コオロギは、食糧難を回避するための「最適解」になり得るのか?【後編】/コオロギ食「エコロギー」代表・葦苅晟矢さん

SDGsに資するからといって、「全ての人がコオロギを食べるようになる社会」を目指しているわけではない

   インタビュー終盤、話の内容はコオロギをめぐる「騒動」についての話も出た。それは2022年11月、ある地域の高校の給食として出されたコロッケにコオロギパウダーが使われていたことに端を発する。これに対し、一部のネットユーザーが「生徒に無理やり食べさせたのではないか」などと反応。学校に批判の声が届く事態となった。

   ――さきほど、「ゲテモノ」という話になりましたが、昨年11月にはコオロギ食をめぐる騒動がありましたね。これはもちろん、コオロギ食が普及途上である以上は出てくるのはやむを得ない反応のようにも思えますが、このような声が上がってしまったことに対して、どのように受け止めていますか。

葦苅氏 やはり、コオロギを「食べるメリット」を伝えていくということに尽きるかと思います。そもそも、3、4年前まではコオロギ食の話をしても、世の人々の頭の中では「コオロギ」と「食」が結びつくことはなかったのです。ところが、ありがたいことに2年ぐらい前からはコオロギ食をはじめとする昆虫食についての概念を、みなさんが知っていてくださるようになりました。その背景は、やはり、SDGSでした。

   ――昆虫というのは、分かりやすい部分がありますよね。

葦苅氏 ただ、そうやって昆虫食についての意識が広がっていく中で、どこか、「SDGsに資するコオロギは食べなければいけない」といった、「何らかの強制力が働いていそうな風潮」が出てしまっていた感は否めません。そのような下地があったからか、ネット上で騒ぎになってしまったのかもしれません。

   ――学校給食となると、いかにも強制力が働いていそうですからね。ただ、コロッケはあくまで希望者が食べたようですが......。

葦苅氏 あたかも、コオロギが入った食品を無理やり食べさせられそうになったといった「雰囲気」が出てしまったために、そこを切り取られて騒ぎが起きてしまったということなのだと思います。
なので、我々コオロギ食業界の人間として、世の中の皆様にお伝えしていきたいのは、「全ての人がコオロギを食べるようになる社会」を目指しているわけではない、ということです。この点をきちんとお伝えしたうえで、「必要な方に手に取っていただく」ことを目指しています。

コオロギ養殖を行う現地の農家には現金収入が生まれ、副業として重宝されているという

   ――最後になりますが、御社およびエコロギーパウダーの今後の展望をお教えください。

葦苅氏 さきほどまでは、「普段の食事では不足しがちな栄養素を手軽に摂取できる」という点を強調してきましたが、今後はより健康についてより深い課題である生活習慣病に対するソリューションたりうることをお伝えしていきたいです。
日本もそうですが、東南アジアもまた米食がメインであり、生活習慣病が起こりやすい食生活といえます。加えて、カンボジアは経済発展によって中間層が増えていますので、甘いものを食べることによる生活習慣病も増加中です。弊社では現在、コオロギ食に生活習慣病を予防する効果があるのではないかと、研究を進めています。

   ――生活習慣病対策になる可能性もあるんですね!

葦苅氏 今後、弊社では人類が未利用の生物資源を使って、持続可能な食の生産インフラを作っていくことを目指していきたいと考えています。
かつては未利用だったコオロギを今、扱っているわけですが、今後はまだ眠っている生物資源を科学を使って有効活用し、分散・循環型の食糧インフラを作っていきたいと思っています。
それに加えて、温暖化が進む中で寒い地域でしかできない酪農はいずれ地球上で出来る地域が減っていくことが予想されていますが、そうなると酪農を由来とするホエイ不足が発生することになります。

   ――そんな不安要素もあるんですね。

葦苅氏 そこで、ホエイの生産量の減少と価格の高騰を見越して、ホエイのタンパク質の代わりになるソリューションも見つけていきたいと考えています。これもまた、食糧インフラの分散・循環に寄与しますから、これらの活動を通じて、最終的には食糧問題と環境問題を同時に、このアジアから解決していきたいと考えています。

   ――お話、ありがとうございました。

(聞き手・構成/J-CAST 会社ウォッチ編集部 坂下朋永)



【プロフィール】
葦苅 晟矢(あしかり・せいや)

株式会社エコロギー
代表取締役CEO

2013年、早稲田大学商学部入学。食糧問題と環境問題の同時解決にコオロギが有効であるとの着想から、同大大学院・先進理工学研究科に入学した17年にコオロギ養殖業を手掛ける「株式会社エコロギー」を設立。以降、コオロギの量産体制を確立し、「エコロギーパウダー」を活用した健康補助食品を主力商品として事業を展開している。

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