「クラッシャー上司」。――まるでプロレスラーのように、怖い響きの名前を持つ上司が会社で君臨している。そこいらにいる「パワハラ上司」と違い、「できる上司」だけに、部下の追い詰め方はハンパないという。
そんななか、マーケティングリサーチの「アスマーク」(東京都渋谷区)が2023年9月6日、「当てはまったら要注意!クラッシャー上司の特徴チェックリスト」を発表した。会社内で優秀な業績を誇っているアナタ、チェックリストを試してみては?
「パワハラ上司」との違いは、組織内では優秀で仕事ができると高い評価
クラッシャー上司とは、厳しい言動や命令を繰り返して部下を責め立て、休職や退職に追い込んでしまう上司のこと。クラッシャー(Crusher)は「壊し屋」「破壊者」「粉砕機」を意味する英語で、昔からよくプロレスラーのリング名に使われたものだ。
2017年に筑波大学医学医療系の松崎一葉教授(産業衛生専攻)が、著書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書、2017年)の中で提唱・分析してから、広く知られるようになった。
同著の紹介文には、クラッシャー上司のことがこう書かれている。
《「俺はね、(部下を)5人つぶして役員になったんだよ」。大手某社に精神科産業医である著者(=松崎教授)が招かれた際、その会社の常務が言い放った言葉である。
このように部下を精神的につぶしながら、どんどん出世していく人たちのことを、精神科医の牛島定信氏と彼の教え子である著者は「クラッシャー上司」と名付けた。
彼らには「自分は善である」という確信があり、他人への共感性は決定的に欠如している。精神的に未熟な「デキるやつ」なのだ。......》
いわゆる「パワハラ上司」との違いは、組織内では優秀で仕事ができると評価されていることが多い点だ。企業ではこのような存在を「必要悪」として黙認する傾向にあるため、本人は自分の行いを正当化し、事態を悪化させてしまうことが多いという。
非常に優秀だが、部下の気持ちに共感することができない
さて、こんなやっかいな存在の「クラッシャー上司」。見過ごしたまま放置すると、組織を崩壊させるリスクもあるし、本人も自覚していないケースもある。そこで、アスマークでは「クラッシャー上司」にならないよう、チェックリストを作った。
まず、「クラッシャー上司」の代表的な特徴を5つ説明している【図表1】。
(1)部下を追い詰めていることに対して自覚がない。
(2)部下の気持ちに共感することができない。
(3)高圧的なコミュニケーションの取り方をする。
(4)自分の考えに固執しており、聞く耳を持たない。
(5)優秀な成果を出した実績がある(評価が高い)。
ところで、「クラッシャー上司」と「パワハラ上司」の決定的な違いはこうだ【図表2】。
かいつまんで言えば、部下にハラスメント行なって追い込む点は同じだが、目的が違う。「パワハラ上司」が「憂さ晴らしや嫌がらせ」なのに対し、「クラッシャー上司」は「仕事や成績のため」であること。また、社内の評価が、「パワハラ上司」が「必ずしも優秀な人物とは限らない」のに対し、「クラッシャー上司」は「業績が優秀なため、組織から必要とされていることが多い」ことだ。
また、「クラッシャー上司」は「自分の意見が正しいと思い込んでいる」が、「パワハラ上司」にはそのような信念があるかどうか、不明である。
「北風」は部下に苛烈、「太陽」は部下をポカポカと照らず
具体的なチェックリストに入ろう。【図表3】は、「当てはまったら要注意! クラッシャー上司の特徴」である。この6つの思考や行動が当てはまるなら、すでになっているか、今後なってしまうかリスクがある。部下へのかかわり方を見直そう。
「北風と太陽」の寓話に、上司から部下への「叱る指導」を照らし合わせて考えてみるのがポイントだ。「北風」は旅人の上着を吹き飛ばそうとするが、これは「部下を叱り飛ばして、強引に動かそうとする」のと同様にNGだ。
「太陽」は旅人をポカポカと暖かく照らして、上着を脱がせるのに成功する。それと同じように、部下自身に内発的な動機で動くように働きかけよう。
【図表4】は、「クラッシャー上司にならにための5つの習慣」のチェックリストだ。この5つの点を常に意識しながら部下を指導し、育てていくとよい。
特に、成績が良くて会社からの評価が高い上司の感情は、職場風土に大きな影響を及ぼす。若手社員が伸び伸びと成長できる組織を作るには、「デキる上司」が感情をコントロールすることが大切だ。何より、自分の価値観を押し付けず、部下の気持ちに共感しながら働きかける習慣を持とう。
経営層も注意できない、アンタッチャブルな存在
アスマークの担当者はこうコメントしている。
「クラッシャー上司には、いわゆる『優秀な人』が多く、会社の業績にも貢献している場合が多いのです。そのため、経営層からは重宝されて、何か問題があっても、指導しづらい、あるいは指導できる人がいない存在になってしまっている可能性があります。
クラッシャー上司が部下に対して必要以上に厳しい言動を繰り返し、部下の退職や休職につながるような指導を行なっている場合は、成績に関係なく会社として然るべき対策が必要になります。部下に対して適切な指導が行われているかどうか、職場環境を定期的に見直すことをおススメします」
(福田和郎)