営業利益3兆円達成の見通しだが...ダイヤモンド「史上最強トヨタ」、東洋経済「心理的安全性」、エコノミスト「中国危機」を特集

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   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

トヨタ自動車に死角はないか?

   2023年8月28日発売の「週刊ダイヤモンド」(2023年9月2日号)の特集は、「史上最強トヨタ」。今年4月に14年ぶりの社長交代が実現したトヨタ自動車が、成長街道をひた走っているという。24年3月期通期には営業利益3兆円を達成する見通しのトヨタの実情に迫っている。

   鳴り物入りでデビューした佐藤恒治社長は、4月の就任早々から、電気自動車(EV)に関わる重要戦略をゲリラ的に打ちだしている。会長の豊田章男氏が社長時代に打ち出した「2030年までにEV350万台を販売する」という目標を前倒しし、「26年までにEV150万台を販売する」とハードルを上げた。

   トヨタとテスラのEV戦略を比較し、テスラが足踏み生産の最悪シナリオならば、トヨタが逆転すると分析している。だが、佐藤社長が示したEV目標は、トヨタがEVでも世界一になるためには「最低限クリアしなければならないハードル」だとし、トヨタの戦況が厳しいことに変わりはないという。

   営業利益3兆円という高収益は、半導体不足が緩和したための「挽回生産」と、内燃機関車中心の収益構造によるものだ。トヨタがEVシフトを強めれば、収益構造は大幅に悪化し、「厳しい時代」が到来すると指摘している。

   45歳で1500万円の好待遇を誇るトヨタ自動車だが、就職・転職のための情報サイトには、意外な本音が寄せられているという。

   「トヨタ内での仕事のキャリアはトヨタ内でしか通用せず、転職して他の会社で働こうと思うと、何のキャリアにもなっていないことに気付く」(在籍5~10年、女性)

   「仕事の進め方は旧態依然としたプロセスで進められており、現場レベルでは変えたくても変えられない状態が続いている」(在籍3~5年、男性)

   トヨタ創業家出身の豊田章男氏による経営が14年にわたり続いたため、ひずみも生まれたという。豊田氏の「ご意向」を速やかに全社員に理解させるため、従業員に勤務時間外で、トヨタが運営するオウンドメディア「トヨタイムズ」を視聴するよう求めたこともあったそうだ。

   豊田氏による長期政権で失った、上に物が言える風通しのよい社風や、人材を引き付ける求心力を取り戻すことが重要になる、と結んでいる。

   ところで8月29日午後、トヨタ自動車は国内生産工場のすべての稼働を同日夕方から停止する、と発表した。自慢の生産システムに綻びが生じたとしたら、重大な問題だろう。解明が待たれる。

   第2特集の「天下一! 名古屋経済」も産業、教育、不動産、スポーツなど各分野で名古屋圏の最新事情を紹介し、読み応えがある。

   中部財界でトヨタ自動車の存在感は意外なことだが、大きくないという。中部経済連合会でトップクラスの影響力を持つのが、中部電力で、ナンバー2が岐阜県の電子部品メーカー、イビデンだそうだ。このほか、岡谷鋼機、興和など独特の存在感を示す企業も。

   教育では、愛知県内で比較的知名度の高い公立高校4校(明和、刈谷、半田、津島)が、2025年から「中高一貫」化に踏み切り、東海など名門私立中が、ブランドを保てるか、注目されている。

   なにかと地元志向の強い名古屋圏だが、企業の事業環境が大きく変わるなか、そこに住む人たちの意識も変わるだろうか。

「心理的安全性」に注目する企業

   「週刊東洋経済」(2023年9月2日号)の特集は、「心理的安全性 超入門」。耳慣れない言葉だが、最強の組織を目指すうえで、企業が注目し始めた概念だ。「ブラック企業」はもちろん、「ゆるい職場」もダメ! だというのだが。

   「心理的安全性」とは、組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン氏が1999年に提唱した心理学用語だ。

   組織内で自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる状態を指す。心理的安全性の高い状態が確保されている組織では、絶えず情報が四方八方に流れている。その結果、独創的なアイデアが生まれ、事業におけるイノベーションも起きやすい。

