花火に出会う前から火薬の研究はしていたが、それは偶然の出会いだった
――花火との出会いとなった、1992年に茨城県守谷市で起きた花火工場の爆発事故の現場検証に参加したというお話がインタビュー【前編】でも出ましたが、ところで松永様と「火薬」とはいつ、どのような出会いがあったのでしょうか。
松永氏 もともと、中学生のころ、大気汚染が大問題になっていて、中学生の時から光化学スモッグの研究をしたいと考えていました。そして、東大工学部に入学し、いよいよ研究室に配属されたのですが、その研究室における光化学スモッグの研究の定員は1名! 他にも希望者がいたのでじゃんけんとなり、私は負けてしまったのです。その結果、「しかたなく」火薬をはじめとする「爆発の研究」をすることになったのです。
――そんな出会いだったんですね!
松永氏 いやー、本当に、「何のためにここまで来たのか?」と思いましたよ。だって、普通、爆発の研究なんてやろうと思わないじゃないですか! 爆発や火薬の研究なんて、ヤバい奴しかやらないじゃないかって(笑)。
――松永様ですら、研究前はそのように思われていたんですね(笑)。
松永氏 実は、私の研究人生というのは冗談みたいな偶然が重なっているんです。私は高校受験では合格間違いなしと思われていた第1志望は不合格で、しかたなく併願校に入学したのですが、その高校には定年間際の化学の先生がおり、その方に師事しました。その先生の経歴は後から知ったのですが、なんと日本軍における火薬と毒ガスの専門家でした。この時が火薬との出会いというわけではありませんでしたが、私は産総研時代に毒ガス弾の処理技術を開発しましたので、これは何かの縁ではないかと......ときどき、神様にドッキリを仕掛けられているのではないかと思うことがあります(笑)。
――背筋が凍るほどの運命的な出会いですね! それでは最後の質問となります。今後の御社の展望をお聞かせください。
松永氏 「花火の原理がわかる手持ち花火I 色火剤」はシリーズの最初の商品ながら、すでに「I」が付いています。すでにお気づきかもしれませんが......そう、第2弾以降、具体的には「II」と「III」の構想があります。
――どのような商品にする計画なのでしょうか。
松永氏 「II」はチタンなどの金属粉を入れる予定です。チタンが入った打ち上げ花火は炸裂の際にキラキラした輝きを放つので、これを手持ち花火でも実現させるつもりです。「III」は酸化剤の違いが分かる手持ち花火にするつもりです。具体的には硝酸カリウムを使った火薬と過塩素酸カリウムを使った火薬をセットで販売し、その違いを楽しむ花火にするつもりです。
――酸化剤を変えることで具体的にどんな違いが出るのでしょうか。
松永氏 燃える際の明るさに差が出ます。硝酸カリウムは過塩素酸カリウムよりも暗いのが特徴です。なぜ、わざわざ暗い花火を作るかというと、実は、日本は江戸時代までは硝酸カリウムで花火の火薬を作っていたのですが、明治時代に入って過塩素酸カリウムがヨーロッパから入ると、それまでよりも明るい花火が作れるようになったのです。つまり、花火の歴史を学べる商品として完成させる予定です。
――花火への興味がますますふくらむ商品が登場するわけですね。楽しいお話、まことにありがとうございました。
(聞き手・構成/J-CAST会社ウォッチ編集部 坂下朋永)
【プロフィール】
松永 猛裕(まつなが・たけひろ)
株式会社グリーン・パイロラント
代表取締役社長
1960年、静岡県浜松市生まれ。光化学スモッグの研究を目指して東京大学工学部反応化学科に入学するも、火薬をはじめとする爆発の研究に携わることに。1988年に通産省工業技術院化学技術研究所(現在の産業技術総合研究所)入所。同研究所に勤務しつつ、2011年に株式会社グリーン・パイロラント設立。2020年に産総研を定年退官。