学校給食などを運営する「ホーユー」(広島市)が2023年9月上旬、突如事業を停止した問題は、全国の親や学校関係者に衝撃を与えた。給食がストップする学校が続出したからだ。
そんななか、帝国データバンクは9月8日、「特別企画:学校給食など『給食業界』動向調査(2022年度)」を発表、給食事業者の3割超が赤字で、6割超が業績悪化に苦しんでいることがわかった。
明日、あなたの子どもが通う学校給食がなくなってもおかしくない、お寒い実態とは――。
教師が出勤途中に、コンビニで生徒の弁当を買い集める騒ぎ
報道によると、「ホーユー」は手広く事業を展開、本社のある広島県県内の9つの高校をはじめ、大阪府や北海道、静岡県、長野県、さらに九州や四国の各県など、約150の学校や教育施設などの食堂で食事提供を請け負っていた。
ところが9月初め、各地の給食現場に一斉に食材が届かなくなり、本社に連絡しても誰も出ない事態になった。各学校が別の業者に弁当を手配したり、教師たちが出勤途中にコンビニで生徒の弁当を買い集めたりする騒ぎに発展した。
姿を消していた同社の山浦芳樹社長が9月6日、報道陣の取材に応じた。「食材の高騰や人件費の上昇で経営が圧迫されたが、学校側に交渉しても値上げを受け入れてもらえなかった」などと事情を説明、「近く破産申請をする」と明かした。
現在、同社の150の給食施設の半数近くで、徐々に給食提供を再開しているが、「ホーユー」のように経営危機に瀕している給食業者があるのだろうか。
競争入札が多く、値上げは数年に1度の制限がある
帝国データバンクの調査は、学校や企業、官公庁などの食堂を運営したり、保育・介護施設などに給食弁当を配送したりする「給食事業者」374社が対象だ。
2022年度の利益動向を調べると、374社のうち、34.0%にあたる127社が「赤字」と判明。前年度から「減益」(29.1%)も含めると、全体の6割超(63.1%)で業績が「悪化」した【図表1】。また、コロナ禍以降(2020年度~)から3年連続で赤字となった企業は約1割を占めた。
足元では、給食事業の入札に参加する業者が増えており、価格面で競争が激化している。加えて、生鮮食品や加工食品を含めた食材価格の高騰、調理スタッフや栄養士などの人手不足による人件費増、原油価格上昇による光熱費の上昇が響き、当初の契約金額では賄いきれず利益面で悪化する事業者が多くみられた。
【図表2】は、給食事業者にどのくらい価格転嫁ができているかを聞いたグラフだ。15%が「0%=まったく価格転嫁できていない」と回答した。価格転嫁ができた企業でも、「20%未満」(35%)や「50%未満」(15%)にとどまる企業が多く、全体の65%がコスト増の半分しか価格転嫁できていない状態だ。
コスト上昇分をすべて価格転嫁できた企業はゼロだった。100円コストがアップした場合、価格に転嫁できた割合の平均は27.1円で、ほかの業種を含めた全産業の平均(43.6円)を大きく下回った。
価格に反映ができない給食事業者の声を聞くと――。
「競争入札が多いため、値上げは数年に1度など制限が設けており、合意手続きが複雑」
「社員食堂なので、値上げをかたくなに拒絶され、取引停止を盾に交渉に応じる様子もない」
「値上げをしたが、仕入れ商材が相次いで値上げするので、当初予定していた価格では十分カバーできないし、何回も短期間に値上げできない」
などといった、給食事業者特有の事情の厳しさを訴える声が相次いだ。
学校給食のコスト増、自治体も把握できずに右往左往
帝国データバンクではこうコメントしている。
「最近では、大手飲食チェーンや宅配事業者などが給食事業へ参入・展開するケースも多く、地場給食事業者間の競争も激化している。加えて、学校や官公庁などの入札事業では価格競争に陥りやすいうえ、食材費や人件費が入札当時の想定より高騰したとしても『契約期間中の価格改定が非常に困難』といったケースも散見され、価格転嫁できずに採算割れとなり業績が悪化する事業者が増加している。
足元では、2022年以降累計で5万品目を超える食品が値上げされるなど、急激に進んだ物価高を背景に、補正予算などで給食事業者へのコスト補填を検討・実施する地方自治体もある。ただ、『どのような根拠でコストアップ分を計算すればいいかわからない』といった声も寄せられ、給食事業者と行政の双方でコスト上昇と価格転嫁のバランスを決める場が求められる」
(福田和郎)