キーワードは「セレンディピティ」...ビジネスを生む「地元ぐらし」のススメ

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

東京、北海道、八戸...全国の事例は?

   豊富な事例紹介が参考になるだろう。

   東京都西東京市のヤギサワベースは、グラフィックデザイナーの中村晋也さんが事務所に併設するかたちで駄菓子屋を始めたもの。駄菓子屋は参入障壁が低く、ビジネス構造も単純であることが分かったからだ。夜は商店街の集会をする場にもなり、地元コミュニティーから本業の依頼もあるという。

   偶然引っ越した土地の空き家店舗を活用した。妻がパーソナリティーを務めるFM西東京の情報発信拠点づくりにも参加。空き家活用を始めるなど、ビジネスの幅を広げている。

   北海道滝上町のCasochi合同会社とKARSUIは、同町出身の姉妹、扇みなみさんと井上愛美さんがUターンして起業した。拠点となる火・水曜営業のカフェ「KARSUI」は人を集め、仕事を掘り起こす場となっている。

   カフェでスキルとつながりがシェアされ、起業や移住などを後押ししている。「専門家として何かを支援したり、本格的に店舗運営をしたりしたいわけではない」と話し、火・水曜以外で営業拡大する予定はないという。

   青森県八戸市の市民集団まちぐみは、中心市街地活性化のため建てられたポータルミュージアムなどの施設を利用したアート活動でまちを盛り上げている。ミュージアムの開業記念プレイベントに参加したアーティストの山本耕一郎さんが、八戸市に移住し、住民を巻き込んで活動している。

   市役所の担当者は「まちぐみは八戸市の事業であると同時に山本氏の作品でもある」と語っている。若者に体験の場を提供しているのも特徴だ。「高校生とつくる南部せんべいカフェ」は、せんべいをスイーツにする試み。完成品は場所やメニューを変えて売られる。必要な許認可は大人が取得し、支えている。

   神奈川県三浦市のミサキスタイルは、空き家・空き店舗の活用を図る合同会社。自治体の支援を受けずに、お試しでの居住や創業を支援。朝食で地域住民も集う場をつくり、リノベーションで利用者を増やしている。

   代表の菊地未来さんは、同市出身。お店を始めたい人が時間帯単位で営業する「トライアルキッチン」で創業を支援している。

   本書は実務のハウツーも解説している。オーナーを応援者にするため、空き家や空き店舗を生かした、地元にこだわった物件探し、改修を通してのストーリーづくり、間口を広げて体験者を増やすことなどだ。

   また、地元ぐらしが副業を無理なく複業へと進化させ、副業のコミュニティーが本業のプラスになるという。

   取り上げた事例すべてで、初期費用の内訳、事業収支などを公開しているので、これから始めたいという人の参考になるだろう。

   本書のキーワードは「セレンディピティ(幸運な出会い)」。地元を通した出合いが、成功のカギになっているようだ。(渡辺淳悦)

「まちづくり仕組み図鑑」
佐藤将之、馬場義徳、安富啓著、日経アーキテクチュア編
日経BP
2640円(税込)

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