「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。
今回の「エピソード2」では、<「君の仕事は、いったい何?」~『仕事の再定義』で沈滞していたチームが一変...くすぶっていた若手が、常識破りのチャレンジをやり遂げた>というエピソードを取り上げます。
「僕、凹んだ学生を元気づける応援歌をつくりたいんです!」
<「君の仕事は、いったい何?」~『仕事の再定義』で沈滞していたチームが一変...くすぶっていた若手が、常識破りのチャレンジをやり遂げた【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「2」前編】(前川孝雄)>の続きです。
上司の大川さんが、部下たちに「あなたの仕事は何?」と問い続け、また仕事の共通の目的について部下と語り合い続けて数か月。この頃から、メンバーには明らかに変化の兆しが見えてきました。
まず、ギスギスしていた職場の雰囲気が徐々に変わってきました。部員同士の会話も増え、自然と笑い声が起こるような職場になってきたのです。
大川さんの部下には、何人か気になっているメンバーがいました。前任の管理職からマネジメントが難しい問題社員と引き継いだ部下たちです。
そのうちの一人、若手の男性部下T君は最初の面談で「もう辞めたいと思っているんです」と話しました。たしかにモチベーションは低く、いつもつまらなそうに働いています。
何か指示を出しても不満顔でやらされ感を醸し出すばかり。前任の管理職からは、地方から異動してきて間もなく、東京の空気や職場の先輩や同僚にも馴染めないようだと聞きました。
ところがそのT君、大川さんの働きかけから、職場メンバーたちで仕事の目的や夢を語り合うことが増えるとともに、みるみる活き活きとしてきたのです。そして、ついに自身の心に温めてきた思いを上司の大川さんに打ち明けたのです。
「僕、就活でお祈りメールが届いて凹んだ学生たちを元気づけるために、応援歌を作りたいんです!」
自分の仕事の目的は、就活生の応援。それなら日々携わっている雑誌づくり以外にも、もっと効果的な方法はないか。そう考え抜いた上で閃き、奮起したのです。
彼の変化には、目覚ましいものがありました。
応援歌発表セレモニーでの感動...チームは一丸に
大川さんはその様子を嬉しく思うと同時に、心中複雑でした。雑誌編集部が応援歌を作ること自体、成功の見通しも薄く、職場は混乱することは必至。ましてや、イベント専門の他部署や宣伝部門のお株を奪う越権行為にも成りかねず...。
でも、大川さんは敢えて実現を決心しました。やる気を失っていた部下が、せっかく自分の仕事の目的に目覚めたのです。また、T君の前向きな熱意に周囲も感染しはじめており、組織全体が変わる絶好の機会でもあります。
実は、T君がモチベーションを下げ退職まで考えていたのは、異動後職場に馴染めないことではなかったのです。読者の学生のことを考えに考え抜いて、斬新なアイデアを先輩や上司に提案しても、すべて「前例がない」「担当業務をまずやりなさい」と却下され続けていたからだったのです。
「よし、わかった。応援歌を作ろう。ただし、いま担当している仕事はちゃんとやることが前提だぞ」
大川さんは組織の軋轢や担当役員の憂慮も乗り越え、実行に踏み切りました。
あらゆる人脈をたどって最適な音楽プロダクションを見つけ、新進気鋭の若手ミュージシャンとのコラボレーションソングを実現。難関は、T君の常識破りのチャレンジに対する社内の抵抗勢力。
T君が社内折衝や稟議などで折れそうになるたびに、大川さんは盾となり、時には他部門責任者と丁々発止の交渉も辞さず、応援歌リリースを守りきりました。
いよいよ発表セレモニーの日。催しの最後の、お披露目演奏が終わった瞬間、歌に込めた気持ちが伝わったのか、関係者たちの大きな拍手が暫く鳴り止みません。メンバーはみな「やった!」「こんなすごいこともできるんだ!」とガッツポーズ。
「正直疲れました。でも仕事って、こんなにも面白いものなんですね」
肝心のT君は、ぐったりと柱に寄りかかり放心状態で喜びをかみしめています。それを見た大川さんは、込み上げてくるものを抑えるのに必死でした。
残念ながら、応援歌は期待ほどにはヒットしませんでした。しかしこのT君に働きぶりは、他の部下たちが、目的に照らして自分たちが考えたチャレンジを上司や組織が認め応援してくれるとわかり、チーム一丸で仕事に取り組む醍醐味を知る大切な経験になりました。
そして職場は明るく、前向きに変わりました。共通の目的に向かって互いに協力し合う、『自走する組織』へと生まれ変わったのです。
この続きは<「君の仕事は、いったい何?」~『仕事の再定義』で沈滞していたチームが一変...くすぶっていた若手が、常識破りのチャレンジをやり遂げた【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「2」後編】>で紹介していきます。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。