「年収の壁」と「扶養枠」あったほうがいい? 働く女性に聞くと...半数がジレンマに悩む「外すと思いっきり働けて、収入増えた」「税金ひかれて、働き損」

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   「年収130万円」など扶養枠の年収見直しの議論が進んでいるが、パートなどで働く女性は収入の上限をいくらくらいに希望しているのだろうか。

   そんななか、働く主婦(主夫を含む)のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2023年7月31日、「扶養枠はあったほうがよい? 就労志向の主婦・主夫層にジレンマ 扶養枠に関する意識調査」を発表した。

   扶養枠は「必要だ」という人が3割に達したが、扶養枠を外して働きたいという人も増えている。働く女性たちの悩みを探ると――。

  • 「扶養枠」の壁を乗り越えてハツラツと働きたい(写真はイメージ)
    「扶養枠」の壁を乗り越えてハツラツと働きたい(写真はイメージ)
  • 「扶養枠」の壁を乗り越えてハツラツと働きたい(写真はイメージ)

「扶養枠が必要か不要か、一概に言えない」と悩む人が半数

   所得が一定を超えて扶養家族の対象外になるなど、税や社会保険料の負担が生じる主な「扶養枠」と「年収の壁」には、次のようなものがある。

   パートやアルバイトに所得税が発生する「103万円」。勤務先が一定条件を満たすと、厚生年金や健康保険に加入し、新たに社会保険料が発生する「106万円」。そして、夫の社会保険の扶養から外れる「130万円」。配偶者特別控除が段階的に減り始め、その分、夫の税金が増えていく「150万円」などだ。

   岸田文雄首相は2023年2月の衆院予算委員会で、「年収の壁」が非正規労働者の就労意欲を奪って人出不足につながっているとして、「本人の希望に応じて活躍し、収入を増やしていけるようにすることが重要だ。制度を見直す」と述べた。

   現在、政府内で浮上しているのが、106万円と130万円の壁への対応だ。

   具体的には、結婚して配偶者の扶養に入っている人を対象に、「年収の壁」を超えると生じる社会保険料負担を企業が肩代わりすれば、企業にその分の助成金を出すというもの。ただ、未婚の人との間の「公平性」の問題などがあり、議論は進んでいない。

   そこで、「政府の制度変更など待っていられない。扶養を外したくなるような働き方とは何か。いくらの収入の仕事なら扶養枠を外したいか」という観点から意見を聞いたのが、今回のしゅふJOB総研の調査だ。働く意欲がある主婦層(主夫を含む)を対象とした。

   まず、収入の上限に関する希望を聞くと、「収入制限は気にしない」(32.4%)という人が最も多く、3割に達した。次いで、配偶者控除や夫の家族手当の枠内である「年収103万円」(31.7%)も同様に3割を超えた。さらに、社会保険の扶養内である「年収130万円や月収8万8000円」(21.4%)、配偶者特別控除枠内である「年収150万円」(6.0%)が続いた【図表1】。

(図表1)収入の上限に関する希望は?(しゅふJOB総研の作成)
(図表1)収入の上限に関する希望は?(しゅふJOB総研の作成)

   103万円や130万円など、不要枠の上限以内に抑えることを意識している人が、半数以上いることがわかる。

   「収入上限に関する希望」を、2023年(現在)と2021年調査で比較すると、興味深いことがわかった。働き方によって、正反対の結果が出たのだ。

   「収入制限は気にしない」と答えた人が、「パート・アルバイト」では2021年から2023年にかけて、27.8%から20.2%に減ったのに、「派遣社員」では逆に54.7%から57.3%に増えているのだ【図表2、3】。

(図表2)収入の上限に関する希望「パート・アルバイト」2023年と2021年比較(しゅふJOB総研の作成)
(図表2)収入の上限に関する希望「パート・アルバイト」2023年と2021年比較(しゅふJOB総研の作成)
(図表3)収入の上限に関する希望「派遣社員」2023年と2021年比較(しゅふJOB総研の作成)
(図表3)収入の上限に関する希望「派遣社員」2023年と2021年比較(しゅふJOB総研の作成)

