インボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始まで1か月をきった――。
そうしたなか、東京商工リサーチが2023年8月に実施したインボイス制度に関する調査によると、10月からのインボイス制度開始後に、免税事業者と「取引しない」、もしくは「取引価格を引き下げる」など、取引にネガティブな意向を示した企業が1割強にのぼったことがわかった。8月31日の発表。
インボイス制度をめぐっては、まだ登録していない企業や免税事業者との取引に方針が決まらない企業も少なくない。免税事業者には経過措置が新たに設定されたが、現在の登録状況では開始時に混乱が生じる可能性も出てきた。
さらには今後、個人や小規模な免税事業者との取引を見直す動きが出てくる恐れもある。
インボイス制度の登録申請、92.6%がすでに「申請した」
2023年10月、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まる。
調査によると、「2023年10月に導入されるインボイス制度について、ご存じですか?」との問いに、「知らない」と答えた企業は、わずか0.6%(5896社中37社)で前回調査(22年12月)の1.7%からさらに減少した。
「よく知っている」と答えた企業は31.9%(1883社)、「だいたい知っている」が56.2%(3317社)、「少し知っている」の11.1%(659社)を合わせた、「知っている」と答えた企業は99.3%(前回調査は98.2%)にのぼった。
次に、「知っている」と答えた企業に、「適格請求書発行事業者の登録申請はしましたか?」と聞いたところ、すでに「申請した」と答えた企業は92.6%(5545社中、5135社)と9割を超えた。
また、「2023年9月末までに(申請)する予定」と答えた企業は4.1%(228社)、「2023年10月以降にする予定」は1.2%(72社)で、これらを含め登録の意向を示す企業は98.0%(5435社)にのぼった。
その一方で、「(申請を)しておらず、方針を決めていない」企業は0.9%(51社)、「(申請)しておらず、する予定はない」と答えた企業は1.0%(59社)にとどまった。【図1参照】
規模別でみると、「申請した」企業は大企業で95.7%(642社中、615社)、中小企業が92.1%(4903社中、4520社)と、大企業が3.6ポイント高かった。
ネガティブな動きに警戒感 「免税事業者への影響が出る可能性ある」
また、インボイス制度を「知っている」と答えた企業(免税事業者は除く)に、「インボイス受領の準備は完了していますか?」と回答時点の状況を聞いたところ、「完了している」と答えた企業は71.7%(5429社中、3897社)で、7割超がすでに準備を終えたと答えた。
一方で、「完了していない」企業は28.2%(1532社)だった。導入開始まで1か月余りとなったが、まだ準備できていない(していない)企業は約3割で、対応は二分化している。 規模別でみると、「完了している」と答えた企業は、大企業で68.8%(642社中、442社)、中小企業が72.1%(4787社中、3455社)で、中小企業の準備が先行していることがわかった。
「完了していない」と答えた企業は、大企業で31.1%(200社)、中小企業が27.8%(1332社)だった。
さらに、インボイス制度を「知っている」と答えた企業(免税事業者は除く)に、「インボイス制度の導入後、免税事業者との取引はどうする方針ですか?」と聞いたところ、「これまで通り」と答えた企業は55.4%(5390社中、2989社)だった。前回調査(40.3%)から、15.1ポイント上昇した。
その一方で、「免税事業者とは取引しない」と答えた企業は8.3%(451社、前回調査10.2%)、「取引価格を引き下げる」は3.4%(184社、同2.7%)で、取引の打ち切りや取引価格の引き下げを求める企業が合わせて11.7%(635社、同12.9%)と1割強を占めた。
東京商工リサーチは、「こうした動きが強まると、制度開始時に免税事業者への影響が出る可能性もある」と指摘する。
また、免税事業者との取引を「検討中」と答えた企業は32.7%(1766社)で、前回調査(46.7%)から14.0ポイント減少したが、なお3割強が態度を決めかねていることがわかった。
規模別でみると、「これまで通り」と答えた企業は、大企業で63.9%(617社中、396社。前回調査41.0%)、中小企業が54.3%(4771社中、2593社。同40.2%)で、中小企業が9.6ポイント低かった。
「免税事業者とは取引しない」と答えた企業は、大企業が5.1%(32社、前回調査5.8%)、中小企業が8.7%(419社、同10.9%)だった。
また、「取引価格を引き下げる」と答えた企業は、大企業が0.4%(3社、同1.6%)だったに対し、中小企業は3.7%(181社、同2.8%)だった。前回調査から大企業は低下、中小企業は上昇と対象的な結果となった。
「検討中」は大企業が30.3%(188社、同51.5%)、中小企業が33.0%(1,578社、同46.0%)で、前回調査から低下した。ただ、それぞれ3割強が方針を決めておらず、難しい選択を迫られているようすがうかがえる。【図2参照】
煩雑な作業、大きな事務負担... 現場は混乱必至?!
さらに、インボイス制度の開始後、免税事業者と「取引しない」「取引価格を引き下げる」と答えた企業を業種別(上位15業種、母数20以上を対象)に分析したところ、「飲食店」が26.0%(23社中、6社)で最も高かった。
東京商工リサーチによると、飲食店は店舗や業態により軽減税率と標準税率の複数税率を扱う。仕入先が免税事業者の場合、経過措置があるものの、「飲食店」の税負担が高まる可能性がある。「飲食店」は小規模事業者が多いだけに、負担増を避ける意向が強い、とみている。
次いで、ソフトウェア開発などの「情報サービス業」が22.2%(292社中、65社)。「情報サービス業」は、客先に常勤するなど技術力のあるフリーランスとの取引も多く、他の業種と比べて取引の見直しを進めているとみられる。
「廃棄物処理業」は20.0%(50社中、10社)、商社などの「各種商品卸売業」17.9%(39社中、7社)、「自動車整備業」が17.2%(29社中、5社)、大工工事など「職別工事業」16.0%(174社中、28社)、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」16.0%(56社中、9社)、リース業など「物品賃貸業」15.8%(63社中、10社)、「印刷・同関連業」15.7%(76社中、12社)、「職業紹介・労働者派遣業」15.3%(39社中、6社)など、純利益率が平均より低い業種が上位に多かった。【図3参照】
国税庁によると、7月末のインボイス制度の登録事業者は370万社にのぼり、課税事業者の大半は登録を完了したとされる。インボイス制度の登録は任意で、免税事業者を選択する事業者は基本的に小・零細規模のため、煩雑な作業などで事務負担も大きい。
制度が始まると、登録番号の確認や入力、記載要件が不備の適格請求書、課税事業者と免税事業者への対応に混乱が生じる可能性があるほか、免税事業者に対して一方的に取引停止や過度な取引額の減額を求めると、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法などに抵触することが想定されている。
10月の開始を目前に控えるが、いまだに準備不足や態度を決めかねている企業は少なくない。インボイス制度の導入が中小・零細企業やフリーランスの廃業を加速させないよう、慎重な運用が求められる。
なお、調査は2023年8月1~9日にインターネットで実施。5896社から、有効回答を得た。調査は今回で3回目(第1回は2022年8月20日公表、第2回は22年12月14日公表)。資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人を含む)を中小企業と定義。今回の調査から、個人事業主を除いた。