企業とリモートワーカーをつなぐキャスター...上場時の想定時価総額が「累計調達額」を大きく下回る怪【よくわかる新規上場株】

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   財務諸表から会社の内情をさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、「リモートワークを当たり前にする」をスローガンに掲げ、2023年10月4日に東証グロース市場に上場予定のキャスターです。

   キャスターは2014年、日本市場におけるリモートワーカーの発展途上な環境にもどかしさを感じた創業者の中川祥太氏によって、適正な環境を構築することを目的に、東京・渋谷に設立されました。関連するサービスを拡張後、2019年に本社を宮崎県西都市に移転します。

   2020年8月には、既存のコンサルティング事業の強化を目的に、株式会社wibからコンサルティング事業を譲受。2021年8月には山口県岩国市に、2022年9月にはドイツ・ベルリンに、同年12月にはドバイに支店を開設しています。

売上好調だが、直近5期は赤字続き

   それではまず、キャスターの近年の業績の推移を見てみましょう。

   キャスターの売上高は右肩上がりに急速に伸びており、2018年8月から4年間で7倍超となっています。一方、直近の5期で営業黒字と当期純利益が出た期はなく、すべて営業赤字、当期純損失となっています。

   この要因は、売上高に対する販売費および一般管理費の割合が大きいためで、2018年8月期の販管費率は104.2%、2019年8月期は84.0%を占めています。この割合は徐々に小さくなっており、2022年8月期には43.3%まで減少し、営業損失率も4.9%まで改善しています。

   2023年8月期の第3四半期累計業績は、売上高が31億0976万円、営業損益が△1972万円、営業損失率は△0.6%。四半期純損失は△2909万円となっており、黒字化とはならないものの、前期を上回る業績となる見込みです。

月13万円で「バックオフィスのプロ」をアサイン

   キャスターは「WaaS事業」と「その他事業」の2事業を展開しています。主軸のWaaS事業は「Workforce as a Service」の略で、顧客企業の希望に応じて適切なスキルをもつWorkforceを、独自システムで効率的に自動マッチングし、必要な時間だけ提供する事業です。

   WaaS事業では2つのサービスを主に展開しており、「CASTER BIZシリーズ」は秘書、経理、人事、採用、カスタマーサポート、マーケティングなどバックオフィス業務が中心。キャスターが受注した仕事を、全国に所在するリモートアシスタントが代行します。

   日常雑務から専門分野まで幅広い業務をトータルにサポートする「CASTER BIZ アシスタント」には、6か月契約と12か月契約の2プランがあり、それぞれ月30時間の利用が可能。6か月契約プランにおける月額費用は約13万円です。このほか「CASTER BIZシリーズ」シリーズには、経験豊富なプロをアサインする「採用」「経理」「労務」「セールスマーケ」というサービスもあります。

   また、「CASTER BIZ アシスタント」のサービス(最低契約時間30時間/月)を20時間/月まで短くした小ロットサービス「My Assistant」も展開しています。主な依頼業務は、軽微なルーティン業務や文字起こし、情報調査等です。

   「CASTER BIZ アシスタント」は顧客企業からの依頼をフロントが整理したうえでキャストをアサインしているのに対して、「My Assistant」は仕事依頼の際に顧客から対応方法の指示を添えてもらい、その指示をキャストが直接確認対応して、そのまま納品しています。このため販売価格も月額4万円と少額となり、個人との契約も増加しているそうです。

   もうひとつの「その他事業」では、リモートワーカーの人材派遣や有料職業紹介の形でサービス提供する「在宅派遣」や、顧客企業が直接リモートワーカーの求人掲載を行うことが可能な、リモートワーク特価の求人メディア「Reworker」を展開しています。

   このほか、事業開発機能において事業領域の拡大に関する調査を実施し、ドイツおよびアラブ首長国連邦ドバイ首長国にて「CASTER BIZ」の海外版の提供を開始しています。

   売上高に占めるWaaS事業の割合は、2022年8月期が79.5%と約8割を占めています。なお、サービス導入社数は2023年5月末現在で累計約4100社に達しています。

コロナ禍をはさんで、リモートワークが珍しくなくなった?

   キャスターの従業員数は、2018年8月期末の35人から、107人、170人、218人と順調に増えており、2022年8月期末には286人、2023年7月31日現在で353人です。平均年間給与は、2023年7月末現在で397.1万円。平均年齢37.5歳、平均勤続年数3.5年です。

   キャスターの採用サイトには、幅広いキャリア求人が掲載されています。本社管理会計業務を担う経営企画室/管理会計担当の想定年収は500~600万円(固定残業代40時間分を含む)。勤務形態は在宅(フルリモート)。副業は副業許可申請を行い、規程の範囲内にて可能です。

   また、主力事業である「CASTER BIZ」などへの登録を含む、キャスターへの採用応募・登録者は月2,000件以上あり、世界22ヶ国、日本国内47都道府県に住む1000名以上(うち雇用社員は約600名)のリモートワーカーが在籍しているとのことです。

   キャスターの大株主は、インキュベイトファンド2号投資事業有限責任組合が21.92%、株式会社ブルーマンデイ(代表取締役の中川祥太氏の会社)が20.05%、グローバルファンドのWiL Fund II,L.Pが11.21%がトップ3。中川氏は個人名でも3.54%を所有しています。

   中川氏は1986年生まれ。2008年4月に日大を中退して下北沢で古書店を開店後、2011年1月にオプト入社。2012年4月にイー・ガーディアンに転じた後、2014年9月にキャスターを創業するという、一風変わった経歴の持ち主です。

   なお、キャスターの上場時の想定時価総額は12.4億円で、累計調達額の26億円を大きく下回ると一部で話題になっています。直近5期間で一度も黒字になっていないことなどが不安視された可能性がありますが、損失率が順調に改善されているのも事実です。

   また、2014年の創業時にはかなり珍しかったリモートワーカーが、想定外のコロナ禍で珍しくなくなった、という見方もあります。

   しかし、優秀な人材不足に悩む中小企業(キャスターの顧客企業の8割以上が従業員300人以下)は、自力でリモートワーカーを調達することが難しいのが現状といえます。このあたりがどう評価されるかによって、上場後の株価の動きが決まってくるのかもしれません。(こたつ経営研究所)

こたつ経営研究会
こたつ経営研究会
有価証券報告書や決算説明書などの公開情報を分析し、会社の内情に思いをめぐらすニューノーマルな引きこもり。昼間は在宅勤務のサラリーマンをしながらデイトレード、夜はネットゲームをしたりこたつ記事を書いたりしている。好きなピアニストはグレン・グールド。嫌いな言葉は「スクープは足で稼げ」。
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