「君の仕事は、いったい何?」
大川さんは、就職情報メディアを統括する編集長に着任しました。同部門には100人ほどのメンバーが所属し、課長級の上司が率いる5つのチームに分かれ、それぞれの持ち場で仕事をしていました。
「何だか職場の空気が良くないな...」
大川さんは、役員から沈滞する組織風土の改革を求められていたのですが、着任初日から想定以上の違和感を覚えたといいます。みなパソコンのモニターとにらめっこをしていて、隣同士でもあまり会話がない。挨拶も滞り、笑い声も起こらないギスギスしたムード。殺伐とした雰囲気を感じたのです。
組織改革の手始めとして大川さんは、現場リーダーや気がかりなメンバーたち一人ひとりと面談を始めました。そこで「あなたは今どんな仕事をしているの?」と聞いてみました。「はい、私は雑誌の連載を担当しています」。
大川さんは「ほう、そうか」と頷きながら、日ごろ感じていることや悩みを聞くことに徹します。他の部下たちとの面談でも同じ質問を続けます。
「私は広告枠の管理をしています」「私は雑誌編集の進行管理をしています」「私は営業部門との連携窓口をしています」...。なるほど、なるほど。みんな決められた役割を真面目にやっていることが理解できました。
しかし、多くの部下に「あなたの仕事は何ですか?」と質問することで、大川さんはなぜこの職場が沈滞しているのか、その原因を突き止めました。
一人ひとりは、自分の役割に懸命に取り組んでいるものの、それらがつながり合った組織全体として何をゴールとして目指しているのか、誰一人として語らないことに気づいたのです。
また、こうも確信しました。
「モチベーションが低い・協力的でない・主体性がないのは、部下たちの責任ではない。みんな真面目に頑張ってくれている。問題の原因はマネジメントにあり、これまでの上司が目先の業務管理に終始し、組織として目指すものを伝えていなかったからだ」