福島原発の処理水放出をめぐり、中国政府は日本産水産品の全面輸入禁止措置に踏み切った。
中国市場に頼ってきた水産業者や食品会社にどのくらい打撃があるのか。帝国データバンクは2023年8月25日、「緊急調査:中国の対日輸入規制による日本企業の影響調査」を発表した。
それによると、日本食ブームを背景に中国に輸出を行なっている食品関連会社は700社を超え、6割近い売り上げを中国から稼いでおり、大ピンチにあることがわかった。
中国の日本食ブーム、異業種からも食品に参入
帝国データバンクの調査によると、中国企業に製品やサービスなどを輸出している日本企業は、2023年8月現在、国内に9270社にあることが分かった。2019年調査時点の5045社に比べ、4225社(83.7%)も増加している。そのうち、香港向けに輸出を行う企業は2639社だ。こちらも、2019年から1183社(81.3%)増加した【図表1】。
中国向けの輸出は、現在、中国経済の減速に加え、米中貿易摩擦によって、先端半導体の製造装置などの品目で輸出規制が実施されるなど、先行きの不透明感が強い。
ただ、円安相場が輸出に有利に働いていることに加え、14億人を有する中国市場の大きさを背景に、中国向け輸出を行う企業が増加した。いかに、中国が日本企業にとって重要な存在かわかる。
中国への輸出企業を関連産業別にみると、最も多いのは自動車や家電をはじめとする電化製品、製造機械など「機械・設備」で、全体の約4割(37.8%)を占めた。中国の最終組み立て工場へ向けた部品供給のほか、中国市場への完成品輸出・販売などが多くみられた【図表2】。
次に多いのが、今回の「日本産水産品の全面輸入停止措置」の影響を強く受ける漁業や、農業などの食品加工・販売を含めた「食品分野」(7.8%)だ。このうち鮮魚卸や水産加工など水産品関連を主業とする企業の割合が1.8%だった。
取り扱い品目は、和牛や日本酒、健康・美容系飲料など清涼飲料水、生鮮食品など多岐にわたり、水産品では中国で大人気の干しナマコやホタテなど多様な魚介類がみられた。また、中国での日本産食品がブームになっていることを背景に、異業種ながら食品を取り扱うケースもあった【再び図表2】。
食品会社の「最大の取引先」は中国市場
こうしたなか、特に問題なのは「食品分野」の企業で、中国市場に依存する割合が高いことだ。【図表3】は、各分野の輸出企業1社あたりで、自社の販売額のうち中国向け販売(輸出)が占める割合を示している。
これをみると、全産業の平均は1社あたり42.8%だが、とりわけ、近年の日本食ブームを背景に中国向けの販売が伸びる「食品分野」では1社平均で約6割(55.9%)にも達している。「機械・設備」(34.6%)や「アパレル」(35.5%)など他産業に比べて割合が突出して大きい。全業種に比べても高く、中国向けへの比重が高い傾向がみられた。
さらに、日本産食品への高い知名度や購買力などを背景に食品の輸出先として重要度が高まっている香港では、「食品分野」の占める割合が12.0%(316社)と1割を超えた【再び図表2】。
このうち、水産品関連を主業とする企業は香港向け輸出企業全体の2.1%(56社)と、数こそ少ないものの、販売額のうち香港向けが占める割合はいずれも大きかった【再び図表2】。
今回の「日本産水産品の全面禁輸」措置が、中国市場に頼る食品会社にとって、いかに大きな打撃となったか。帝国データバンクではこうコメントしている。
「中国への食品輸出をめぐっては、従前から中国国内で人気の高いナマコなどのほか、日本食ブームを背景に日本産食品の対中輸出が近年大きく拡大してきた。実際に、中国へ直接・間接的に輸出を行う食品関連企業は、対中輸出全9270社のうち700社超におよぶ。
1社あたりの取引における中国向けの割合も50%を超える企業が多いなど、『最大の得意(販売)先』として中国市場の存在感は大きい。そのため、国内の食品輸出業者に加え二次・三次取引などを含めたさらに多くの企業で甚大な影響が及ぶとみられ、国内市場や代替輸出先の確保といった措置が急がれる」
(福田和郎)