政府が5年で1兆円の予算を投じると、大々的に推進を打ち出したリスキリング(学び直し)支援。パートなどで働く主婦層の女性は、どのくらい「学び直し」の意欲があるのだろうか
働く主婦層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2023年9月5日、「学び直しの意識調査」を発表した。
8割以上の女性が「学び直したい」と意欲満々の結果が出たが、実際に取り組んでいる女性は約2割にとどまっている。なぜ、気持ちは強いのに実行できないのだろうか。そこには、働く女性ならではの課題が――。
学び直したいスキル上位は、IT技術、外国語、国家資格...
岸田文雄政権は2023年6月16日、「新しい資本主義」の実現に向けた行動計画「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2023)を公表した。その中で、「成長分野への労働移動の円滑化」が重要だとして、「転職の促進」を掲げている。
企業のリスキリング(学び直し)支援を中心に、転職を希望する個人に、最大で年間24万円の「学習費」を出すなどの施策が盛り込まれている。スキルを磨きたい働く女性にとっても、大きなモチベーションになりそうだ。
しゅふJOB総研の調査は、就労希望を持つ主婦層が中心。まず、「リスキリングなどの学び直しに取り組みたいと思うか」と聞くと、「取り組みたいと思うし、いま取り組んでいる」(19.7%)と「取り組みたいと思うが、いまは取り組んでいない」(62.1%)を合わせて、「取り組みたいと思う」人が約8割(81.8%)に達した【図表1】。
「取り組みたいと思わない」という人は18.2%だけで、かなり多くの女性が学び直しに意欲的なのだ。
どのようなことを学び直したいのだろうか。実際に「いま取り組んでいる人」と「取り組みたいと思っている(が、まだやっていない)人」を比較すると、面白いことがわかった。「IT・WEB・OAなどAI(人工知能)を除くコンピューターの専門技能」「外国語」「国家資格」「国家資格以外の資格」などと、やりたいことの順位はほとんど変わらないのだ【図表2】。
ただ、違うのは「具体的に何に取り組めばよいかわからない」という人が、「いま取り組んでいる人」には4.7%しかいないのに、「ただ取り組みたいと思っているだけの人」には17.6%もいることだ【再び図表2】。
目標さえはっきりすれば、しっかり取り組めるということだろう。意欲はあるわけだから。
最後に、学び直しにどんなメリットがあると思うか、聞いた。これも、実際に「いま取り組んでいる人」と「取り組みたいと思っている(が、まだやっていない)人」を比較すると、まったく同じ傾向が出た。「転職・再就職がしやすくなる」「人材としての市場価値が高まる」「仕事に対するモチベーションがあがる」「賃金が上がる」「ビジネスパーソンとして成長できる」などと、順位はほとんど変わらないのだ【図表3】。
「人生終わりまで一生勉強。学びたいことがあるのは、楽しいこと」
メリットは「わかっちゃいるけど、やれないのです」ということだろうか。いったい、取り組むことができる人と、できない人の違いはどこにあるのだろうか。フリーコメントから探ると――。(カッコ内は年代と、現在の働き方)
まず、いま取り組んでいる人、あるいは過去に取り組んだ人の意見を見ると――。
「生涯かけて何度でも学べばいいし、何度でも転職すればよいと思います」(40代:フリー/自営業)
「子どもだったときは、当たり前に与えられていたから、学びの大切さに気づいていなかった。そのことを後悔している大人は多いと思う。学び直すのっていい」(40代:パート/アルバイト)
「自分はあまり学んでこなかったし、学校で学んだこともあまり覚えていないので、学び直しではなく初めて学ぶと考えている。これからの仕事に必要があれば学ぼうと思う」(40代:正社員)
「40代後半から50代前半くらいに。柔軟に学び直す機会があれば、長く働く人が増えると考えます。社会経験を積んできた環境の人であれば、学び直す機会を大切に利用すると思います」(50代:今は働いていない)
「いくつからでも、学び直しは興味があればできる」(60代:パート/アルバイト)
「子育て中はかなり厳しいと思いますが、最新の知識や技術を知っておくことは大切だ。人生終わりまで一生勉強。使える時間やお金がある限りは様々なことをインプットしたい」(40代:正社員)
