転機は「会社で初めて悔し涙した日」~業績より、育成にこだわった上司に感謝【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「1」前編】(前川孝雄)

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「期日に間に合わない!」窮地に手が震えた部下...そこで上司は?!

   上司の大島さんは、経理のプロに育てる最終関門として、いよいよ木村さんに年度決算の大役を任せたのです。木村さんはいつもの要領で勉強を始めたものの、壁に突き当たります。「途方に暮れるとはこういうことか...」。解決策がまったく分からず、仕事の手が完全に止まってしまったのです。

   急成長するスタートアップ企業ゆえ、木村さんには部長の大島さんとの間に相談できる先輩もいません。何とかしなければと、夜遅くまで会社に残り四苦八苦を続けるも、今回ばかりは歯が立たちません。「会社の生命線ともいえる決算なのに、このままでは、とても間に合わない...」と、手が震えました。

   「すみません。今回は無理です。できませんでした」。ついに、資料を監査法人に提出するタイムリミットまであと1週間。負けず嫌いの木村さんも、さすがにギブアップ。大島さんに憔悴しながら報告します。

   そう頭を下げた木村さんに、大島さんはさっと1つの書類を差し出しました。何と完璧にできあがった決算資料だったのです。

   大島さんは、育成のために部下に任せた重要な仕事は、自分でも終わらせておくことにしています。上司は手が回らないとか面倒だからという理由で、部下に仕事を振ってはならない、というのが信条。正確性が求められる専門職であるため、部下から上がってきた仕事を検証するにも不可欠と考えるからです。

   木村さんは、完璧に仕上がった大島さんの資料にとても驚きました。しかし、「なぜ早く教えてくれなかったのか」などの不満顔は一切せず、自分の力の無さをただ猛省する様子。大島さんは、そこにも木村さんの成長の跡を見て取りました。

   大島さんが木村さんに手に負えないほど高いハードルの大役を任せたのも、実務がこなせるようになってきた段階で、さらに成長を加速させるためだったのです。

   上司の大島さんの厳しい指導で、失敗経験を学習材料にできた木村さん。しかし、その先にはさらに大きな試練が待っていたのでした。

   この続きは<転機は「会社で初めて悔し涙した日」~業績より、育成にこだわった上司に感謝【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「1」後編】>で紹介していきます。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。

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