国内の金の1グラムあたりの小売価格が初めて1万円の大台に乗り、最高値を記録しました!
新型コロナの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻で不安定な経済状況が続くなか、「safe haven」(安全資産)とされる金の人気は世界的に高まっていましたが、円安がさらに拍車をかけたかたちです。
先日、FRBのパウエル議長が「インフレとの闘いを継続する」と発言したこともあり、先行き不透明感が増すばかりの世界経済。果たして、金は本当に「安全な避難場所」になるのでしょうか。
コロナ禍で金価格は7割も上昇!「金に投資しておけば安全」って本当?
1グラム当たりの小売価格が1万円を突破した金価格。地金商最大手の田中貴金属工業によると、直近の3年半余りで「金価格は7割も上がった!」というから驚きです。コロナ禍で世界経済が落ち込むとの見方が広がったことから、株や債券から、資金を移す人が増えたことが「金ブーム」につながっているそうです。
たしかに、数年前から「金価格は1万円を超える」といった「予測」も出回っていましたが、本当に「1万円代の時代」が来てみると、とうとう新しい局面に突入したのかと、感慨深いものがあります。国内メディアも相次いで、「金1万円」のニュースを海外に向けて発信しました。
Gold price in Japan top 10,000yen for the first time
(日本の金価格が、史上初めて1万円を超えた:時事ニュース英語版)
top:~を上回る
for the first time:初めて
ほとんどのメディアが、「1万円を超えた」という表現に動詞の「top」を使っていました。「top」は動詞で使うと「~を上回る」「頂点を超える」という意味です。私自身、「なるほど、『top』で通じるのか!」と目からうろこでしたが、難しい単語や経済用語を使わなくても世界中で通じるところが、英語の面白いところです。
じつは、今回史上最高値をつけたのは「円建て価格」だけで、ドル建ての史上最高値はちょうど3年前の2020年8月につけた2069.4ドルでした。現在は1930ドル前後で推移していますから、円安が円建て価格の高騰に拍車をかけたことは間違いありません。
それでも、世界的な経済不透明感を背景に、「金人気」は根強い様子。あらためて「安全資産」として、金の価値に注目が集まっているようです。
Gold price is in focus as safe haven asset
(安全資産としての金価格に焦点:米投資サイト)
Gold, amid economic risks, high inflation, how to invent in this safe haven?
(経済リスクとインフレ高騰、安全資産の金にどう投資する?:ブルームバーグ通信)
safe haven:安全資産
「safe haven」(安全資産)は、直訳すると「安全な楽園」という意味ですから、「有事」の際の資産避難先として金の価値が高まっているという報道です。
なかには、「金は3000年以上前からずっとsafe havenだった」とする「歴史」を取り上げて金の安全性を強調する記事もありましたが、資産の安全性は他との相対関係で決まります。必ずしも未来永劫、金の安全性が保障される、というわけではないでしょう。
現在は、バブルが指摘されている「株」や、不安定な動きを見せている「債券」や「通貨」などと比較して、「比較的『金』が安全だと評価されている」といった状況でしょうか。
実際、少し前には「safe haven currency」(安全通貨)とされる米ドルに資金が流れ込んだ時期もありましたし、リーマンショックの時は「有事の円」として「安全資産」の円の価値が上がり、急激に円高が進んだこともありました。
こうしてみると、「安全資産」は常に移り変わるようですし、史上最高価格をつけた金に今さら投資して間に合うのか、と悩むところです。数十年単位の長期的視点で見ると、金だけでなく株も右肩上がりの上昇曲線ですが、日々の値動きに耐えるメンタルを保てるものでしょうか。
残念なことに、余裕資産を持たない庶民には、安心して虎の子のお金を預けられる「haven」(天国)は存在しないのかもしれません。
世界が注目!ジャクソンホール会議 パウエル議長「インフレとの闘いは続く」発言の波紋
金価格が史上最高値をつけた背景には、直前に米国西部のワイオミング州で開催された年次シンポジウム「ジャクソンホール会議」で、世界経済の不確実ぶりが明らかになったことが関連していると指摘されています。
世界中の経済エリートが集うこの会議で、世界経済の構造変化やインフレリスクに立ち向かう「前例のないほどの困難さ」が強調されたと、経済紙フィナンシャル・タイムズが伝えています。
'No playbook':policymakers face up to changing global economy at Jackson Hole
(「筋書がない」 ジャクソンホール会議で政策立案者たちが変化する世界経済に直面:英紙フィナンシャル・タイムズ)
playbook:台本、筋書
世界経済をかじ取りする難しさを「no playbook」(筋書がない)と評したのはECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁ですが、とりわけ世界中が注目したのは、FRB(連邦準備制度委員会)のパウエル議長の次の発言でした。
Inflation fight isn't over
(インフレとの闘いは終わっていない)
歴史的なインフレに対処しているパウエル議長が、さらなる利上げによる金融政策の引き締めを示唆した発言は、速報ニュースとして瞬く間に世界中に拡散。株や債券市場が敏感に反応するなか、円安が加速して金価格の高騰につながったと報じられています。
個人的には、ラガルド総裁の「no playbook」(筋書がない)発言の方が、世界経済の予測不能ぶりがひしひしと伝わってきて背筋が寒くなりましたが、パウエル議長のひと言で世界経済が大きく動くことが浮き彫りになった出来事でした。
ここにきて、中国経済の悪化が懸念されるなか、「安全資産」はこの先どう移り変わっていくのでしょうか。金価格もさることながら、「安全な逃避先」の動向に注目していきたいと思います。
それでは、「今週のニュースな英語」は「safe haven」(安全な逃避先)を使った表現をご紹介しましょう。金融以外の文脈でもよく使われるフレーズです。
Starbucks is like a safe haven for remote worker
(スタバはリモートワーカーにとって安息地のようなものだ)
Why the yen has lost that safe haven position?
(円はなぜ、安全資産ではなくなったのか?)
Safe haven dollar climes to 6-week high
(安全資産のドルが6週連続で上昇)
年に一度、世界中のエリートが風光明媚な田舎に集まって経済政策を討議するジャクソンホール会議。英BBC放送によると、自然あふれる土地でハイキングなどを楽しみながら「インフォーマル」に語り合うことで、困難な世界経済をかじ取りする人間関係が育まれるそうです。
もしかしたら、ジャクソンホール会議は、彼らにとっての「safe haven」なのかもしれません。(井津川倫子)