キーワードは「セレンディピティ」...ビジネスを生む「地元ぐらし」のススメ

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   「まちづくり」と言うと、構えてしまう人が多いのではないだろうか。行政が中心となったプロジェクトやイベントを連想するからだ。

   本書「まちづくり仕組み図鑑」(日経BP)は、個人がビジネスを通して、地域の課題解決に取り組んでいる事例を紹介している。これならば、自分もできるかもしれない、とエンカレッジしてくれるだろう。

「まちづくり仕組み図鑑」(佐藤将之、馬場義徳、安富啓著、日経アーキテクチュア編)日経BP

   著者の佐藤将之さんは早稲田大学人間科学学術院教授、馬場義徳さんは星野リゾート海外事業グループユニットディレクター、安富啓さんは石塚計画デザイン事務所代表取締役(共同代表)・札幌事務所長。「日経アーキテクチュア」の連載記事をベースに、大幅に加筆して構成した。

   本書をこんな人に読んでほしいという。

〇ノウハウを知りたい...地元でのビジネスの始め方・稼ぎ方を知りたい...転職や退職を機に、かつて住んでいた地域でまちづくりに関わりたい
〇地元を楽しみたい...地元のまちづくりを応援したい...地元を盛り上げたい
〇やりがい・可能性を見いだしたい...地元のまちは変わるはずだ

地元の「課題解決」がビジネスに直結

   従来の「まちづくり」と「地元ぐらし型まちづくり」の違いについて、こうまとめている。従来の「まちづくり」の主体は公共で、対象は全員。関わり方は補助金が中心で受動的だった。

   一方、「地元ぐらし型まちづくり」の主体は自分たちで、対象は共感する人たち。関わり方は主体的で、持続可能な事業を行う。地元の課題解決がビジネスに直結しているのが特徴だ。

   暮らしとつながるビジネスを始めるうえで、「小さくビジネスを始める」ことが肝要だという。たとえば、期間限定、時間限定で時間を絞る。バーチャル店舗で販売したり、自ら施工したりすることでコストを絞る。アルバイトやボランティアを通じて実際のビジネスを体験し、ノウハウを得る、などを挙げている。

   支出の最小化を考えていつでも撤退できる小さなステップでビジネスを少しずつ進めていけば、適切な事業規模に落ち着くことになる、とアドバイスしている。

東京、北海道、八戸...全国の事例は?

   豊富な事例紹介が参考になるだろう。

   東京都西東京市のヤギサワベースは、グラフィックデザイナーの中村晋也さんが事務所に併設するかたちで駄菓子屋を始めたもの。駄菓子屋は参入障壁が低く、ビジネス構造も単純であることが分かったからだ。夜は商店街の集会をする場にもなり、地元コミュニティーから本業の依頼もあるという。

   偶然引っ越した土地の空き家店舗を活用した。妻がパーソナリティーを務めるFM西東京の情報発信拠点づくりにも参加。空き家活用を始めるなど、ビジネスの幅を広げている。

   北海道滝上町のCasochi合同会社とKARSUIは、同町出身の姉妹、扇みなみさんと井上愛美さんがUターンして起業した。拠点となる火・水曜営業のカフェ「KARSUI」は人を集め、仕事を掘り起こす場となっている。

   カフェでスキルとつながりがシェアされ、起業や移住などを後押ししている。「専門家として何かを支援したり、本格的に店舗運営をしたりしたいわけではない」と話し、火・水曜以外で営業拡大する予定はないという。

   青森県八戸市の市民集団まちぐみは、中心市街地活性化のため建てられたポータルミュージアムなどの施設を利用したアート活動でまちを盛り上げている。ミュージアムの開業記念プレイベントに参加したアーティストの山本耕一郎さんが、八戸市に移住し、住民を巻き込んで活動している。

   市役所の担当者は「まちぐみは八戸市の事業であると同時に山本氏の作品でもある」と語っている。若者に体験の場を提供しているのも特徴だ。「高校生とつくる南部せんべいカフェ」は、せんべいをスイーツにする試み。完成品は場所やメニューを変えて売られる。必要な許認可は大人が取得し、支えている。

   神奈川県三浦市のミサキスタイルは、空き家・空き店舗の活用を図る合同会社。自治体の支援を受けずに、お試しでの居住や創業を支援。朝食で地域住民も集う場をつくり、リノベーションで利用者を増やしている。

   代表の菊地未来さんは、同市出身。お店を始めたい人が時間帯単位で営業する「トライアルキッチン」で創業を支援している。

   本書は実務のハウツーも解説している。オーナーを応援者にするため、空き家や空き店舗を生かした、地元にこだわった物件探し、改修を通してのストーリーづくり、間口を広げて体験者を増やすことなどだ。

   また、地元ぐらしが副業を無理なく複業へと進化させ、副業のコミュニティーが本業のプラスになるという。

   取り上げた事例すべてで、初期費用の内訳、事業収支などを公開しているので、これから始めたいという人の参考になるだろう。

   本書のキーワードは「セレンディピティ(幸運な出会い)」。地元を通した出合いが、成功のカギになっているようだ。(渡辺淳悦)

「まちづくり仕組み図鑑」
佐藤将之、馬場義徳、安富啓著、日経アーキテクチュア編
日経BP
2640円(税込)

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