実質賃金、プラスに浮上する日はいつ?...GDPは成長しているのに ガソリン、電気、ガス...エネルギー価格の家計負担への不安晴れず

   実質賃金の減少が止まらない。名目賃金は伸びているが、物価上昇に追いつかず、2023年6月まで15か月連続で前年同月比マイナスが続いている。

   4~6月期の国内総生産(GDP)は年率換算で実質6.0%の高成長を記録したが、過半を占める個人消費は前期比0.5%減と、3四半期ぶりにマイナスに転じるなど、消費の下押し圧力も強まっている。

   実質賃金がプラスに浮上するのはいつになるのか。

  • 実質賃金の減少が止まらない(写真はイメージ)
    実質賃金の減少が止まらない(写真はイメージ)
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「名目」賃金は18か月連続のプラス、平均賃上げ率3.6%と好調も...消費者物価の上昇が収まらない

   厚生労働省が2023年8月8日発表した6月の毎月勤労統計(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人あたり賃金は物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1.6%減った。5月の0.9%減からマイナス幅を拡大した。

   ポイントは、この「実質」だ。

   「月給20万円」というように、支給される金額は「名目」の賃金で、これは増えている。同統計によりと、名目を示す現金給与総額は2.3%増の46万2040円と、18か月連続のプラスだ。現金給与総額の伸び率が2%を超えるのは2か月連続だ。

   このうち、基本給や残業代などの「きまって支給する給与」は1.5%増の27万2228円、夏の賞与を含む「特別に支払われた給与」は3.5%増の18万9812円だった。

   賃金上昇は23年春闘の結果だ。平均賃上げ率は3.6%と、物価高や人手不足を受けて前年より1.40ポイント増え、30年ぶりの高水準になった(厚労省まとめ)。名目の賃金は着実に上昇しているのだ。

   一方で、消費者物価の上昇もなかなか収まらない。実質賃金の算出には持ち家を借家とみなした場合の「帰属家賃」を除く総合指数を使う。この指数は、6月に前年同月比3.9%プラスとなり、5月の3.8%から拡大している。

   せっかくの賃上げも、それを上回る物価上昇で手取り(実質賃金)が目減りしているということだ。

6月の家計調査...2人以上世帯の消費支出、前年同月より4.2%減少 全10項目中8項目で前年を下回る厳しさ

   こうなると、賃上げの恩恵を実感できないから、消費にも影響が出ないはずはない。

   総務省が8月8日に発表した6月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は27万5545円と、物価の影響を除いた実質で前年同月より4.2%も減少した。5月の4%減から減少幅は拡大している。

   項目別で見ると、全10項目中8項目で前年を下回った。

   食料は3.9%減と、9か月連続マイナスで「物価上昇などで肉食需要が縮小した」(総務省)ほか、菓子類の支出減も目立った。

   また、エアコン向けの支出が28.3%減、洗濯機は63.6%減るなど、家具・家事用品が17.6%減り、コロナ禍での巣ごもり需要の反動で大幅減になった。

   一方、新型コロナウイルス禍からの正常化でサービス消費は堅調で、国内外のパック旅行を中心とする教養娯楽サービスは4.1%増、外食も1.8%増えた。

   ただ、外食の伸びは5月の6.7%増からは大きく減速するなど、サービス消費にも一服感が出ている。

エネルギーの国際価格が下がらず、補助金での抑制には限界

   今後の見通しは不透明だ。

   まず、政府によるガソリンや電気・都市ガスの価格抑制策の行方だ。電気・ガスの価格抑制策だけで、6月の物価の総合指数を1.0ポイント押し下げている。

   政府の補助は9月検針分まで、電気は使用量1キロワット時当たり7円、ガスは1立方メートル当たり30円を値下げしてきたのが、10月は半分になる。

   11月以降は未定で、予定通り補助が終われば、さらに値上がりして家計負担が増す恐れがあるが、与党では対策を求める声が出ている。

   ガソリン代の抑制策は9月分で終了する予定だったが、ガソリン価格が1リットル=180円を超え15年ぶりの高値で推移するなか、政府・与党は少なくとも年末まで補助金を延長する方針を固めている。

   ただ、電気・ガスであれ、ガソリンであれ、元のエネルギーの国際価格が下がらないなかで、補助金での抑制には限界がある。

最低賃金の引き上げ効果も限定的 「年収の壁」問題への対策も「不透明」

   最低賃金の引き上げの効果も限定的とみられる。23年度の最低賃金(時給)は全国加重平均で41円(4.3%)引き上げて1002円とすることが決まり、10月ごろから適用される見通しだが、物価が高止まりする中では実感は薄れる。

   とくにパート労働者の年収が106万円を超えると、社会保険料の負担が生じて手取りが減るという「年収の壁」があるため、時給が上がってもこの壁を超えないよう就業時間を調整する(減らす)人もおり、実質の収入が増えない。

   政府は年収の壁を超えても手取りが減らないよう対策を講じる方針だが、実効性は不透明だ。

   労務費も含めた価格転嫁が進む環境を政府が整え、企業は生産性を向上させ、24年以降の賃上げ期待を高めていくことが、実質賃金をプラスに転換させるポイントになる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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