   もともと派遣社員は比較的時給(年収)が高い働き方だ。あまり「扶養枠」を意識しないで働いている人が多いのかもしれない。

   さらに、「扶養枠を外す時給ライン」を、2023年(現在)と2021年調査で比較すると、面白い結果が出た。

   「1000円未満でも扶養枠を外して働く」から「1500円以上」までの累積を見ると、2021年の57.5%から2023年は63.4%と、増えていることがわかる【図表4】。それだけ、時給ラインにかかわらず、扶養を外しても働きたい人が増えているのだ。

(図表4)扶養枠を外す時給ライン:2023年と2021年比較(しゅふJOB総研の作成)
(図表4)扶養枠を外す時給ライン:2023年と2021年比較(しゅふJOB総研の作成)

   そもそも「扶養枠」は必要なのだろうか。「扶養枠」についてどう思っているかを聞くと、「必要で、あったほうがよい」(28.3%)が約3割、「不要で、なくしたほうがよい」(16.3%)を上回った。しかし、「必要か不要かは一概に言えない」(48.0%)という意見が半数近くに達し、一番多かった【図表5】。

(図表5)扶養枠制度は必要と思うか?(しゅふJOB総研の作成)
(図表5)扶養枠制度は必要と思うか?(しゅふJOB総研の作成)

「扶養内のわずかな収入まで課税されたら、働く意味がない」

パートで働くと「収入の上限」を意識する(写真はイメージ)
パートで働くと「収入の上限」を意識する(写真はイメージ)

   具体的なコメントをみると、まず「必要だ」という人の意見はこうだ(カッコ内は、年代と収入上限の希望額)。

「夫が、主婦は家事優先で仕事をしてほしいという考えである以上、家事が本業だから」(50代:年収130万円や月収8万8000円)
「育児などで長時間の労働が難しい立場でも、働きに出やすくなる制度だと思う」(30代:年収103万円)
「パートなど収入が少ないのに税金を引かれると、働いている意味がない気がする」(40代:年収130万円や月収8万8000円)
「子どもがいるとき、働かないでもよいようにしてほしい」(50代:その他)
「本当に働けない人のセーフティネットとして必要。働ける人が調整内に収めることを、馬鹿馬鹿しいと思えるくらいに最低時給をあげるべき」(50代:収入制限は気にしない)
「勤務体制が変わり、夫の社会保険から抜けて現職場で社会保険に加入したのですが、あまりに高額でビックリ。これ以上税を掛けられたら、いくら働いても働いた分だけ税金で持っていかれてしまいそう」(50代:年収150万円)

   結局、必要だという人の多くが、

「働きたくても働く時間が限られているので、税制上の優遇は必要不可欠。扶養内のわずかな収入まで課税されたら、もはや働く意味がない」(40代:年収130万円や月収8万8000円)

といった意見や、

「年収として働ける金額が正社員より低いので、税金を取られるなどすれば相当の時間を増やさなければなりません。働き損にならない仕組みを作ってくれるなら考えますが...」(50代:年収103万円)

などと、収入が少ないのに税金にとられるのは不本意だという意見が目についた。

「扶養枠が社会の活力を奪っている。なくせば経済が回る」

職場のシフトも社会保険の扶養内に配慮(写真はイメージ)
職場のシフトも社会保険の扶養内に配慮(写真はイメージ)

