宮城県と山形県を主たる営業基盤とする、じもとホールディングス(仙台市)と、傘下のきらやか銀行(山形市)に、金融機能強化法に基づく180億円の公的資金が資本注入される。金融庁が2023年9月1日に発表した。
地方銀行への公的資金の資本注入は、2017年の豊和銀行(大分市)以来、9年ぶり。コロナ禍で打撃を受けた地域経済の支援を目的とした「特例制度」(コロナ特例)に基づく、全国で初めてのケースとなる。
調達する資金は、きらやか銀行の出資金に充て、コロナ禍の影響で経営が悪化した中小企業の資金繰り支援を強化する。
きらやか銀行、SBIの経営関与いっそう強まる
きらやか銀行と、親会社のじもとホールディングス(HD)は、財務基盤を強化して地域の中小企業を支援するため、金融機能強化法に基づき、180億円の公的資金の投入を求めて、8月25日に金融庁に申請した。
これを受けて、金融庁はコロナ禍の影響を受けた中小企業への支援を目的とした「コロナ特例」を活用し、きらやか銀行とじもとHDに180億円にのぼる公的資金の資本注入を決めた。
金融庁の公表資料によると、公的資金の注入を決めた理由について、
「(ビジネスモデルの転換のための設備資金などを)今まで以上にリスクテイクを行う観点から、きらやか銀行の資本をあらかじめ増強しておくことが必要不可欠であると判断した」
と説明している。
「コロナ特例」は2020年の改正金融機能強化法で設けられた。通常の公的資金の資本注入時に求められる、15年の返済期限や収益性などの数値目標の設定が必要ない。
ただ今回、じもとHDときらやか銀行は、東日本大震災の特例制度(「震災特例」)に基づく公的資金注入の返済期間と同じ、25年後の2048年3月期末までの返済計画を自主的に策定している。
また、じもとHDは資本業務提携しているネット金融大手のSBIホールディングスから、19億6000万円の追加出資を受ける方針を明らかにした。SBIHDが、じもとHDの第三者割当増資を引き受ける。
公的資金注入とSBIHDの追加出資と合わせた資本増強によって、24年3月期の自己資本比率(健全経営の指標で、国内基準は4%以上)は、じもとHDが9.1%程度(連結ベース)、きらやか銀行(単体)が10.7%程度を確保できるという。
一方、SBIHDの株式の保有比率は、議決権ベースで現在の17.31%から33.91%に高まり、じもとHDとってはSBIHDの経営への影響がいっそう強まることになる。
ちなみに、じもとHD傘下のもう1行、仙台銀行も2011年に「震災特例」として300億円の公的資金の資本注入を受けている。
3度目の公的資金 迫る返済期限に資金確保か!?
きらやか銀行は、リーマンショック後の2009年9月に、200億円の資本注入を受けた(返済期限は2024年9月)。東日本大震災後の12年には、仙台銀行と経営統合(じもとHD傘下)。公的資金を受け入れても経営責任を問わないことを明確にした「震災特例」で100億円を資本注入(返済期限は2037年12月)。2度にわたる公的資金の受け入れで、合わせて300億円の資本注入を受けた。
このうち、200億円の返済期限が1年後(24年9月)に迫っている。つまり、今回の公的資金の資本注入とSBIHDからの追加出資で、きらやか銀行は返済の原資を確保したことになる。
そもそも、「コロナ特例」による地銀などへの公的資金の資本注入は、2020年に政府が金融機能強化法を改正したもの。「15年以内」という返済期限をなくし、申請の条件としていた経営体制の見直しを不要としたことで、地銀が公的資金の注入を申請しやすいようにした制度だった。公的資金で地域を支える地銀の財務基盤を強めることで、地元の中小企業への融資を円滑にするのが目的だ。
地方の取引先には、コロナ禍で大きな打撃を受けた観光業や飲食業が少なくない。きらやか銀行は、事業再生に向けた設備投資の資金需要が今後、増えることを、申請の理由としている。
公的資金の資本注入が決まった1日、じもとHDの鈴木隆社長(仙台銀行頭取)は記者会見で、
「昨年5月に(公的資金注入の検討を)表明してから1年以上たったが、ようやくコロナ禍で苦しむ事業者支援をより一層徹底できる。地域金融機関としての責務を全うするべく、グループ役職員一丸となって地元企業の支援によりいっそう努めていく」
と述べた。
きらやか銀行の川越浩司頭取も、「山形の経済を支える責務が認められた」と語り、公的資金をコロナ禍で疲弊した中小企業のために使う考えを強調している。
とはいえ、きらやか銀行が公的資金を受け入れるのは、今回で3度目だ。180億円の返済計画では、同行が2049年3月期までの約25年間にわたり、毎年7~17億円の純利益を積み上げる必要があるという。
ただ、その一方で、きらやか銀行の21年3月期決算はコロナ禍の影響で最終利益が赤字に陥った。国内で超低金利が続くなか、海外債券の運用で利益を得ようとしたが、含み損が膨らんだ。そんな状況で、公的資金は地元で苦境に立たされている中小企業に、ホントに流れていくのだろうか――。
次の「きらやか銀行」はどこ!?
コロナ禍を経た今、資金繰りに窮する中小企業は全国的に増えている。
帝国データバンクによると、コロナ融資後の企業倒産は2023年1~5?に236件となり、前年から約1.6倍ペースで発生した(「全国企業倒産集計 2023年5?報 号外レポート」)。いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済が本格化したことに伴い急増。「このペースが続けば年内にも累計1000件に到達する可能性がある」としている。
コロナ禍に加え、円安や資源高、人手不足など、地方の中小企業の足もとは厳しさを増している。そうした中でも、地銀の多くは地元経済が縮小する厳しい現状から、東京や大阪などの大都市での融資拡大に執着している。
きらやか銀行が「特別」なわけではない。どちらの地銀も思うように収益が上がらず、どうにか踏ん張っているような状況なのだ。
まして、公的資金を資本注入している地銀には、事実上の返済期限が迫ってきており、2024年3月末の南日本銀行(宮崎県)を皮切りに、同年9月末のきらやか銀行(200億円分)のほか、みちのく銀行(青森市)や三十三銀行(三重県四日市市)、同年12月末には東和銀行(群馬県)、高知銀行(高知市)と多くが、順次、返済期限を迎えることになっている。
「震災特例」「コロナ特例」と、未曾有の事態での金融システムの維持と金融の円滑化のためとはいえ、銀行に投入する公的資金は「税金」だ。「使い勝手のよさ」から、2度、3度と受け入れを繰り返し、これでは銀行が生き残るための「延命措置」のように見えなくもない。
ある地銀幹部は、「もはや、モラルハザードが問われる事態になりつつある。新たに税金である公的資金を受け入れるのであれば、確実に経営体力を強化させて、地域に貢献することが不可欠なはず。そもそも、(金融当局の)強制力が働かないことが問題だ」と指摘する。
きらやか銀行への公的資金の資本注入が決まったことで、公的資金が入っている他の地銀も追随する可能性がないとはいえない。
ただ、安易な申請が相次ぎ、国民負担が生じる事態は望ましくない。仮に、金融庁が「1件1行」制を進めたいのであれば、その実現の足かせにもなりかねない。公的資金が返済できない銀行には、抜本的な収益の改善策として「経営再編」への道筋をつけてあげる必要があるのではないか。