スマホのマナーモードも、オートフォーカスも...世界最小「モーター」は白木社長が開発した 今度の挑戦は「風力発電機」だ!/コアレスモータ 社長・白木学さん

   テレビに冷蔵庫、洗濯機、冷房(クーラー)、電子レンジ、自動車......。モノをつくれば売れた高度成長期。かつての日本製品は欧米からの「モノマネ」と揶揄されていた。

   たしかに、戦後の日本は米国からさまざまなモノが持ち込まれ、欧米に追いつけ、追い越せで切磋琢磨してきた。「いつかモノマネではない、日本独自の製品をつくる」ことが技術者の目標になり、それが日本の「技術力」の源泉になっていた。

   当時の悔しさをバネに、技術者はますます腕を磨いた。その技術力が実を結ぶ――。

   あなたの手にあるスマートフォンのカメラを動かしているオートフォーカスのモーター技術は、じつは「日本製」なのをご存知だろうか。

   開発者は、コアレスモータ(当時の社名は「シコー技研」)の白木学(しらき・まなぶ)社長。そんな敏腕技術者は今、原子力発電に頼らない電力供給を目指す、風力発電機のモーター開発に挑戦しているという。白木社長に話を聞いた。

  • コアレスモータの白木学社長と開発中の風力発電機(撮影:J-CAST会社ウォッチ編集部)
    コアレスモータの白木学社長と開発中の風力発電機(撮影:J-CAST会社ウォッチ編集部)
  • コアレスモータの白木学社長と開発中の風力発電機(撮影:J-CAST会社ウォッチ編集部)

「コアレスコイル」の発想は大学時代にあった

――コアレスモーターは、独自技術によって開発された「コアレスコイル」を使ったモーターです。どのような仕組みなのでしょう。

白木学社長 通常、モーターには鉄芯があります。この鉄芯の部分を「コア」と言います。鉄芯がないとコイルが巻けませんし、通常のモーターはこのコイルの部分で力が発生するわけです。つまり鉄芯、コアがないから「コアレス」なんですが、通常は鉄芯がないとコイルが巻けないのでバラバラになって、モーターが回っていかないのですね。それを回るように円形にして、コアだけを形成できるようにしたのが「コアレスモーター」です。

――コアレスモーターをつくるきっかけを教えてください。

白木社長 きっかけは、私が大学のときですから、もう60年前ですか。大学のとき、私は「コアがなければ、軽くなりますよ」と言ってきました。鉄芯のないパルスモーターは、コアがないので電流の損失がゼロなんです。そうすると、非常に電気効率の良いモーターができます。「そんなにいいとこずくめのモーターならば、つくってください」ということなのですけど、当時はどうやってつくったらよいのか、手立てがわからないわけですよ。その方法を、私はずうっと考えてきたんです。

――独自技術の「コアレスコイル」には、どのような特徴があるのでしょう。

白木社長 コアレスモーターには、「効率」「軽量」という大きなメリットがあります。なにしろ、コイルをぐるぐる巻いていた鉄芯がないのに、圧倒的な力が出せるのですから。そんな薄く軽量化されたコアレスコイルを使った製品の第1号が、「ウォークマン」(ソニー製)。1979年のことです。
当時、バッテリーは6時間が一般的でしたが、コアレスモーターを搭載したことで12時間ぐらいに寿命が延びました。すでに特許が切れていますが、世界中でこれが使われました。いわば、私の「原点」ですね。
その次がビデオデッキのシリンダーモーター。コイルでビデオテープおくる機能です。もう、ビデオテープが消滅しつつありますから、ビデオデッキも目にすることはありませんが、当時は売れに売れました。その分、量産に次ぐ量産で、正直疲れていました。
特許を取得したこともありますが、「コイルをどうやって巻くのか」というところが大変で、他社ではなかなかつくれなかったようです。そこが今もなお「進化」していて、製品としてはまだまだ発展途上ですから50年もかかっているわけですよ(笑)。

携帯電話の「マナーモード」に採用 ピーク時1200万個をつくった!