   一方、「不要だ」という人の意見はこうだ。

「扶養内で働く場合、残業などがあると出勤日の調整をしなければいけなくなり、企業側にも迷惑がかかる。自分でもやり切れない気持ちになったことがあった」(50代:収入制限は気にしない)
「なぜこのような制度ができたのか理解できない。夫、妻ともに制約ができてしまう」(40代:年収130万円や月収8万8000円)
「みんな健康保険や国民年金(社保等)に加入するようにしたほうがいい。不平等だと思う」(50代:年収130万円や月収8万8000円)
「女性は補助的な仕事をすべきである、と考えられているきっかけの1つとなっている」(40代:収入制限は気にしない)
「ずっと気にしていたが、外したほうが思いっきり働けて収入が増えた」(50代:収入制限は気にしない)
「働けない事情がない限り、成人になったら、税収として個人が支払うべきもの」(60代:収入制限は気にしない)
「扶養、扶養と、扶養を盾に仕事をしない、あるいはできない理由にされると気分が悪い。扶養枠の人の時給を低くして、働ける時間を増やせばいい」(50代:収入制限は気にしない)

   また、不要だという人の多くが、

「主婦や若者の働く意欲を抑制してしまう。なくなったらもっと社会全体の経済が回ると思う」(40代:年収130万円や月収8万8000円)

といった意見や、

「扶養枠があるせいで、しっかりと働くことへのハードルが高くなる。短時間パートか正社員(契約社員)かの2択しかなくなる。もっと多様性のある働き方を選択する自由があるべき」(50代:年収103万円)

などと、扶養枠が社会の活力を奪っているという見方が目立った。

「社会保険を会社が負担しないようにしか、シフトを入れてくれない」

夫が、家事中心で働いてほしいと望むので(写真はイメージ)
夫が、家事中心で働いてほしいと望むので(写真はイメージ)

   さらに、「必要か不要かは一概に言えない」と答えた人の意見はこうだった。

「長期間の仕事に従事できれば、枠から外れて働けばよい。子どもや親の面倒を見る必要がある人は枠内でと、人それぞれかと思います」(70代:年収103万円)
「子どもが小さいうちは、病気や風邪で休むことが増えるので、フルで働くのは難しい。だから、その期間は扶養内であれば控除も受けられて、いいとは思います。子供に手がかからなくなれば、正社員やフルで働くのがいいと思うので、そんな場合は扶養枠はいらない」(30代:年収103万円)

   「一概には言えない」という人のなかには、

「130万円程度では家計に余裕ができるわけではない。せめて、年収200万円ほどは控除内にしてほしい」(40代:年収130万円や月収8万8000円)

と控除枠の拡大を望む人や、企業自身が、

「扶養ではないが、社会保険、雇用保険に会社が入れないようにしかシフトを入れてくれない。結果、人手不足の悪循環になっている」(50代:年収130万円や月収8万8000円)

と、控除を利用するよう仕向ける実態を指摘する意見もあった。

   今回の調査について、しゅふJOB総研研究顧問の川上敬太郎さんはこうコメントしている。

「『収入制限は気にしない』と回答した人の比率は『パート・アルバイト』が20.2%だったのに対し、『派遣社員』は57.3%と大きな差がありました。働き方別で2021年の調査と比較すると、『パート・アルバイト』は7.6ポイント減少したのに、『派遣社員』は2.6ポイント増加しました。
比較的時給が低い『パート・アルバイト』は扶養枠内に収める方向にシフトし、比較的時給が高い『派遣社員』は扶養枠を外す方向へとシフトする二極化の傾向が見られます」
「一方、『時給でいくらなら、扶養枠を外して働くか』を聞くと、2021年調査より、低い金額でも扶養枠を外そうとする方向へシフトしていることが見てとれます。物価高などで家計がひっ迫してきている影響もあるのでしょう。
また『扶養枠をどう思うか』という質問には、『一概に言えない』(48.0%)が最も多く、次いで『必要』(28.3%)、『不要』(16.3%)でした。半数近くが、『一概に言えない』とジレンマを感じているようです。
フリーコメントにも、『制度がわかりづらい』とする声がたびたび見られました。扶養枠をめぐっては、年収上限のあり方だけでなく、制度のわかりにくさも課題ではないかと感じます」

   調査は2023年7月11日~18日、求人サイト「しゅふJOB」などに登録している就労志向のある主婦(主夫を含む)621人に聞いた。(福田和郎)

姉妹サイト