動き出した「NTT法」見直し...与党の狙いは、政府保有株の売却? 防衛費、子育て予算拡大のための「財源確保」の思惑なのか...

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   日本を代表する通信会社、NTTの周囲が慌ただしい。政府がNTT法見直しに向けた議論を始めたほか、自民党もNTT改革に動き出した。

   ただ、政府、与党でその思惑は大きく異なるのが実情だ。NTTはグローバル企業と伍して戦える存在になれるか。それとも単なる「金の成る木」に過ぎないのか。

  • 岸田首相
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NTT法で縛られた「義務」などを見直し、競争力を高める狙い

   松本剛明総務相は2023年8月28日、総務省の情報通信審議会にNTT法の見直しに向けた検討を諮問した。2024年夏までの答申を求めている。

「情報通信を取り巻く環境に対応し、NTTの業務と責務について必要な見直しを議論することになる」

   松本氏は29日の閣議後記者会見でこう狙いを語った。NTTの位置づけを抜本的に見直すことで、海外のIT大手と競争できる存在に脱皮させる狙いがあるという。

   国内の通信事業は長く、旧電電公社が独占していた。

   しかし、1980年代の行財政改革で電電公社は民営化され、85年にNTTとして生まれ変わった。ただ、NTTは完全な民間企業ではない。

   民営化に合わせて施行されたNTT法は、同社に固定電話サービスの維持など、全国一律のユニバーサルサービスを義務として課している。研究成果の公開なども義務づけた。株式の3分の1以上を政府が保有することも明記されており、NTT誕生後も国の強い支配下にあった。

   この仕組みが、NTTにとって重い「足かせ」となった面は否めない。

   発足当初は特許申請数を含め世界の通信会社の中でも「ガリバー」といえる存在だった。だが、ITなど技術革新が加速すると、次第にNTTの苦戦が目立ち始めた。

   携帯電話の普及で固定電話の使用率は下がり続けているにも関わらず、NTT法によって全国一律のサービスを維持しなければならない。

   研究成果の公開義務もライバルを利する結果を招いた。

   こうした点を改革することが、NTTが真にグローバル企業に脱皮するために必要――これが今回の諮問の狙いだ。

NTT株の売却益で、「国民受けの悪い」増税を回避? 不採算地域でのサービスへの影響は懸念

   ただ、その裏にはもう一つの思惑もある。

   松本氏は29日の会見で「政府保有義務を含む担保措置のあり方についても議論の対象になる」と明言した。「3分の1以上」と明記されているNTT株の政府保有比率の見直しも検討事項に含まれるということだ。

   政府にNTT改革を強く求めているのは自民党だ。

   萩生田光一政調会長は8月になってから、党内にNTT法見直しに関するプロジェクトチームを設置した。11月をめどに結論をまとめ、政府の議論に影響を与えようと目論む。

   自民党が目を付けたのがNTT株の売却だ。

   政府が保有するNTT株は、時価総額で約4.8兆円。NTT法を改正し政府保有比率を引き下げれば、保有株の一部売却が可能になる。その売却益を岸田政権が進める防衛費拡大の財源に回そうというのだ。

   党プロジェクトチームで座長に就いた甘利明・前幹事長は「NTT法の廃止も検討事項になる」と明言した。同法の廃止は、NTTの完全民営化を意味する。政府保有義務もなくなり、NTT株をすべて売却することも可能だ。

   岸田政権は防衛費や子育て予算の拡大を相次ぎ打ち出している。安定財源を確保するには、増税に踏み切らざるを得ない状況だ。

   選挙を控える与党は国民受けの悪い増税だけは何として避けたいのが本音だ。NTT株の売却益で当面の増税を回避できるのであれば「渡りに船」というわけだ。

   ただ、財源確保を狙った早急過ぎる動きにはリスクがある。

   NTT法が廃止されれば、不採算地域で通信サービスが使えなくなるなど、国民に不利益が生じる恐れがある。

   NTTは民営化に伴い、旧電電公社から通信設備を引き継いだ。完全民営化に民間通信各社から「公平な競争環境が保てない」と反対論があがるのも当然だ。

   当事者であるNTT内からはこんな本音が漏れる。

「株式売却を含め、今後の議論が変な方法に向かわなければいいが」

   金の卵を産むガチョウを殺す結果にならないことを祈るばかりだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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