あの菅義偉内閣の「携帯電話料金値下げ」政策から2年半。スマホの月額利用料金の平均が4300円であることが、ICT市場調査コンサルティングのMM総研(東京都港区)が2023年8月22日に発表した「携帯電話の月額利用料金とサービス利用実態(2023年7月調査)」でわかった。
この2年半で約1000円安くなったという。これが鳴り物入りの携帯料金値下げ政策の成果か?
その一方で、外国と比較した調査では、海外キャリアの大容量・無制限重視の料金プランに比べ、低容量中心の見劣りがする日本のスマホ事情も明らかになった。
菅内閣の鳴り物入り「値下げ政策」で、安くなったのは1000円だけ...
MM総研の調査は、全国の15歳~69歳のスマートフォン利用者約2万7000人が対象。まず、スマホの月額利用料金について、端末代金の分割支払い分を含まない実際の支払総額を分析すると、利用者全体では4317円だった。
これは、2023年1月の前回調査から141円安くなり、2020年12月時点より1017円の減少となった。2020年12月といえば、菅義偉前首相が携帯電話大手に強力にプッシュした結果、NTTドコモが「ahamo」、ソフトバンクが「ソフトバンクonLINE」(当時、現LINEMO)を出すなど、携帯電話料金の値下げ競争が始まった時期だ。
それ以降、全体で平均約1000円安くなったことになるわけだが、この額を大きいとみるか、少ないとみるか――。
月額平均料金をプラン別にみると、大手4社ブランド(NTTドコモ、au=KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)は5047円。楽天モバイルを除く大手のフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)は2452円。大手のサブブランド(ワイモバイル=ソフトバンク、UQモバイル=KDDI)は3033円。格安スマホ各社(大手4社ブランドとサブブランド以外)は1909円となった【図表1】。
次に、端末の購入金額を聞くと、全体の平均は7万338円となり、前回調査(2023年1月)から677円増加した。
円安・物価高騰の影響を受け、スマホ全体の発売時価格が上がっていること、売れ筋モデルの変化により、2万~3万円台の低価格帯比率が減り、6万円台以上の中高価格帯比率が上昇したことが要因だ。
5G対応・非対応による端末価格の違いをみると、5Gスマホ8万208円、4Gスマホ(3Gを含む)は5万7247円で、両者の差額は2万2961円となった。
料金プラン別に端末価格の違いをみると、大手4ブランドは7万5558円、大手のフィーチャーフォンは2万2595円、サブブランドは6万568円、格安スマホは5万3996円だった【図表2】。
スマホのOS別にみると、iOS(以下iPhone)では9万6184円、Androidでは5万3924円となった。iPhoneのほうがAndroidよりも4万2260円も高い。
5G対応の有無による違いをみると、5G対応iPhoneは10万8258円で、4G対応iPhone(7万9552円)よりも約3万円高い。また、5G対応Androidは6万2032円で、4G対応Android(4万3443円)よりも約1万8600円高くなった。
日本の月間データ通信量、「3GB以下」の人が約6割
ところで、みんな月間データ通信量はどのくらい使っているのだろうか。平均データ通信量は10.33GB(ギガバイト)だが、最も人数が多い人のデータ通信量を示す中央値は「3GB」という結果になった。
細かく月間通信量を見ていくと、「1GB」(27.3%)、「2GB」(10.9%)、「3GB」(18%)となり、「3GB以下」の通信量の人が6割近い56.2%に達することがわかった。
MM総研の調査では、中央値はこれまで長く「3GB」が続いたが、3GB未満の低容量ユーザー比率は減少傾向にあり、1年後の中央値は「4GB」となる可能性もある。
なお、平均利用量に近い「10GB」までのユーザーは77.5%を占め、前回調査より2ポイント減少、その分、「10GB超」ユーザー比率が上昇した。月間通信量は増加傾向が続いている。
音声通話とSMS、海外の大部分プランで無制限
MM総研では、海外の携帯キャリアとの月額料金プランの違いも調べている。比較の対象にしたのは、米国・英国・フランス・ドイツ・オーストラリア・韓国の大手1位キャリアの月額料金プランだ。
日本に限らず、海外キャリアも料金プランを定期的に変えるので、2023年8月現在の状況について、以下の4点をポイントに調べた。
(1)国内通話時間
(2)ショートメッセージ(SMS)送信
(3)データ通信容量(GB)
(4)月額料金
すると、音声通話とSMSは、海外の大部分のプランで無制限となっている。これに対して、日本の音声通話は22円/30秒の従量課金と、5分(10分)/1回の時間制限付きでの無料プランが目立ち、海外と比較すると見劣りする結果となった。
データ通信容量をみると、米国は無制限プランが基本だ。月額料金は60ドル(1ドル=145円として8700円)と高い印象だが、家族で4回線契約する場合は25ドル(同3625円)と半額以下となる。家族セット割は日本でもおなじみの割引だ。
英国では、1GBの低容量から250GBの大容量プランに加えて無制限プランも存在する。ドイツと韓国も英国同様で、10GB以下から200GB超と多様な容量を揃えつつ、無制限プランも用意している。
一方、フランスとオーストラリアは、20GB以下が存在しない点と、無制限プランが存在しない点で共通している。フランスは2021年3月時点では150GBプランの上位として無制限プランも存在していたが、2022年3月時点では最上位が200GBプランで無制限プランが廃止されていた。
日本では複数キャリアで採用している段階制プランが、海外では一切なかった。昨今の段階制プランでは、3GBを超えると、4GBでも100GBでも300GBでも一律の料金となるわけだが、こうして海外の料金プランと比較すると非常に特徴的であるといえるだろう。
低容量偏重の日本、安さのみ追求でいいのか!?
こうしたことから、MM総研ではこう提言している。
「日本ユーザーのモバイル通信量は、中央値3GBで平均10.33GB。6年半で約2.5倍に伸長したが、コンテンツやサービスの発展、5G開始から3年以上経過していることを考慮すると、伸び幅は小さいといえるのではないか。
月額料金は国としての政策方針もあり、2年半で1000円以上安くなった。一方で、データ通信容量が10GB程度にとどまっているのは、月額料金を抑えるために携帯キャリアが試行錯誤して設定している料金プランと、ユーザーが契約プランのデータ容量上限を強く意識した使い方をしているためと分析する。
エネルギー資源や物価高騰の影響は、他業種と変わらず携帯キャリアの収益を圧迫している。そのため、料金据え置きで単純にデータ容量を増量することは困難だろう。海外では消費者物価指数に連動する形で価格改定する事業者も存在している。
海外と比較すると、日本は低容量偏重+段階制という特徴的なプラン構成である現状を認識したうえで、今後は安さのみを追求するのではなく、『無制限』という言葉の意味合いや位置づけを再考し、キャリアにも利用者にもメリットと選択の幅が広がるプランの議論が起きてもよいのではないか」
調査は2023年7月、15~69歳の男女2万7543人にWebアンケートを行なった。(福田和郎)