従来型のモーターと「コアレスモーター」との比較を説明する白木社長
従来型のモーターと「コアレスモーター」との比較を説明する白木社長

――「リニアモーター」にコアレス方式の技術を加えて、業界最小型、最軽量、高出力と高効率を実現した、世界にたった一つのモーターをつくりました。どのような製品に使われているのか、教えてください。

白木社長 モーターは動力です。そういうと大きなものを思い浮かべてしまいますが、小さいものでも大きいものでも動かせるのがモーターです。つまり、動かすものに応じて、それなりの大きさのモーターが必要なのです。たとえば、携帯電話には小さなモーターが必要です。
1980年、それにコアレス方式の技術を応用してリニアモーターを開発しました。これを使って、超薄型のコアレス・ファンモーターを開発。パソコンの熱を逃がすファンの動力として、米インテルPentium第1世代に正式使用されたのが、1994年のことでした。
同じ年に、米モトローラの振動モーター(マナーモード)に採用されたのもそうですが、みなさんが携帯電話で使っているオートフォーカスにも、私が発案したリニアモーターが採用されています。2001年のことでしたね。
それにより、携帯電話のカメラでデジタルカメラのように自動で焦点を合わせることができるようになりましたが、最初に採用してくれたのがシャープとApple(iPhone)でした。

――米モトローラ―製の携帯電話に、コアレスモーターが使われていたのですね。

白木社長 ええ。携帯電話のバイブレーションですね。ブルブルと震える。振動モーターで動いているのですが、これが携帯電話に使われています。いわゆる、「マナーモード」です。
その頃の振動モーターの状態としては、コイルを巻いている基盤の個所が非常に柔らかくなっているわけです。それが携帯電話には、ちょうどよかった。この振動モーターが1994年に米モトローラがマナーモードとして世界で最初に採用した、世界最小のモーターなんです。
当時、日本の大手メーカーでの採用が決まりそうだったのですが、「着信がわからないと電話の意味がない」と、導入目前で却下されてしまったのです。ところが、少ししてモトローラから「誰にも気づかれないように着信を知りたい」と、いわゆる警察や軍事用として使う方向で検討したいと連絡がありました。
それで採用が決まったのですが、なんともアメリカらしいと思いました。それが今、みなさんが使っているiPhoneの中にも、うち(当時はシコー技研)の製品が使われるようになったのです。最盛期で1200万個ぐらい、つくりましたね。

「大きな」コアレスモーターをつくる 風力発電機への挑戦

――今、新たな挑戦を始めたとお聞きしています。

白木社長 これまでは、小さいモーターだけをやってたんですよ。そういったニーズがあったことは確かなのですが、もっともっと大きなモーターで、力が出るものをやってみたいと思うようになりました。iPhoneをやめて、もっとパワーのある、大型の製品をやろうということです。これまでの事業を分割して売却しました。そして2017年に、設立したのが「コアレスモータ」です。新しいチャレンジというか、新しい製品を、そして新しい技術を生み出したほうが社会的な意味があるんじゃないかと思って......ということです。

