なぜ花火の色はカラフルなのか? 「原理がわかる手持ち花火」開発者は、国産ロケット「H2」も手掛けた火薬研究のスペシャリストだった!【後編】/グリーン・パイロラント社長・松永猛裕さん

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   火薬などによる爆発の研究に携わる傍ら、花火のベンチャー企業「グリーン・パイロラント」を設立したのが、元産業技術総合研究所の研究員・松永猛裕(まつなが・たけひろ)氏だ。

   同社が2023年7月1日に発売した「花火の原理がわかる手持ち花火I 色火剤」について【前編】では開発の経緯を聞いたが、インタビューはいよいよ同商品の核心についての話になった。

  • 「株式会社グリーン・パイロラント」代表取締役社長の松永猛裕氏
    「株式会社グリーン・パイロラント」代表取締役社長の松永猛裕氏
  • 「株式会社グリーン・パイロラント」代表取締役社長の松永猛裕氏

分光シートを使って炎色反応を分析しよう!

   <なぜ花火の色はカラフルなのか? 「原理がわかる手持ち花火」開発者は、国産ロケット「H2」も手掛けた火薬研究のスペシャリストだった!【前編】/グリーン・パイロラント社長・松永猛裕さん>の続きです。

――「花火の原理がわかる手持ち花火I 色火剤」には、花火の火薬に混ぜていて、花火の色を出すための薬剤に含まれる元素の炎色反応を観測するための分光シートが付いています。これを、スマホのカメラに装着することで、元素が出している光の成分が観測できるというわけですよね。それにしても、分光シートを使おうという発想はユニークです。

松永氏 産総研の公開イベント(【前編】をぜひご覧ください)で、私は計20年ほど花火作りの実演を行ってきました。その際、もともとは分光器を使って、炎色反応のスペクトルを観測するということをしていたのですが、5年ほど前ですかね......それとは別のイベントで、分光シートを使っていろいろな光を見て遊ぶという実演をやっていた方がいて、それを見て、「あー! これいいね! 同じことができるんじゃないの?」と思って取り入れたんです。

「花火の原理がわかる手持ち花火I 色火剤」に添付されている分光シートをスマホのカメラに取り付け、カメラを起動するとスペクトルを観測できる

――花火の火薬全体における炎色反応の成分は、重量的にはどれぐらいの割合を占めているのでしょうか。

松永氏 火薬8に対し、炎色反応の薬剤は2といったところでしょうか。

――すると、中高生を招くイベントでは火薬で実演を行っていたということですね。

松永氏 いえ、実演会では接着剤の原料であり燃料としても使われる炭化水素のポリブタジエンと酸化剤を入れてこねて、これに火をつけていました。たとえるなら、うどんをこねるような感じです。作っている最中は、見学に来た中高生は半信半疑で見ていますが、火をつけてボワッと燃えると拍手が上がるんです。

――いやー、子供たちの歓声が聞こえてきそうです。

松永氏 そうなったら、次は「じゃあ、これに着色します」と言いつつ、先程挙げた炎色反応を出す薬剤を入れて練り込み、また火をつけるのです。ただ、近年は新型コロナウイルスの流行があったので、最近は行っていません。

――ここにもコロナの影響が......なるほどですね。

ロケットに使う火薬の安全性を確認する実験では、あえて爆発させることもあった!


花火とロケット推進薬には驚くほど共通性があるという

――お話は変わりますが、インタビューの序盤に出てきた「H2ロケット」の開発についてお教えください。

松永氏 ロケットの燃料は専門的には「ロケット推進薬」と言います。私は推進薬の開発ではなく安全評価、すなわち、「推進薬はどんな条件で爆発してしまうのか」といった点についての研究を行っていました。
それから、ロケットが種子島宇宙センターから発射後すぐに墜落してしまった場合の被害のシミュレーションも行っていました。国産ロケット「H2」は1994年に初打ち上げ、そして初成功を迎えましたが、それに向けて1990年ごろから検証を繰り返してきたのです。

――どんな実験だったのでしょうか。

松永氏 墜落対策の実験は北海道の苫小牧の整備中の工業団地で行いました。方法はダミーを打ち上げて落下させるのではなく、横向きに発射して壁にぶつけるというかたちです。実験は実際のスケールの約3分の1で行いました。

――実に大がかりですね!

