政府、経済界、労働界がそろって豪語した、あの「歴史的な賃上げ効果」はどこへいったのか?
厚生労働省が2023年9月8日に発表した7月分の毎月勤労統計(速報)で、物価を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」が、前年同月よりも2.5%減った。減少は16か月連続で、しかも減少幅は拡大している。
今年の春闘では、30年ぶりの高い賃上げ率を誇り、その「成果」が5~6月はまだ表れず、7月の実質賃金上昇に表れると期待したほうが甘かったのか。
「物価高が続き、実質賃金マイナスもまだ続くでしょう」
厚生労働省が9月8日に公式サイトに公開した「毎月勤労統計調査 令和5年7月分結果速報」(全国の従業員5人以上の事業所3万2682箇所が対象)や報道をまとめると、「名目賃金」にあたる、基本給や残業代などを含めた1人当たりの現金給与総額は、平均で前年同月より1.3%増の38万656円だった。
このうちボーナスなど、特別に支払われた給与は10万8536で0.6%増えた。ここ数か月はボーナスが伸び、5月が35.9%、6月が3.5%だったから、7月に増加傾向が弱まったことが7月の実質賃金を押し下げた要因の1つだ。
現金給与総額のうち、基本給などの所定内給与は1.6%増の25万3066円、残業代などの所定外給与は0.5%増の1万9054円だった。
現金給与総額を、就業形態別にみると、正社員ら一般労働者が1.7%増の50万8283円、パートタイム労働者が1.7%増の10万77049円だった。
一方、7月は消費者物価指数が3.9%増と、前月と同じ高い水準を維持しており、名目賃金の伸び(1.3%増)を大きく上回った。このため、実質賃金指数は2020年(通年)を「100」とすると、「112.1」(2.5%減)となり、16か月連続のマイナスとなった【図表】。
しかも、実質賃金の減少幅は6月の1.6%減より拡大している【再び図表】。名目賃金は2022年1月以降、一貫して上がり続けているが、物価上昇を補えていない状態がずっと続いている。
今年の春闘賃上げ率は3.58%増(連合集計、7月5日時点)と、「30年ぶりの高水準」になったはずだが、企業がもっと踏み込んだ賃上げをできるかどうかにかかっている。
報道各社は、厚生労働省担当者の「物価が高い状況が続き、実質賃金のマイナスが続くとみられる。一方で、春闘の影響とみられる給与の伸びもみられ、段階的に効果は現れていると考えている。今後は非正規労働者などにも春闘の影響が波及し、実質賃金が上昇していけるか注視したい」とのコメントを伝えている。
岸田首相は「国民生活を悪化させる特殊能力を持ってる」?
こうした結果をエコノミストやネット民はどう見ているのだろうか。
ヤフーニュースコメント欄では、第一生命経済研究所首席エコノミスト永濱利廣氏が政府の物価対策をこう批判した。
「こうした実質賃金マイナスの状況も影響してか、政府は物価高対策の延長を決めましたが、ガソリンについては導入当初は1リットル168円まで下げるとされていたのが、延長後は1リットル175円となり、昨年よりガソリンが高い状況は変わりません。
また、電気・ガスの負担軽減も、9月半減から10月以降終了となっていたものが、9月半減されたものが延長されるようなので、8月以前よりも負担軽減額が減ることになります。一方で、物価高で税収上振れの可能性が高まっていることからすれば、政府は物価高対策の負担軽減を縮小することなく延長すべきでしょう」
同欄では、一般の人からもこんな怒りの声が相次いでいる。
「岸田首相は、国民生活を悪化させる特殊能力を持っている。岸田政権では、インフレ、円安、海外情勢の悪化が続いており、根本的な解決が何ひとつできていません。やった政策と言えば、業界に対する補助金のバラマキです。業界は喜びますが、財源を確保するため増税や社会保障費の値上げによって回収する、というマッチポンプのような手段を取っているのです。
こんな政策では、生活向上も経済発展も期待できるわけもなく、少子化が解決するはずがありません。岸田首相は今月内閣人事を改造するようですが、誰が大臣になったとしても、トップの首相自身を変えなければ意味がないと考えます」
「家計管理アプリの実績でいうと、スーパーで買っている食品だけに限っても、うちの家計は3年前から2割上がっていますね。きついです」
「もう一般的なサラリーマンは来年春まで給与は上がらないのに、値上げは毎月しているのですから、苦しくなる一方ですね。この1年半で40%ぐらい値上げしている感じです。給与が1.5倍になるか、毎月2%でも賃上げしていくかしないと、日本経済は本当に終わると思います」
この意見に対しては、こんな捕足的な見方もあった。
「もちろん賃上げも必要なのですが、賃上げできる環境を作らなければ、企業の倒産が増えるだけです。その環境を作ることができるのは、市場原理に反して支出することができる政府だけです。今のインフレはコストが上がっているだけですから、消費税やガソリン税の減税、社会保険料減免など、あらゆる手を尽くして実質賃金を上げる必要があります」
(福田和郎)