――それが、小型風力発電や小型水力発電に適した「再生可能エネルギー発電機」用のモーターですね。開発のきっかけと特徴、ご苦労された点などを教えてください。

白木社長 きっかけは、戦争です。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格などが高騰しています。太平洋戦争で日本が戦争に走り始めた時代、広島と長崎に原子爆弾が投下されたこと、東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故を思い出しました。
すべてはエネルギー問題です。そのエネルギーの問題を解決する。自然であれば、エネルギー源の乏しい日本でも電気がつくることができます。太陽光や水、風力、地熱から電気がつくれるのですよ。
いろいろと課題はあることはわかっています。しかし自然の中にもの凄い電力源があることがわかっていながら、なぜ政府はそれを進めようとしないのですか。ぜひ、やってほしいんですよ。エネルギー問題の解決に少しでも貢献したいと思い、「発電をやろう」と決めたのです。
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コイルを巻いてモーターをつくっていく
白木社長 今はモーターの発電効率を上げることを考えています。コアレスモーターは鉄芯をなくしたものの、モーターの出力を上げるにはコアの部分を固くする必要があります。大きな力を出すには、たくさんのコイルを巻かなくてはならないのです。
とはいえ、たくさん巻くと重たくなりますから、軽量化できるよう、いろんな補強材を入れたり、コアを銅板にして巻いたりと材料を変えたわけですね。それにモーターの形も、いろいろな形のものを試作品としてつくりましたし、値段を抑えるためにプラスチックを採用したりもしました。
20数年前から、少しずつですが、15、16種類ぐらい(の試作品)をつくりましたね。そうやって大きな力を出せるコアレスモーターを開発しました。これからは地域で、家で、小型の風力発電機を活用して、電気を増やしていく時代です。

「未完成」のコアレスモーターが世界を変える!?

――軽く押すだけで自動走行する車イスの開発にも力を入れているそうですね。

白木社長 今は新しいモーターに集中しようと考えています。コアレスモーターに打ち込むだけではなく、大出力のモーターを使った、大きい製品の開発に取り組み、実証実験も進めています。軽くても大きな力を発揮できるコアレスモーターの特性を生かした、応用できる製品はいろいろと考えられます。モノを動かす原動力であるモーターには、そういう力と夢があります。
たとえば、将来的には今のようなクルマのエンジンをEVモーターに換えるだけではなく、「イン・ホイール・モーター」で直接回せる特殊なコアレスモーターを採用することにも挑戦したいと考えています。
今、その前段階といいますか、「電動車イス」のタイヤ部分にコアレスモーターを搭載して走行できるように開発しています。ほぼ実用化できるメドが立ちました。タイヤを軽く動かすだけで走ることができますから、障がいがある方などに便利に使ってもらえると思います。
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白木社長は「モノマネはしない。自分たちで考えたものを商品化する」と語る。

――長くモーターの開発、製造に携わってこられました。白木社長を突き動かす「原動力」はどこからくるのでしょうか。

白木社長 私は人のモノマネは絶対にしません。かつて、日本製は米国製にかないませんでした。「猿まね」と言われ、バカにされていたときも、「そんなもんじゃない。日本人として、もっと自覚を持ってプライドを持ってやりたい」という思いがありました。それが学生時代の、一番の原動力ですね。
自分たちで考えたもののほうが良いし、それを商品化して売ろうと。それがわが社の姿勢です。一つは、アイデアが出てきて、それを製品化することが好きだということでもあります。
開発は失敗の連続です。ただ、すべてが失敗だといえば、すべてが失敗ですが、すべてが成功といえば、すべてが成功なんですよ。開発する手を止めなければ、まだまだ、もっといいモーターができるのだから。
私は常に「独自の新しいアイデアを出している製品がありますか」と、私自身に聞いていたいんですね。その時はその商品が一番よかった。今、この時点では前よりは成功しています。でも、これからまだまだ進むに決まっている。進まないと、私の存在意義はない。
みんな、それを「未完成の完成」と呼ぶのですが、そもそも、どんなものも「完成」などということはあり得ないんです。「人生、未完成のままで終わるんだ」と思うんです。それが私のモノづくりの原動力というか、私の思いはそういうところにあります。

――ありがとうございました。

(聞き手・構成/J-CAST 会社ウォッチ編集部)



【プロフィール】
白木 学(しらき・まなぶ)

コアレスモータ株式会社 代表取締役社長

1969年に東京理科大学を卒業後、私設研究所でモーターの研究に従事。1979年、コアレスモータの前身、シコー技研を設立。超薄型コアレスモーターを開発し、ソニーの「WALK MAN」初号機に搭載される。その後、超薄型コアレス・ファンモーターが米インテルPentium第1世代に搭載。1994年には世界最小のモーターが米モトローラの世界初のマナーモード機能搭載携帯電話に採用された。1999年に信州大学大学院総合理工学研究科修了 工学博士。2017年、コアレスモータを設立。
岐阜県出身。

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