   日本企業が今直面している閉塞感を打ち破る要因の1つになるかもしれない、と指摘している。

   心理的安全性を意識した経営を実践し、全社参加型プラットフォーム「Unipos(ユニポス)」を提供するUniposの田中玄社長は、あなたの会社が心理的安全性を確保しているかどうかのチェックリストを以下のように挙げている。

・自社やサービスの理念・コンセプトなどに共感している
・自分と上司、チーム内の人間関係は良好である(話しやすさ)
・困ったときや悩んだとき、トラブルなどのネガティブな事象が起きたとき、相談したり頼ったりすることに心理的負担がない(助け合い)
・仕事を通じて成長している手応えがある(挑戦)
・前例のないアイデアを言ったり、異質さがあったりしても受け入れられる(新奇歓迎)
・働く仲間について興味がある/知るすべがある

   「心理的安全性 最強の教科書」などの著書がある、プロノイア・グループCEO・代表取締役のピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、心理的安全性とは、次の2つが実現している状態だと定義している。

・メンバーがネガティブなプレッシャーを受けずに自分らしくいられること
・お互いに高め合える関係を持って、建設的な意見の対立が奨励されること

   心理的安全性に着目し、本格的にその向上に取り組み始めた企業もある。スナック菓子大手のカルビーだ。2022年から、課長以上の管理職全員に研修を実施。今年8月、研修の対象を全社員に拡大することを決めた。全16回の研修を全員必須として取り組む。

   心理的安全性を高めることは、社員同士の仲がいい、ゆるいだけの職場を目指すものではなく、健全な意見の対立があり、しっかり緊張感もある組織風土だという。

   みずほフィナンシャルグループもシステム障害を機に奮起し、企業風土の変革に取り組んでいるという。若手社員が社長に直言する「リバースメンター」などを行い、風通しのいい組織を目指している。

   ヒット製品開発の裏にある心理的安全性について、早稲田大学商学部の村瀬俊朗准教授が解説している。今まで組み合わさったことのない要素をいかに組み合わせるか、その組み合わせパターンの幅を作ることがヒットにつながるそうだ。

   会議のとき、「こんな話をしても、もうしょうがないよ」と、それ以上の発言を遮る人を放置してはいけない、と指摘している。どうしようもないアイデアを数多く検討することが大切だからだ。

不動産不況の中国

   「週刊エコノミスト」(2023年9月5日号)の特集は、「中国危機」。中国の最新経済事情をリポートしている。

   8月15日に発表されるはずだった中国の7月の若年失業率(16~24歳)について、中国国家統計局がデータ公表を一時停止した。景気減速を背景に上昇し、6月は21.3%と3カ月連続で過去最高を更新していた。7月は大学生の卒業時期と重なるため、数値が大幅に上昇することが見込まれていたため、政府が公表を見合わせたと見られている。

   深刻なのは不動産不況だ。大手の中国恒大集団が、8月17日に米ニューヨークの裁判所に連邦破産法15条の適用を申請した。より懸念されるのは恒大の4倍以上のプロジェクトを抱える、業界首位の「碧桂園(カントリーガーデン)の帰趨だという。

   外貨建て社債の利払いが期日までに行えず、国内債券の取引を停止した。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「2年前に恒大の経営不安が表面化した時よりも、今の方が事態は、より深刻ではないか」と指摘している。

   大和総研主席研究員の斎藤尚登氏は、「ゼロコロナの後遺症に加えて、民営企業への厳しい規制が経済回復力を弱めている」と見ている。

   大和総研は、23年の中国の実質GDP成長率を5.4%程度と予測。政府目標の5.0%前後は達成できると見立てている。だが、この2年間の平均は4.2%にとどまり、前の2年間の平均5.3%を下回り、中国の成長力は明らかに低下している、と判断している。

   中国の生成AI(人工知能)開発に関する、野村総合研究所エキスパートコンサルタント、李智慧氏のリポートも興味深かった。

   チャットGPTブームを受け、生成AI業界に参入する中国企業は急増。パラメータ数が10億以上のAI基盤モデルが少なくとも79種類発表され、「百モデル戦争」と呼ばれているそうだ。

   その一方、米国の規制強化が足かせになり、先端AI半導体が入手できず、スピードとコストに影響が出ると見られる。

   だが、巨大市場に豊富な応用場面、多くの参入企業があるのは確かで、さらなる発展の可能性があると予測している。生成AIでも米中の競争が激しくなりそうだ。(渡辺淳悦)

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