の減少と価格の高騰を見越して、ホエイのタンパク質の代わりになるソリューションも見つけていきたいと考えています。これもまた、食糧インフラの分散・循環に寄与しますから、これらの活動を通じて、最終的には食糧問題と環境問題を同時に、このアジアから解決していきたいと考えています。

   ――お話、ありがとうございました。

(聞き手・構成/J-CAST 会社ウォッチ編集部 坂下朋永)



【プロフィール】
葦苅 晟矢(あしかり・せいや)

株式会社エコロギー
代表取締役CEO

2013年、早稲田大学商学部入学。食糧問題と環境問題の同時解決にコオロギが有効であるとの着想から、同大大学院・先進理工学研究科に入学した17年にコオロギ養殖業を手掛ける「株式会社エコロギー」を設立。以降、コオロギの量産体制を確立し、「エコロギーパウダー」を活用した健康補助食品を主力商品として事業を展開している。

姉妹サイト