松永氏 実験は無事に終了しましたが、周辺の住民からは「爆発の大音響でニワトリが大量死した」という苦情が来てしまいました。結局、因果関係は不明でしたが......。

――関連は不明とのことですが、すごいエピソードですね! ところで、H2の固体燃料の成分はどんなものなのでしょうか。

松永氏 アルミ粉末とポリブタジエン、それに過塩素酸カリウムです。

花火に出会う前から火薬の研究はしていたが、それは偶然の出会いだった


自身の研究人生は冗談のような偶然の連続だったと語る松永氏

――花火との出会いとなった、1992年に茨城県守谷市で起きた花火工場の爆発事故の現場検証に参加したというお話がインタビュー【前編】でも出ましたが、ところで松永様と「火薬」とはいつ、どのような出会いがあったのでしょうか。

松永氏 もともと、中学生のころ、大気汚染が大問題になっていて、中学生の時から光化学スモッグの研究をしたいと考えていました。そして、東大工学部に入学し、いよいよ研究室に配属されたのですが、その研究室における光化学スモッグの研究の定員は1名! 他にも希望者がいたのでじゃんけんとなり、私は負けてしまったのです。その結果、「しかたなく」火薬をはじめとする「爆発の研究」をすることになったのです。

――そんな出会いだったんですね!

松永氏 いやー、本当に、「何のためにここまで来たのか?」と思いましたよ。だって、普通、爆発の研究なんてやろうと思わないじゃないですか! 爆発や火薬の研究なんて、ヤバい奴しかやらないじゃないかって(笑)。

――松永様ですら、研究前はそのように思われていたんですね(笑)。

松永氏 実は、私の研究人生というのは冗談みたいな偶然が重なっているんです。私は高校受験では合格間違いなしと思われていた第1志望は不合格で、しかたなく併願校に入学したのですが、その高校には定年間際の化学の先生がおり、その方に師事しました。その先生の経歴は後から知ったのですが、なんと日本軍における火薬と毒ガスの専門家でした。この時が火薬との出会いというわけではありませんでしたが、私は産総研時代に毒ガス弾の処理技術を開発しましたので、これは何かの縁ではないかと......ときどき、神様にドッキリを仕掛けられているのではないかと思うことがあります(笑)。

――背筋が凍るほどの運命的な出会いですね! それでは最後の質問となります。今後の御社の展望をお聞かせください。

松永氏 「花火の原理がわかる手持ち花火I 色火剤」はシリーズの最初の商品ながら、すでに「I」が付いています。すでにお気づきかもしれませんが......そう、第2弾以降、具体的には「II」と「III」の構想があります。

第2弾、第3弾を実現させるべく、日々研究を重ねているという

――どのような商品にする計画なのでしょうか。

松永氏 「II」はチタンなどの金属粉を入れる予定です。チタンが入った打ち上げ花火は炸裂の際にキラキラした輝きを放つので、これを手持ち花火でも実現させるつもりです。「III」は酸化剤の違いが分かる手持ち花火にするつもりです。具体的には硝酸カリウムを使った火薬と過塩素酸カリウムを使った火薬をセットで販売し、その違いを楽しむ花火にするつもりです。

――酸化剤を変えることで具体的にどんな違いが出るのでしょうか。

松永氏 燃える際の明るさに差が出ます。硝酸カリウムは過塩素酸カリウムよりも暗いのが特徴です。なぜ、わざわざ暗い花火を作るかというと、実は、日本は江戸時代までは硝酸カリウムで花火の火薬を作っていたのですが、明治時代に入って過塩素酸カリウムがヨーロッパから入ると、それまでよりも明るい花火が作れるようになったのです。つまり、花火の歴史を学べる商品として完成させる予定です。

――花火への興味がますますふくらむ商品が登場するわけですね。楽しいお話、まことにありがとうございました。

(聞き手・構成/J-CAST会社ウォッチ編集部 坂下朋永)



【プロフィール】
松永 猛裕(まつなが・たけひろ)


株式会社グリーン・パイロラント
代表取締役社長
1960年、静岡県浜松市生まれ。光化学スモッグの研究を目指して東京大学工学部反応化学科に入学するも、火薬をはじめとする爆発の研究に携わることに。1988年に通産省工業技術院化学技術研究所(現在の産業技術総合研究所)入所。同研究所に勤務しつつ、2011年に株式会社グリーン・パイロラント設立。2020年に産総研を定年退官。

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