「まだまだ現役でいるために、スキルアップしていきたい」(60代:パート/アルバイト)
「学びたいことがあるというのは楽しいことだと思う。なんの役にも立たないかもしれないけど、知ることによって、見えなかったものが見えるようになったり、挑戦してみたくなったりするかもしれない。ワクワクする機会だと思う」(50代:パート/アルバイト)
「自分自身にも自信が持てて、もっと人のためになる仕事をしたいと思えるから積極的に行いたい」(50代:今は働いていない)
こういったアツイ気持ちが相次いだ。ただ、
「仕事をやってみて、やりたい事と違ったり、別の事に興味が出てきたりもする。合わないと思う仕事を続けるより、本当にやりたい事が仕事にできるなら理想的」(30代:パート/アルバイト)
「学び直しはとても楽しいですが、子育てと家事をしながらだと、圧倒的に学ぶ時間が足りない。捻出するには睡眠時間を削るしかない」(40代:パート/アルバイト)
「学び直しをして、自分の就きたい仕事の資格を2つとったけれど、現実は厳しく就職には繋がらない」(60代:今は働いていない)
などと、理想と現実がかならずしも一致しないと訴える意見も目立った。
「時間とお金がない。子どもの教育費がかかる時に自分のことは後回しに」
一方、学び直しに取り組めていない人からは、こんな疑問の意見が相次いだ。
「お金をかけて学び直しをするのはいいと思うが、結局は経験がないのでと断られ、就業には結びつかないのではと思うと、大切な貯金に手を出すのをためらう」(40代:今は働いていない)
「資格を取得しても、実際は年齢で、雇用には至らないケースが多いのではないか」(40代:今は働いていない)
「趣味・生きがいとしての学び直しか、具体的に仕事に結びつけるための学び直しかでは、大きく意味が違う」(50代:パート/アルバイト)
また、何より時間とお金がないと訴える人が多かった。こんなふうに――。
「資格を取るための費用が高くて、取りたい資格も取れない」(40代:パート/アルバイト)
「時間とお金が問題です。子どもの教育費がかかる時に、自分のことは後回しになりがちです」(40代:パート/アルバイト)
「時間があればやって当然。しかし、家事や親の介護関連の用事があると、時間が取れない」(40代:パート/アルバイト)
そして結局、目標が見つからず、気力が続かないと嘆く声が多かった。
「正直、日々の生活で精一杯。そんな気力もない」(40代:今は働いていない)
「いつからでも挑戦することは、私も必要と思っていますが、何から始めていいか...。自分は何を学びたいか見つけられていません」(40代:今は働いていない)
「世の中の情報量が多いのとテンポが早くて何を学びたいか、何をすれば役に立つのか分からない」(50代:その他の働き方)
こういった意見に代表される。
「賃金や昇進の実利より、モチベーションアップの自己投資の意義が大きい」
調査をまとめた「しゅふJOB総研」研究顧問の川上敬太郎さんはこうコメントしている。
「主婦層を中心とする就労志向の女性に『リスキリングなどの学び直しに取り組みたいと思うか』と尋ねたところ、『取り組みたい』と回答した人が8割を超えました。しかし、『いまは取り組んでいない』人が6割なのに対し、実際に『いま取り組んでいる』人は2割に留まっています。
回答者全員に『学び直しには、どんなメリットがあると思うか』と尋ねると「転職・再就職がしやすくなる」との回答が最も多くなりました。さらに、回答を実際の取り組み状況別に比較すると、『ビジネスパーソンとして成長できる』などポジティブな項目の比率は、総じて実際に取り組んでいる人が最も高かったものの、『賃金が上がる』と『昇進・昇格がしやすくなる』には顕著な差が見られませんでした。
学び直しすることで、賃金や昇進といった直接的な実利よりは、転職の可能性や人材としての市場価値向上、モチベーションアップといった自己投資としての意義を感じている人が多いようです。
フリーコメントには、学び直ししたいが、時間とお金が不足しているという声が多数寄せられました。政府はリスキリング時の補助金による支援に取り組んでいますが、実際に学び直しに取り組む人が増えるか否かは、さらに時間の融通も含めた心身のゆとりをケアできるかがカギを握っていると考えます」
調査は、2023年7月11日~18日、求人サイト「しゅふJOB」などに登録している、就労意欲のある女性649人にインターネットを通じてアンケートを行なった。(福田和郎)